第21話 飾り


 私の首だ、と遮った。

 いつもの「むかし、屍鬼ヴェーダがいた」という語り出しを止められて、首はその場でしばし沈黙した。髪の下の形相は一瞬だけ面食らったようにも見えたが、次の瞬間にはさしたる驚きもなさそうに、

「誰の首や思うてたん」

 と、ぼそぼそ言った。

 言われてみれば知った顔、であるとはどうも思われない。浮かんだままを言葉にしただけで、目の前の首がどうして私の首になるのか、実感は湧いてこなかった。だが首の言葉は、私の言葉を肯定したものであるとしか思われない。要は、

誰の首だと思っていたのか、

いままでいったい私以外の誰の首だと、

だ。訛ってはいるが。何で訛ってるんだ。

「細かいことはええ。自分相手にとりつくろうこともあらへんやろ」

 首はうるさそうに言って私をつかみあげた。やはり私は首だけで、首のほうには腕がある。つぎはぎの腕、なのだろうがいまはよくわからない。首は目の覚めるような青色の外套を着ていた。私の外套だ。私の首が私の外套を着ている。私が着ているわけではないのに。

「せやからこんなん飾りみたいなもんやろ。別にいらん。頼んでへん。手も足も、取れるだけ取ったらあとは頭くらいしか残らへんで困ってんのに。ほんまはここでこうしてしゃべってんのも億劫で、余分」

 首は顔をしかめ、二度三度と咳き込んだ。長台詞を話す、それ自体が苦痛とでもいうようにいがらっぽい喉を鳴らす。顎から喉にかけて、浅黒い肌の切れ目はやはり別の肌につながっている。首は首だ。首から下は首の本来のものではない。

 だがそれなら私はどうなる。

 私は私としてここに首の状態であるというのに、私の首が首として別に存在するのはいったいどういった理屈なのだろう。

「自分で考えな」

 首は言った。

「言うたやろ。謎かけなんやから」

 今回はまだ言ってないだろうが。私が言うと、首はまったく面白くない返答を聞いたとでもいうように手を離し、私は再度硬い床の衝撃を味わうことになった。



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