[第一章:日常。遊戯の復活。]その8

 AZがルキューレを打倒しようと動き出し、彼女が返り討ちにしようとするその最中。

 跳躍してきたときの位置に戻ったノイエは、落ちていた杖を拾っていた。

(…宣伝として、利用させてもらうぞ。お主らの戦いを。予定は狂ったが、修正すればよい!)

 彼女は、槍を構えるルキューレを見つつ、ロボットアームで元に戻した両手で杖を構える。

 そして、大きく口を開いて言う。

「…試製基礎領域、展開!」

『…?』

 突如として放たれたノイエの叫びに、周囲の者たちが反応する。

 その時であった。

「…これは!?」

 体育館内を白い光が満たしていく。

「…なんだ、これは…!」

 ルキューレとAZが驚きの声を上げる中、光は形を変え、体育館の形をなぞる。

 滑るように光は白のラインとして動き、ついには館内全体をなぞりきる。

 そして、一瞬の発光と共に、光は消滅する。

「…うっ。……、これは!?」

 まぶしさで一瞬閉じていた目を開けたルキューレの視界に広がったのは、真っ白な空間だ。

 形は体育館そのもの。だが、全てが白い。まるで、何にも染められていないことを示しているかのように。

「…これは?」

 ふと、ルキューレは自身の右上に表示された枠を見る。

〈ルキューレ:P8000〉

 そんな内容の。

「……一体何を指して。まるで体力か何かでも示しているかのように…」

「その通りじゃ」

 ノイエが、その呟きに応えた。

 彼女はこっそりと舞台上から拾っておいたマイクを手に言う。

『それは、ポイント。この娯楽における、勝敗を決める重要な要素じゃ』

「体力だと?」

『そうじゃな…ふぅ。ああ、お集りの皆さんに言うことがあるんじゃ』

 ルキューレの言葉に頷いたノイエは、体育館内の全員を見回しながら、言った。

『これより、新娯楽(仮)、デモンストレーションを始めるのじゃ!』

 …宣言と言った方が正しいか。

「デモンストレーション?」

『ああ、そうじゃ。これから、そこのルキューレと、AZが[フィールドガジェット]を使った闘いを行う。儂はそれを、細かく解説していく。皆の衆はそれを聞きながら、新娯楽がどういうものか、その一端を掴んでほしいのじゃ』

「ほほう。私はさしずめ、宣伝係と言うことですか」

『…そうじゃな』

 頷き、ノイエはロボットアームでルキューレを指さす。

『お前たちのどちらかのPがゼロになる。それが勝敗の決するとき。お主らは相手のPをゼロにするため、[フィールドガジェット]で得た力を得て闘うのじゃ!』

「…ふふふ。いいでしょう。この私、ルキューレがデモンストレーション、やって見せましょう!」

 ルキューレは胸に手を当てて言う。そして、その感触に眉を顰める。

「…しかしなんで私に胸が」

 その疑問にノイエはまたも答えた。

『[フィールドガジェット]。それは、[情報総合体]の構成情報を読み取り、外装として具現化するものじゃ。内包するものによっては、姿はいかようにでも変わる。特に、通常では現れない性質が、外装の形で現れるのじゃ』

「では、僕の構成情報に…?」

『じゃな。そういう外装ができるような情報があったんじゃろ』

「なるほど…」

 その会話を聞き、周囲の者たちが喋り始める。

 自分たちも、あんなふうに全く違う姿に変われるのでは、と。

 好奇心と期待が、館内の者たちを盛り上げていく。

『…さて。そんなふうに姿を変えたお主らは、構成情報に基づいた能力を、Pの消費を対価にはするが、自在に使うことができる。それは、特殊な技能であったり、技であったり、様々じゃ』

 ノイエは、興奮していく者たちを見下ろしながら、続けた。

『お主らは、それらを活かし、相手のPをゼロにするのじゃ!さぁ、始めるのじゃ!』 

 ロボットアームをルキューレたちに突きつけ、大声で。

(…これで全てではないが、十分じゃろ)

 ノイエはそう思いながら、AZを見た。

『よくもまぁ、ここまでじっと待って居ったな。感謝するぞ』

 不機嫌そうなためか、どこか投げやりにノイエは言う。

 その言葉を受け、AZは言う。

「仕方がないだろう…。授業と同じだ。真面目な解説を、邪魔してはいけない。素直に、大人しく聞くべきだ。……だが」

 AZは、怒りに耐えるため、力んだ結果下げていた顔を上げる。

「終わった今!お前たち不良生徒や不審者を叩きのめすことを、邪魔することはできない!」

 言って、彼女は床を蹴る。

 そして、ジャージの翼を広げて滞空。

「よくもまぁ、好き勝手してくれたなぁ!その代償、高くつくぞ!」

 AZは地上のルキューレを睨みつけ、必殺と呟く。

「私はこのしょうもない娯楽を潰す。不良生徒を矯正し、不審者を監禁し、全寮制を実現させる…」

 彼女の左に浮いた枠の表示が切り替わる。

『めーれー受諾。Pをしょうひ~』

 気だるそうな修道服の、二頭身の少女の声。

「貴様らに徹底的指導を行い。おとなしく授業を受ける超優良生徒に仕立ててやる…」

 〈PSタイプ必殺:しなない程度の竹刀弾幕〉

「…教師の絶対性を、押し込んでやるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「…!」

 地上のルキューレへ向かって、大量の竹刀が次々と打ち出される。

 それを見たルキューレは、

「デモンストレーションというなら、格好よく決めた方が良いでしょうね!外装のおかげか、体は良く動きますし、やってやりますよ!」

「ほざくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 竹刀が、ルキューレへと襲い掛かる。

 だが、それを彼は。

「防がせてもらいますよ」

 構えた槍を使い、弾き始めた。

「何ぃっ!?」

 振りかぶられた槍は光を放ち、その軌跡は斬撃となって空中を猛進。

 一振り、一振り、一振りの度に、軌跡は竹刀を迎撃する。

『…これは凄い。AZの放つ竹刀、その一発一発の威力は高い。全弾の内、数発も食らえば大ダメージな必殺の連射攻撃じゃ。だが、彼は真正面からその危険な攻撃に立ち向かい、ほとんど迎撃を成功させている』

 周囲の者たちが湧く。

 今まで普通の[情報総合体]のルキューレが、[フィールドガジェット]の使用で姿を変え、ここまで見事な技を繰り出せる事実を目の当たりにして。

「……っ」

 AZは苛立った様子で、竹刀をまとめて放ったりもするが、ルキューレは槍を回転させて盾とすることで、それを防ぎきる。

「…では、こちらの番ですね。おとなしくやられてもらいましょう!」

 一旦攻撃が途切れたその時を逃さず、ルキューレは走り出す。

 AZへ向かって。

「貴様ぁ…調子づく、なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 AZの翼が裏返る。

 出現するのは、大量の竹刀。そしてそれらは当然、ルキューレ目掛けて打ち出されてくる。

「…軌道は、単純ですね!」

 ルキューレは言い、床をスライディング。

 頭部への直撃を狙って迫る竹刀を回避し、AZの真下に来たところで素早く床を空いた手で突き、その勢いを利用して体を反転させる。

 そして、屈んだ状態で狙うは、振り向こうとする頭上のAZだ。

「…必殺」

 呟き。それとともに、ルキューレの肩に出現するのは、二頭身の少女だ。

服装は萌黄色の和服で、手に桜の枝を持っている。

『命令をじゅだく。Pを消費!』

 無邪気な声で言い、枝で描かれた文字は、既に出現した枠に表される。

〈PSタイプ必殺:アマツオトシ〉

 ルキューレは床を蹴った。

 背中と腰の翼がはためく。

 一瞬にして彼…彼女は、振り向いたAZの目の前に来る。

 そして、その手に持つ槍は、

「でかい…!」

 三メートルほどの大きさの穂先を持ち、眩い光を放っていた。

『威力は、3000じゃな。Pが満タンなら、耐えきれる程の、中程度の威力の技。じゃが…』

 ノイエは、目を鋭くして言う。

『デモの前よりPを消費しすぎたAZには、致命打じゃ』

「なにぃ!?」

 驚き、彼女は自身のPを見る。

「…!」

 宙にある枠に表示される数字は、たったの500だった。

「…なーんで戦闘前から無駄に使うかなぁ。技は無限にでるわけじゃぁ、ないんだけど」

 気だるげに、AZの肩の少女が呟く。

『敗北じゃな』

「…敗北だと?教師の私が不良生徒に敗北するなんて、あるはずが…」

「あるんですねぇ、これがぁぁぁぁl!!」

 叫びと共に、ルキューレは槍をAZに思い切り叩きつけた。

 直後、まばゆい光を放つ爆発が起き、彼女は床に叩きつけられる。

「ぐっ!?」

『あーあ。負けちゃった。よわいなぁ~』

 修道服の少女が言う中、AZの枠の数字が一気に減っていき、

〈AZ:P0〉

 そんな表示が出る。

 一切の弁明の余地なく、ノイエの語ったルール上では、間違いなくAZの敗北だ。

 戦闘前に、己の気にくわない相手を排除するために無駄遣いしたばかりに。

 調子に乗っていたばかりに。

 …だが。

「……やってくれたな。不良生徒の分際で、教師に唾を付けるとは…」

 AZは起き上がる。

「…珍妙なゲーム上の勝敗など、何の意味もない。たかがカウンターの数字が0になっただけ。そんなものに従い、私が、不良生徒や不審者への敗北を認めると思ったか?」

 落ちている竹刀を拾い、両手で構える。

「…私は決して目的を諦めはしない。この力がある限り、私は貴様らを徹底指導、してやると…」

 AZは、ルキューレを今まで最高レベルの怒気を孕ませて目で見る。

「教えてやる…猛省、するがいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!馬鹿者がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 その叫びと共に、AZは床を蹴り、再びルキューレに襲いかかろうと…。

『あ、爆破スイッチ押して忘れた~ぷに』

 小規模な爆発のようなものが起きた。

「な…」

 それは一瞬にしてAZの衣装を木っ端みじんにし、彼女を床に再度落下させる。

「ぐぇ…なんだ、これは……」

 床にまた叩きつけられたAZは、うめき声をあげる。

 そんな彼女の様子を見て、ノイエがマイク越しに言った。

『言い忘れておったが、Pが0になると自爆する仕様になっておる』

「なんだ、そのいらない仕様…」

 自爆の衝撃のせいか、上手く動けないAZ。

 そこに、一人の少女が歩いていく。

「くそ雑魚お兄ちゃん…」

 カワシュだった。

「…くそ雑魚お兄ちゃんを…しないで」

 そう言い、彼女はAZの顔を踏んづけ、[フィールドガジェット]を取り上げた。

『これにて、デモンストレーション終了じゃな』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る