第2話 異世界転生を司るって具体的にはなにを?



「おらぁ! 死にさらせ化け物どもがっ!」

「「ごぶぅぅぅううううぅぅぅぅぅぅ!?!?!?!?!?」」


 俺は緑の箱の小人みたいなやつを、二体ほど剣で切り刻んだ。小人どもはまるで助けを求めるかのように断末魔の悲鳴をあげて力尽きる。


 俺は異世界転生したと奇天烈な少女に説明されて、この世界とやらにやってきた。

 

 なぜか変わった刀が地面に捨ててあったのでそれを拾うと、いきなり化け物どもが襲ってきたのだ。


 だがこちとら殺しには慣れている。なにせ俺は五人も殺してきた猛者だ。


 物の怪の類だろうが斬れるなら殺せるってなぁ! せっかくこの世界とやらに生まれ変わったのなら、女を犯したりもできるってことだ!


「へへへ、近くの民家を探さなけりゃなぁ。食料と女にありついて」

「その必要はない。貴様はここで死ぬのだから」


 いきなり声がする。周囲を見渡すがどこにも誰もいない。


「上だ。愚かな人間よ」


 その声に従って空を見上げると、木の棒で作られた人型みたいなのが飛んでいやがる!?


 目も口もないのにどうやって喋ってるんだ!?


「なっなっなっ!?」

「私は魔王陛下四天王が筆頭、ディアベルバル。貴様の命はもらい受けた」


 そう言われた瞬間、俺の身体が一気に膨れ上がった。


『ああっ!? 男の全身が爆発してミンチになってしまうのじゃぁ!?』


 そんな言葉を最後に聞いたのだった。




^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^




 ここはとある寺院を模した部屋。


 俺と新米女神ちゃんは頭を抱えながら、モニターに映し出された映像を見ている。


「……なにいまの!? 魔王陛下四天王が筆頭ってなに!? というかさっきから悪党ばっかりなの!?」

「だって異世界転生は実験段階なんじゃから、罪あるもので試さないとまずいじゃろ!? 魔王は倒すべき敵として用意したのじゃ! 悪人異世界転生させるなら、ちゃんと義務与えないと禊にならんじゃろ!?」

「異世界転生って禊なのか!?」

「現世の全部なかったことにするんじゃから! そりゃそうじゃろ!?」


 ……新米女神ちゃんと異世界転生の話をして、分かったことがある。


 まずさっきから異世界転生させている世界だが、新米女神ちゃんの自作だ。


「とりあえず! 魔王四天王筆頭を初期転生地点の近くに置いたらダメでしょ!?」

「確かにその通りじゃな! 魔王城の近くに配置するのじゃ!」


 新米女神ちゃんが手を鳴らすと、巨大なテーブルがいきなり出現した。よく見るとテーブルの板部分は液晶ディスプレイだ。


 ディスプレイに表示されているのは、すさまじくきれいな長方形の土地の地図。そして地図には大量の小さな駒などが表示されている。


「えーと。ディアベルバルを魔王城の近くに移動、じゃっ!」


 新米女神ちゃんはディスプレイ上の駒を手でタッチすると、それを移動させた。


 まるでゲームでワールドを作るかのようなノリで、敵とか武器とか用意したり配置を決めたりしている。


「どうじゃ? この世界の形いいじゃろ? 我が一分で描いた自信作じゃ!」

「定規で書いたの?」

「うむ!」

「このすごくきれいな長方形の土地に、異世界転生させられるの?」

「うむっ!」


 定規で書かれた世界に転生させられるとは、前世でそうとうの悪行を重ねないとないだろうな……。


 そういえば異世界で出てくる魔物、箱とか棒人間だったが…………。


「新米女神ちゃん。もしかして異世界に出てくる魔物とか人間も、定規使ってデザインでもした?」

「うむ! 我はあまりデザインが得意ではないからの! ほれこれが新作の魔物じゃ!」


 新米女神ちゃんが取り出した和紙には、正方形の箱に顔がつけられたのが描かれていた。


 そしてその和紙がふわりと投げられると、テーブルのディスプレイモニターに吸い込まれていく。


「よし! これで新たな魔物が異世界に生まれるのじゃ! 異世界基準で二日後くらいには呼び出せるのじゃ!」

「えっと、いまの魔物ってなに?」

「スライムじゃ!」

「スライムってもっと丸いイメージなんだけど」

「うまく円を描けなかったのじゃ!」

「……せめてコンパスとか使えない?」

「その手があったのじゃ!?」


 なんだろう。目の前の美少女がとても神様の類とは思えない。


「そういうわけでボーグマンよ! 転生者に喜ばれる異世界を作り上げるのじゃ! そうすれば我は感謝されて神気を得られるのじゃ!」

「えっと。とりあえずデザイン担当を用意するところからかな……」

「別に魔物なんて見た目はどうでもいいと思うのじゃ」

「いや棒人間や箱が敵だと、攻撃の予備動作がまったくわからないと思う……」


 あのボルバルザルとかいうやつ、棒人間のせいで目も口もないからな。


 生物ならあるだろう視線とかの類が消え去っているのだ。ゲームの敵で出てきたら理不尽感ある。


「な、なるほど! わかったのじゃ! じゃあお主にデザインを!」

「ごめん。俺も絵はちょっと……」


 自慢じゃないが俺は中高と美術は欠点ギリギリだった。


 新米女神ちゃんよりは流石にマシだろうが、とても新たな生命を生み出せる画力はない……! 可哀そうなキメラをこれ以上作ってはいけないんだ!


「ぐぬぬ! なら援軍を呼んでくるのじゃ!」


 そう言うやいなや、新米女神ちゃんの姿が消えた。


 そしてしばらく待っていると。


「助っ人を連れてきたのじゃ!」


 襖がガラッと開かれて新米女神ちゃんが戻ってきた。さらに彼女に続いて二人の者が部屋に入ってくる。


 方やボーイッシュな服装をした活発な少女で、もう片方は眼鏡をつけたインテリっぽいスーツ姿の青年だ。


「こちらはあの偉大なる美の女神! ヴィナス様じゃ! デザインならば美こそ必要と思って手伝ってもらうのじゃ!」

「すさまじい援軍来たな……」


 もう援軍というより本隊ではなかろうか。たぶん俺と新米女神ちゃんが斥候扱いだ。


 しかし偉大なる美の女神と言う割には、かなり可愛い見た目だ。正直好みドストライクで見た時にドキッとしたが、なんというか美の女神にしては違和感がある。


 美というのだから、もっと美しいお姉さま系のイメージだった。


 するとヴィナス様は俺のほうを見て、ほのかに笑った。


「ふふ。ボクの姿や言葉遣いは、聞く人の理想的な見た目になるんだ。だからボクがボーイッシュな見た目なのは、君の性癖がそうだからさ!」

「ボーグマンの性癖はボーイッシュなのじゃ」

「自己紹介する前に性癖を知ることになるとは、君もなかなかやりますね」

「やめてっ!?」


 な、なんて恐ろしいんだ美の女神!? 性癖暴露神様じゃないか!?

 

 でもやはりものすごく可愛いヴィナス様に見とれていると、新米女神ちゃんがコホンと喉を鳴らした。


「そしてこっちは我の唯二の友人じゃ!」 


 そういえばもう一人いたんだった……でもあまりに衝撃的だったヴィナス様に比べると、かなり普通そうだ。


 それに友人ということは人間だし、見た目も普通の理系サラリーマンだ。よかった、のじゃロリ神に美の女神と個性強すぎるメンツだったから。


「この者は魔法少女は一般性癖じゃ! 仲良くするのじゃ!」

「魔法少女は一般性癖です。よろしくお願いします」


 ????? 


 困惑して頭が働かない。いったいどういうことだ?


「おっと失礼。これでは分かりませんよね。私のネットネームが【魔法少女は一般性癖】なんです」

「この人、ボクの姿も魔法少女に見えてるから筋金入りだね!」

「自分のネットネームに嘘は書きませんよ。ただ長いので略してマヘキとお呼びください。それと魔法少女のアイデアはお任せください」

「期待しておるのじゃ!」


 見た目の割には少し変わっている人のようだ。まあ新米女神ちゃんやヴィナス様に比べれば普通か……? 


「ところで異世界には魔法があるとは本当なのですよね?」

「あるのじゃ!」

「なるほど。つまり本物の魔法少女を嫁にすることも可能と。素晴らしい」


 あ、ダメだ。この人言うほどまともじゃない。


「この四人で異世界を作っていくのじゃ! まさに一部の隙も無い完璧な陣営じゃ! 勝ったのじゃ!」


 完璧にヤバイ陣営だ。いったい異世界はどうなってしまうのだろうか。

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