新米女神ちゃんは異世界転生を司る神様になって、めちゃくちゃな世界を創るようです ~すぐ死ぬ転生者を救うためにご都合主義を考えよう。初期地点に武器を置いたり王城に召喚したりで~

純クロン

第1話 我は異世界転生を司る神様になるのじゃ!


「くくく。どうやら俺にもまだツキが残っていたようだな」


 俺はなにもない森を見渡してほくそ笑む。


 俺は地球で三人ほど強姦した後、銃で撃たれて死んでしまった。


 だがなにやら異世界転生だか異世界転移の人材に選ばれたらしく、地球ではない世界へと飛ばされたのだ。


 この状況は半信半疑だ。いきなり真っ白な空間で少女に説明されて、気が付けば森の中にいただけ。


 だが銃で腹部を撃たれて、「あ、これ死んだ」と感じた記憶はある。なのでなんとなく異世界転移したのが真実と思ってしまっている。

 

 へっ、ここが地球だとしても捕まる前に逃げるだけだ。結局状況は好転しねぇ。


 そう思った瞬間だった。ドタドタと走ってくる音が聞こえてきた。


 その音はどんどんこちらに近づいていく。慌てて逃げようとするが、どうやら遅かったらしく茂みから飛び出してくる。


 ちいっ! 最悪だ! すでに警察が……と思ったがその考えは即座に否定された。


 目の前に現れたのはブロックを組み合わせて作られたような、緑の肌を持った小さな人型。


「は、ははは……なんだてめっ」

「ゴブゥゥゥゥ!!!!!」


 謎生物は剣を持っていて、俺に向けて突進してくる!?


『ああっ!? また死んでしまうのじゃぁ!?』


 俺に異世界転生の説明した少女の声が、周囲に響くのが聞こえ……。





^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^





『うーん……弱ったのじゃあ。ボーグマンや、我はなんの神様になるのがいいかのう』


 自室でオンラインゲーをやっていたら、いつものボイスチャットフレンドの女の子がそんなことを言ってきた。


 ボーグマンは俺のネットネームだ。由来はもはや忘れた。


『聞いておるのかー? ボーグマンー』


 彼女の突拍子のない話はいつものことだ、電波系配信者でも目指しているのだろう。


 それと実は彼女じゃないかもしれない。ボイスチェンジャーがあるから声なんていくらでも偽装できるしな。


 ヘッドホンから流れてくる声が本物とは限らない。


 というか彼女はいつ見ても通話系のアプリがオンラインになっているが、ニートの類なのだろうか?


 いや俺もほぼPCの前にいるから同じか。現在大学四年生の春で単位も取り終えて、就職先も決まったからほぼニート生活を送っている。


 こんな時間がある時しかできない特別なことをやりたい気もするが、特に思いつかずにダラダラと暮らしていた。


 誰にだっていろいろな事情がある。他人のことを悪く憶測するのはよろしくないな。気を付けよう。


「ゲームの神様でも目指せばいいんじゃないか?」

『すでに担当神がいるのじゃ。スマホもパソコンも有名で思いつくものは大抵取られてるのじゃ」

「神様いっぱいいるんだなぁ」

『八百万の神って言うじゃろ? 我もその一柱なのじゃ。新米なのでまだ担当が決まってなくて、早く決めないとまずいのじゃ。でも知名度のないものだと、まともに感謝されず神力が得られなくて困るのじゃ……』

「神力?」

『食事みたいなものじゃ。今は上位神様から頂いておるが、そろそろ自立せねば……』


 ネットネーム【新米女神】ちゃんは、ちょくちょく妙な話をしてくる。


 やれ今年は水神の機嫌がいいから水害が起きるとか、風神が風邪引いてるから台風が少ないとか。


 ネットネーム通りの設定を貫いているのは好感が持てるし、それが面白いからボイスチャットしている。


 他にはこの子は世間知らずな演技が上手だ。


 例えば現総理大臣の名前を聞くと「えーっと、誰じゃったかな」ではなく「総理大臣ってなんなのじゃ?」と尋ねてくる。


 総理大臣の名前どころか、総理大臣すら知らない無知っぷりの演技を即興で考えるのだ。これは才能の類だろう。


 でも今回はいつもよりも真面目そうな声のトーンだな。


「輪ゴム神とかどう? 使い勝手がいいわりに選ばれなさそう」

『とっくの昔にいるのじゃ! 輪ゴム担当となった神様はまさに勝ち組なのじゃ! いろいろな人に感謝されていっぱい神力得られてるのじゃ!』

「もういるのか……じゃあゴキブリ捕獲器とか」

『輪ゴムと同じくらい勝ち組なのじゃ! 役に立つものは大抵おるのじゃ! 爪切りとかもおるのじゃ!』


 まじか。神様の担当広すぎるだろ。


「神様なぁ。そういえば最近の作品で、神様がミスで人を殺してしまってお詫びに異世界転生とかよく見るなぁ」


 異世界転生。もはや創作ジャンルのひとつとして完全に定着し、大人気になっている存在だ。


 その転生の理由づけはいろいろな手が使われているのだが、神様のミスで転生してしまったのをいくつか見たことがある。


『異世界転生を司る神はいないから、本来はあり得ないのじゃ。魂は輪廻転生して、地球で生まれ変わるのじゃ』

「なら新米女神ちゃんがなればいいんじゃないの?」


 なんとなく何気なくの言葉だった。


 そもそもオンラインゲーしながらの雑談なので、むしろ意識はゲームのほうに集中している。


『……そ、それじゃ! 昨今流行しているから知名度もあるし、神はそういうの疎いのが多いからまだバレておらん! ちょっとダイダラボッチ様に確認してくるのじゃ! 魂を輪廻じゃなくて異世界に転生してもいいか!』

「いってらー」


 新米女神ちゃんはログアウトしていく。


 それから数日ほど経つが、新米女神ちゃんのアプリログイン履歴が三日前になっている。


 ……普段なら四六時中いるのに珍しいこともあるものだ。とはいえど三日くらいログインしなくても別におかしい話ではない。


 そんなことを考えながら自室でゲームを起動しようとすると、


『助けて欲しいのじゃ! 異世界転生がうまくいかないのじゃ!』


 ヘッドホンからそんな声が流れてくる。あれ? 通話応答もしてないのになんで声が? アプリのバグか?


「新米女神ちゃんおひさー。助けるのはいいけどなにを」

『ありがとうなのじゃ! さっそく来てもらうのじゃ!?』


 そう聞いた瞬間、俺は和風の部屋にいた。


 木の床にふすま、それに仏像のようなものも飾っている。おそらくお寺の一室に思える。


 ……は? 自室にいたはずなのに、ここどこ?


「ようこそなのじゃボーグマン! 我は新米女神じゃ! 無事に異世界転生を司る神様になれたのじゃが、苦戦中なのでお主の手を借りたいのじゃ!」


 聞きなれた声が後ろからする。振り向くとそこにいたのは。


 ――キツネ耳をつけた巫女少女だった。


 服装はコスプレだとしてもだ。作り物とは思えないキツネ耳が頭にあるうえに、金銀が混ざり合った色合いの髪の毛が床を引きずっている。


 どう考えてもまともに生活できる髪の長さではない。


「え、えっと? これどういう状況!?」

「むう? 新米女神である我を手伝って欲しいのじゃ! ボーグマンには散々伝えてきたじゃろ? 我、神じゃと。お主も納得してたではないか。ようやく信じてくれた者と会えてうれしいのじゃ!」


 そんなの完全に嘘と思ってるに決まってるだろ!?


 キャラ作りのためなんだろうなと納得してたんだよ!?


「とは言えお主の不安もわかる。いきなり我の部屋まで飛ばして、異世界転生の手伝いをしろと言われても困るじゃろうし」

「不安を抱くところまでいけてないんだが」


 この状況をまず消化させて欲しいのじゃが。いやだが。


 だが新米女神ちゃん(真)は俺の考えをわかってくれないようで、そのまま誇らしげに話を続けていく。


「えっとな。我は異世界転生の担当神になれたのじゃ! お主のおかげじゃありがとうなのじゃ!」

「あ、うん。どういたしまして?」

「それで今後は神務として、異世界転生を提供するのじゃ。じゃが異世界転生した者に感謝してもらわねば、神気を得ることができないのじゃ」

「感謝」

「そうなのじゃ。感謝の心が強いほど神気をもらえるのじゃ。輪ゴムなどに比べると感謝する人数は少ないが、異世界転移して成功した者からは凄まじい感謝をもらえるじゃろう。質で輪ゴムやゴキブリトラップに勝つのじゃ!」


 輪ゴムやゴキブリトラップと比べられる異世界転生……。


 とはいえ新米女神ちゃんの話す内容が正しいと仮定すれば理屈は分かる。


 確かに異世界転生して人生やり直しに成功すれば、その人は凄まじい感謝を神様に送るのだろうが。


 なんでかわからないが俺は新米女神ちゃんの言葉が、すべて真実のように思えていた。


「それで我は試しに異世界転生用の世界をひとつ作ったのじゃ。でもすぐに死んでしまうのじゃ。試しに見て欲しいのじゃ」


 新米女神ちゃんはバッと手をふるうと、部屋にいきなりテレビモニターが出現した。


「……神っぽいなにかじゃないのね」

「今あるものを流用するほうが便利なのじゃ。それよりほれ。先ほど新たに異世界転生した男なんじゃが」


 モニターにブツリと映像が走る。


 すると悪人面をした男が森の中にいきなり、瞬間移動のように現れた。


 彼も先ほどの俺と同じく飛ばされたところだろう。なんか困惑した顔だし。


 彼は周囲の状況をキョロキョロと見まわしていたところ、小さな……なにあれ? ブロックで作った緑の人型に襲われて死んだ。


 他にも数人の男が同じように、森の中で怪物に殺される映像が映し出されていく。


「こんな風に転生して数分で即死ばっかりなのじゃ……感謝されないのじゃ……」

「ダイジェスト映像じゃなくて完全中継だったのこれ……」

「そういうわけで! お主の知見を借りたいのじゃ! 我、人間の強さとかがよくわからんのじゃ! このままでは我は神気が得られなくて困るのじゃ!」


 新米女神ちゃんは涙目で俺に助けを求めてくる。


 これって異世界転生というより、異世界転移な気もするがどうだろうか。いやでも魂が転生しているか……?


 状況とかよくわからないしとりあえず言えるとすれば。


「……チート能力与えたら?」

「無理なのじゃ。それ以外で頼むのじゃ」

「…………初期出現位置? に剣でも置いておけばいいんじゃない? そうすれば多少は抵抗できるかなって」

「そ、それじゃ! さっそく置くのじゃ! やはりボーグマンは頭が柔らかいのじゃ!」


 誰でも考えつくと思うのだが言わないことにする。


 新米女神ちゃんは話していてもわりとちょっと抜けていたし、神様と言うのが本当なら人間基準の考えが苦手なのかもしれない。


 モニターに映像が流れていく。次に森に転移した男が、手に入れた剣で緑の人型を殺していた。


「やったああああああ!!! 五十一人目でようやく突破じゃ! やはり我が目、いや耳は慧眼じゃった!」


 新米女神ちゃんはジャンプして喜んだあと、俺の手をガッシリと掴んできた!?


「ボーグマン! これからもアドバイスを頼みたいのじゃ! いいじゃろ!? 我を助けると思って!?」


 正直まだ状況はよくわからない。


 だがわかることがある。この手伝いがかなり特別だということだ。


「わ、わかったよ。少なくとも今年は時間が有り余ってるしな」

「ありがとうなのじゃ!」


 それに可愛い女の子と話せるしこれくらいなら別にいいかな。どうせ来年までは暇を持て余しているわけだし。


 こうして俺は異世界転生を司る女神ちゃんの、手伝いをすることになった。

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