[第一章:日常。遊戯の復活。]その3



「ちょ、ちょっと!どうして行っちゃうのよ!?」

 ルキューレとカワシュは、[情報総合体]の山が脇に避けられた道を、教師AZの待つ学校へ向かって歩いていた。

 そしてそれを、先ほどの少女、リメが追いかけてきている。

「話は聞いたでしょ!私はさっきの話の女の子!そして、新しい娯楽をやろうとしてるのよ!今度こそ!」

「いや確かに話は聞きましたが」

 ルキューレは後ろを向いて言う。

「じゃあなんでよ。聞いたなら協力してよ。早い方がいいから」

「…だってあなた。さっきから凄いーだの、ヤヴァイーだの、とんでもないーとかやたら強調した表現付きで、そんな娯楽があると言うばかりで、さっぱり中身を言わないじゃないですか。なんか中身がなさそうな気がするんです」

「いやいや、そんなわけないじゃないの」

 リメは手を横に振って言う。

「……ほんとですかね」

 ルキューレは半目で言う。

 先ほどからリメは、彼の言葉通りの宣伝文句ばかり言う。

 一向に内容を言わないことから、実は娯楽なんてなく、肩透かしを食らわせて楽しもうという魂胆ではないかと、考えてしまっているのである。

 わざわざ自分が噂の女の子とリメが名乗ったのも、うさん臭さを強めている。

「ほんとよ!嘘なんか言ってないわ!ほんとにすっごいんだから!」

「はぁ」

 AZの授業に遅れると何をされるかは分からない。そういった事情があり、かつリメの言葉では授業を押してまで今すぐに協力する気にはなれず、ルキューレたちは歩いていく。

「…くうっ」

 リメは悔し気に声を上げる。

「…そもそも。君は[職人]じゃないんでしょう?」

「…うん?私はリメだし、[職人」じゃないわよ」

 首を傾げる彼女。

「…そうですか。ならなおさら、ほんとか怪しいです」

 この世界の常識として、[情報総合体]はできることが少ない。その一人であろうリメにそんな凄い娯楽とやらができるとも思えない。

 その考えもあることで、リメが騙す気がなかったとしても、協力して退屈が解消できるかは怪しいと思い、なおのこと協力する気は起きない。

(…僕たちができるので知らないとも思えない…)

 ルキューレたちは現状でできる限りの娯楽を既にやりつくしている。他の追随を許さないほどの圧倒的知識を持つ教師AZから与えられた知識を持ってあらゆることをやったため、それはほぼ間違いない。

 そのため、現状できる範囲で知らないものと言うのは考えにくかった。

 リメが本当に凄いと思っていても、彼らにとってはそうでない可能性は大。

 だからこそ、歩みは止まらない。

「お願いよ!ねぇ、はやめに協力を取り付けたいのよ、ね!?」

 リメは必至そうに、二人に追いすがって言う。

(そこまで必死にならなくても。だいたい、何を急ぐ必要があるというんですか。[情報総合体」には時間が十二分にあるというのに)

 などとルキューレは思う。

「…くぅぅぅぅぅ!!お願いよ!」

 リメはその台詞を何度も言う。

 なお、その際は完全横移動しており、二房の髪はその振動でわっさわっさと大きく揺れていた。彼女の焦りでも示すかのように。

「…く、くそ雑魚お兄ちゃん。リメの執念恐ろしすぎない?」

「そうですね。…まるでいくら選択しても落ちない油汚れのごとく、僕たちに粘着しています。逆に怪しさが増すんですけど」

 宗教勧誘のごとく。

(…しかし、嫌がらせなどでここまで粘着しますかねぇ…?もしや本当にあったりして…。中身の感じられない言葉は、ただ彼女に致命的に説明力がないだけだったりして)

 ルキューレはそんなことを考える。もしかしたら退屈により、噂どおりのものがあってほしいという願望でも芽生えていたのかもしれない。

 …と、二人の前に、リメが横走りのまま躍り出た。

「な、なんですか?」

「……ふっふっふっふっふっふっふ」

 戸惑うルキューレに対し、リメは不敵な笑みを浮かべる。

「ふっふっふっふ…はぁっはっはっはぁっはっはっはっはっはぁ…!」

「いや勢いで笑い続けている場合じゃないですよ!何か言いたいことでもあるのですか!?それならどうぞ!」

 言葉通りの意思を示すようにルキューレの手がリメへ振られた。

「え?…えっと、なんだったかしら……」

『……』

 急に言われて、困った様子のリメを見て呆れるルキューレたち。

「……ああそうだったわ!…もうね!ここでの説得は無理そうだから諦めるわ!」

 リメは吐息しつつつ続ける。そして、不審者でも見るような目で見てくる二人を見返し、宣言する。

「だから、待ってて!すぐにあなたたちを魅了するような宣伝を、してあげるから!」

「ほう…」

 ルキューレは期待薄で言う。

「だから、私は行くわ。…じゃぁね!」

 そう言って、リメは近くの角を曲がり、どこかに消えていった。

「…なんだったんですかね、彼女」

「さぁ」

 首をかしげながら二人は歩く。

(…もしも、本当に娯楽があって、魅力的な宣伝をしてくれるのなら)

 ルキューレは、そんな期待を少しだけ持って、目的地へと進んでいった。



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