第3話 初期転生地点


「じゃあ改めてよい異世界転生のために、改善案を求めるのじゃ! まずは腰を据えて話すのじゃ!」


 新米女神ちゃんがパンと手をたたくと、四人分の椅子がディスプレイテーブルを囲むように出現した。


 座れとのことだろうと全員が席につく。


「異世界転生ですか。最近流行していて目につきますが、私も最低限の知識しかありません。魔法少女の異世界転生物が見つからないもので」


 魔法少女は一般性癖さん、もといマヘキさんが眼鏡をクイッとした。


「ボクはなにも知らないかな!」


 なぜか少しドヤ顔のヴィナス様が可愛い。


「我も実はあまり知らないのじゃ! アニメをいくつか見たくらいじゃ! ボーグマンはどうなのじゃ?」

「えっと。自分は多少は知っている程度です」


 とりあえず敬語で話す。


 今更だが新米女神ちゃんとヴィナス様は神様だし、マヘキさんは年上っぽいし。


「敬語はいらないのじゃ! 我らは世界を作る同志なのじゃ!」

「そうだね、ボクもそう思う! 楽しもうよ!」

「仕事なら年下相手でも敬語を推奨しますが、趣味界隈なら話しやすい言葉でいいと思います。ああ、私は敬語を好んで使っているだけなのでお気にせず」

「マヘキは相手を敬うのが好きなのかの?」

「相手次第で口調を考えるのが手間なだけです。敬語ならどんな時でも問題がありません」


 どうやらヴィナス様はわりと奔放そうで、マヘキさんはかなりカッチリしている性格らしい。性癖以外は。


 みんながそう言うならいいかな。特に新米女神ちゃん相手だとタメ語の方が慣れてるし。


「わかった、じゃあタメ語で話させてもらうよ」

「うむ! じゃあ自己紹介も終わったところで、改めて異世界転移世界の改善を行いたいのじゃ! 先も説明したが転移者に異世界を楽しんでもらって、我が感謝してもらう必要があるのじゃ!」

「そのために我々が異世界を色々と改善していく案を出し、この地図をいじって世界を変えていくのですよね?」

「うむ! マヘキの言う通りじゃ! ほれ見るのじゃ! 先ほど作ったスライムが生み出せるようになったのじゃ!」


 新米女神ちゃんはディスプレイテーブルにタッチし、先ほどのスライム(正方形)の駒を世界の各地に配置していく。


「これで異世界時間で三日後には、配置したスライムが誕生するのじゃ!」

「異世界の一日は、この世界でどれくらいの時間なんですか?」

「デフォルトでは二十分で一日じゃ! 時間を早めることも遅くすることも出来るがのう」

「ありがとうございます。つまりデフォルトでは我々の世界で一日経てば、異世界では七十二日にあたると」


 マヘキさん、計算早いなぁ。


 真面目そうな見た目で眼鏡は伊達じゃないようだ。


「えっと……一日が二十分だと一時間が……」


 そして新米女神ちゃんは計算が苦手なようだ。知ってた。


 彼女は計算が面倒になったようで、俺達に笑いかけてくる。


「じゃあさっそくじゃがまた転移者を異世界に飛ばして、失敗したところから改善を考えていくのじゃ!」

「待ってください。それでは転移者が捨て駒みたいではないですか? いくら地球で罪を犯したとは言っても」


 新米女神ちゃんにマヘキさんがストップをかける。


 確かに彼の言う通りだ。いくら転生者が悪人限定とは言えども、死ぬの前提で転生させるのはよろしくない。


 すでに五十人以上が犠牲になっている異世界だ。もう少しシミュレートなどしてから、転生させるべきだろう。


 だが新米女神ちゃんとヴィナス様は首をかしげている。


「禊じゃし別にいいと思うのじゃ」

「贖罪代わりだから別に問題ないと思うなぁ」


 どうやら神様と俺たち人間の感性は少し違うようだ。


「ならばこう考えてください。これは魔法少女ゲームや同人誌の話なんですが。まず作ったら試しプレイや見直しの必要があると思います。我々もすべきかと」


 マヘキさんは正しいことを言っている風だけど……。


「魔法少女に例える必要ある?」

「私は魔法少女関係のことで、もっとも人生経験を積んでいますので」

「そ、そう……」


 マヘキさんがあまりに真剣な顔なので、まるで間違っていないように思えてしまった。


「むぅ。試すとなるとおぬしらのどちらかをあの世界に転生させるのじゃ? でもそうすると二度とこの世界には戻ってこれぬが構わぬのじゃ?」

「ものすごく構うので勘弁して!?」

「異世界転生は魅力的ですが、簡単に死ぬのはイヤですね」


 あんな地獄みたいな世界に飛ばされてたまるものか!?


「新米女神ちゃん、こういうのはどうかな? 正規の異世界転生ルートじゃなくて、神ルートで異世界観光みたいにするの。ほらたまに地球外の星に行ってる神様いるでしょ?」

「なるほどなのじゃ! 現地視察ということじゃな! それなら問題ないのじゃ!」


 ヴィナス様の言葉に納得する新米女神ちゃん。


 サラッと地球外の星とか出てきたけど気にしないようにしよう。


「じゃあ各自、モニターに手をかざすのじゃ! そうすれば異世界に飛べるのじゃ!」

「ほ、本当に大丈夫? 異世界に転移した瞬間に、箱の魔物とかスライムに襲われたりしない?」

「大丈夫なのじゃ! 神様権限を与えておくから、その異世界由来の者は我らを傷つけられないのじゃ! さあ行くのじゃ!」


 新米女神ちゃんがディスプレイに手をかざすと、画面に吸い込まれていった。


 本当に大丈夫だろうか、ものすごく怖くなってきたのだが。


「少々不安はありますが、異世界に行けるというのは魅力的ですね」


 そう言い残してマヘキさんは消えていった。


 どうしようかと思っていると、ヴィナス様が俺の手を持ってきた。


「ほらボーグマン君も行こうよ。大丈夫だよ、不安がらなくても」

「そ、そうかな。心配しすぎかな」


 可愛い娘にそう言われると不安が消えていくから不思議だ。やはり美少女は正義。


 俺はディスプレイに手をかざすと、身体が吸い込まれていく。思わず目を閉じてしまい、次に開くと森の中だった。


 周囲を見回すと新米女神ちゃんたちも全員揃っている。


「ここが転生者が最初に出現する森じゃ! だいたいここで死ぬから、我は死の森を言っておる!」

「異世界転生者の出現地点の名前じゃないな……木々が多くて見通しも悪いし、これだと魔物に襲われたらあっさり死ぬわけだ。そもそもこの地点に転移させるのがまずそう」


 異世界転移だと王城に召喚されたりするが、あれは転生直後の殺しを防ぐためなのかもしれない。


 実際いきなり魔物のいる森に放り込まれたら、大抵の人間なら死んでしまうだろう。


 俺たちが転移させているのは人を殺したことのある悪人らしいので、一般人よりは少し強いかもしれない。それでもやはり厳しそうだ。


「さっそく改善点が見つかりましたか。やはり自分の作ったモノを見直すのは大事ですね」

「いいぞボーグマン! じゃあどうすればいいのじゃ?」

「えっと。異世界転生モノだと王城に召喚されて、最初はえらい人から世界の説明を受けたりするかな。ほかにも武器とかいろいろ用意してもらったり」

「なるほど! それくらいならできるのじゃ! 出でよ世界改変画面!」


 新米女神ちゃんはそう言うや否や、手をふるって空中ディスプレイを出現させた。


 そしてなにやらタッチしていく。


「よし! これで初期転生地点は街になったのじゃ! ほれあっちの方に城が見えるじゃろ! あそこじゃ!」


 ニコニコと楽しそうにしている新米女神ちゃんだった。


 なにはともあれ、これで開幕の死は免れるはず……。

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