第5話 チートには神の試練が必要?


「ち、チート能力は与えられないのじゃ……」


 新米女神ちゃんは困った顔だ。


 前に聞いた時も無理と言っていたのは覚えているが、一般人が異世界に転生してもなかなか生き残れない。


 異世界転生作品でうまくいくのは、大抵がチート能力を得た凡人か特別知識を持ったエリートだ。


 後者は醤油とか石鹸とかマヨネーズの作り方を知っているが、それが一般常識とは思えないし。


「理由を教えていただけますか? 抜け道などがあるかもしれません」


 マヘキさんのメガネがキラリと輝く。


 確かに新米女神ちゃんはわりと抜けているところがあるし、チート能力が与えられない理由次第ではなんとかなるかも。


 あるいはチートとまで言えなくても、一般人より多くの魔力を持っているとかも。


「あはは、それはボクが説明するよ。新米女神ちゃんの異世界転生は、まだ始まったばかりでまだ酷い状態だよね? 転生者は三分でほぼ死ぬし」

「酷いというより惨いですね」

「そういうわけだから現状だと、新米女神ちゃんが転生させられる魂は悪人だけなんだ。善人に転生させたら、悪いことしてないのに罰になっちゃうから。悪人にとって異世界転生はご褒美なんだよ。転生して死んだら罪が消えるからね」


 三分で死ぬ異世界転生がご褒美とは世も末である。


 悪人として死ぬと地獄なんだな……悪いことはせずに生きよう。


「ただそんな悪人だから、これ以上の特権を与えるわけにはいかないんだ。ただでさえ大盤振る舞いの救いなのに、チート能力を渡したら楽過ぎるよね?」

「つまり異世界転生は地獄送りだから、楽にすることはできないと……?」

「悪人の魂ならそうなるね」


 ヴィナス様は人差し指を立ててウインクしてくる。可愛い。


 なるほど。悪人の魂に特権を与えるわけにはいかないのは、確かにもっともな理由だ。


「しかしそうなると悪人の魂を転生させるなら、苦しませて殺すのが正しいということですか?」

「違うのじゃ! 転生者が苦労しつつ異世界の役に立って、生き残る分には大丈夫なのじゃ! チート能力でなんでも楽勝だと、苦労がなくなるからダメなのじゃ! それならチート能力のために神の試練でも与えないと」

「与えたらダメなのですか?」

「神の試練は巨大ドラゴンと戦わせたり、大海原を泳ぎで渡らせるとかじゃ」

「それができるなら、チート能力がなくても生き残れるな……」


 神の試練を与えないとチート能力付与できないが、神の試練がクリアできる人材ならそもそもチート能力が不要と。


『ぐわああああ!?』


 モニターから新たに送られた転生者の悲鳴から聞こえた。


 どうやら転生初期地点を森に戻して、箱ゴブリンに殺されてしまったらしい。


 たぶんもし生き残ったらラッキー程度のノリで転生させたのだ。本当に悪人が使い捨ての駒だな。


 これ見てたら罰にしか見えないから、悪人の魂の地獄送りという点では見事に成功しているのだが。


 しかしチート能力を持たせると罰にならないから、生存率を上げられないのは厳しい。


 いや待てよ?


「ちょっと思ったんだけどさ。チート能力でも楽勝じゃなければいいんじゃない?」

「どういうことなのじゃ?」

「えっと。例えばチート能力には代償があって、使えば使うほど苦しむとか。それなら罰になるんじゃない?」


 創作系においてデメリットのある強さは定番だ。


 例えば魔法を放つ度に地獄の苦しみに襲われるとか、血を吐いて死にかけるとか。


 そんなことを考えていると、いつの間にか隣にいたヴィナス様が俺の腕に抱き着いてきた!?


「君、面白いこと考えるね! いいよそれ! 本当にいい!」


 めちゃくちゃ好みな娘に抱き着かれて、ドキドキしながらなんとか平静を装おうとする。


 落ち着け、ここで引かれたらマズイ。ええい心臓め無駄に高まるんじゃない止まれ!


「そ、そう? そこまで褒められるとは」

「苦しむのは最上の美だよね。生命の本当の美しさは苦しみによって発現する。簡単に死なせるんじゃなくて、もっと苦痛を与えるべきだよね」


 俺の心臓の高まりが一瞬でおさまった。


 やばいヴィナス様怖い。


「それはいい案なのじゃ! じゃあチート能力を与える代わりに、使ったら死ぬ方がマシと思える痛みが走るようにするのじゃ!」

「そ、それはやり過ぎなような」

「これで今度こそ確実なのじゃ! 行くのじゃ転生者! 今度こそ五分は生き残れるはずじゃ!」


 五分の生存で喜ばれる転生とか、もう死亡確定の実験でしかない件。


 本当に新米女神ちゃんは聖神なのだろうか。やっていることは邪神よりも酷いのでは?


 もう転生者モルモットと書く方が正しいのではないだろうか。夢も希望もない異世界転生である。


 そうしてモニターには新たな犠牲者、いやモルモットが映し出された。




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ぶっちゃけこの作品自体が実験というか、モルモットなところはあります。

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