第24話 センタク
せっかくだから一番良さそうな部分を選ぶのがいい、というのは最初から一貫してずっと思っている。ただその『良さそうな』という部分が気分によって異なるから、全体として見たときにちぐはぐになる。
そのことに気づいたのはおそらく中盤くらいの私で、それまで集めてきたものを試しに並べてみたときに、これはどうなのだろう、統一感がないのではないかと思いはしたはずなのだ。
ではどれか入れ替えようと思って個々に見直していくと、これが決まらない。どれもそのときの私が一番良いと思って選んでいるのは本当だから、どれを残してどれを捨てるべきかという取捨選択に迷ったはずだ。そしてこうも思っただろう――いま決めなくてもいいのではないか。最後まで集めきってからバランスを見て選んでも遅くはないだろう。どうせ時間なんてあってないようなものなんだし――と。
それがわかるのは、私が私であるからだ。ほとんどのパーツが集まりきろうとしていて、これで完成という図が着々と埋まりつつあるのがいまの私だ。序盤の私の計画性のなさに嘆き、中盤で舵取りをしなかった私の迂闊さを呪う、それがいま現在の私だ。選定基準はその時々の私が決定する。私であるから考え自体はわかるのだが、組み立てるときのことまで想像していたとはとても思えない。
左の足首から下は踊りを踊った姫君の足、上は老紳士の足なんていうのはいったいどうすればいいんだ。
こっちのこれも、この鎖骨の形が良いというのはわかる。首筋から鎖骨まで形の良い黒い肌は私も気に入っていた。無人島を生きて脱出した記念の後があるのも良い。だが肩はどうだ、刃物で全身めった刺しにされて唯一無事だった肩。形も色もいささか違いすぎて、鎖骨に接げないのではないか。
いや、まだこちらは人体だ。多少は目をつぶろう。樹木や青銅をそれらしく骨の形に削りあげたもの。こちらのほうがより問題だ。いくら私が器用であるとはいえ、肋骨だか胸骨だかの数本をカルシウムならざるものとすり替えて、人体を成立させられるものだろうか。
臓器のほうも本当にこれですべて足りているか不安だ。美食をよく知る胃というのが二つあるのも気にかかる。これは最終最後につぎあわせる私に選べということなのか。私に決めろということなのだろうか。私の判断にすべてを委ねすぎではないだろうか。
……まあいいか。細かいことはどうとでもなる。
とりあえず先に完成させてやろう。あんまり時間を置くと鮮度が不安だ。首だって、長らく首から下がないのは不便だろう。なんて親切な私、なんて気遣いのできる私! 私が首の首から下を見つけたと聞けば、さすがに仏頂面を崩して喜ぶはずだ。胃がひとつくらい多くてもすぐに気づきはしないだろう。むしろ倍食べられるのだから感謝されるかもしれない。
私が身を削って、身を削いで、ここまで少しずつ集めたのだ。
一番良い箇所を選りすぐって、いったい今でいくつになった。
私は思って、笑みを浮かべたつもりで、石の床をコツコツと鳴らした。この後の作業とは継ぎ合わせていくだけだ。要するにつぎはぎにするわけだが、縫い目が見えると不格好であるし、継ぎ目はなるべく自然なものにおさめたい。腕の見せどころだ。
おっと。
肝心なところを忘れていた。最後に手を調達するのだった。手を最後にするということだけは最初から決めていたのだ。たぶん、決めていたはずだ。でなければ、手なんて目立つパーツを後回しにしないだろう。数多の私を選りすぐっては頂戴してきた、最後の手。必要なのは、ええと、左手だ。右はすでに用意してある、月影を遮って歩いた冷たい手。左肘の切れ目からするとこのくらいの長さでいいだろうか。
コツコツとナイフの背で目測をつける。そういえばこのナイフも、いつだったかに立ち寄った酒場で頂戴したのだったか。懐かしい。あのときの黄金色のソーセージ、燃えさかる火とともに食べた味は忘れられない。身体をつないだら連れて行ってやろう。そのときはきっと隣り合って、ビールをジョッキで二つ頼んで、今度は食べさせてやれるはずだ。
私は。
そのとき私は誰として、首でなくなった首の隣にいよう。
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