第4話 王城召喚は初期生存率向上のため?
俺は何度も密猟を繰り返していたのだが、車で逃げる時に交通事故を起こして死んでしまった。
だがそんな俺は異世界転生をするらしい。最近の漫画やアニメでよく見るのである程度は知っている。
全てが真っ白な謎空間で、妙な自称女神がそんなことを言っていたからだ。
そうして次に目が覚めた時、俺はまるでパーティー会場のような大きな部屋にいた。
床には豪華そうな絨毯が敷かれ、周囲には騎士甲冑を着た者たちが大勢いる。しかも玉座にしか見えない椅子には、冠をかぶった爺が座っていた。
全員が俺を見て明らかに驚いている。
ははぁ、この後の展開は分かったぜ。きっと俺は選ばれし勇者とかで、王城に召喚された感じの……。
「し、侵入者じゃ! この者をひっ捕らえろ!」
冠を被った男がそう叫んだ瞬間、甲冑姿の奴らが剣を構えて俺を包囲した。
「ちょ、ちょっと待てよ!? あんたらが俺を召喚したんだろ!?」
「なにを言っておる! いきなり玉座の間に現れるとは! こ奴を捕縛して拷問せよ! どうやって侵入したのかを!」
『しまったのじゃ!? 転生地点だけ王城にしても、侵入者にされるに決まってるのじゃ!?』
脳内に女の声が響く中、俺は周囲の甲冑たちに襲い掛かられ……。
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「というわけで、転生者が王城で庇護されるにはどうすればいいのじゃ?」
モニターの映像に、転生直後の男が哀れにも捕縛される様子が映る中。
いつもの寺っぽい部屋で、新米女神ちゃんは何事もなかったかのように告げてきた。
「……新米女神ちゃん、流石にあれは転生者が可哀そうだと思うぞ」
「ち、違うのじゃ!? わざとじゃないのじゃ!? ちょっと油断して細部を詰めてなかったというか……」
「普段から油売ってるよね。いつもゲームしてるし」
「ヴィナス様!? それは内緒なのじゃ!?」
新米女神ちゃんはどうやら暇人のようだ。知ってた。
「王城、つまり国がわざわざ転生者を庇護するというならば、相応の理由が必要でしょうね。転生者が魔法少女であるなどの」
マヘキさんがメガネをクイッとする。すごく知性を感じる見た目であるが、発している言葉は残念ながら恥性の類だ。
「よくある異世界転生なら、王が転生者を召喚している設定が多いかな。自分で召喚しているから転生者を庇護するみたいな」
勇者召喚系異世界転生、いや転移か? を思い出す。
よくよく考えれば最初に王城に召喚ってすごく都合がいいよな。国がバックアップしてくれるから、戸籍とかその他諸々が簡単に解決できる。
「ふむ。王が転生者を召喚する理由はなんですか?」
「地球から召喚される転生者に魔王とかを倒してもらうためかな。転生者はチート能力持ちなんだよ」
マヘキさんの問いに答えると、彼は少し考える素振りを見せた後。
「転生者がチート能力を持っている理由はなんですか?」
「転生者だから」
「それでは理由になりません。よくある設定と言うならば、ある程度合理的なものが流用されていると思うのですが」
「とくにない作品が多いかな……?」
そこらへんはご都合主義というか、お約束で納得して欲しいところだ。
異世界転生はチート能力付与。もうそれは大自然の摂理とかそんな感じな雰囲気だし。
「別にチート能力はどうでもいいのじゃ! 重要なのは転生者が王城で庇護される理由じゃ! チート能力は渡せないから、その理由は難しいのじゃ!」
新米女神ちゃんの言う通りだ。
現状で異世界転生させられるのが悪党だけで、そいつらにチート能力が渡せないならこの理由は使えない。
「ボーグマン! チート能力以外で庇護される作品はないのじゃ!?」
「えっと。持って生まれた魔力が多い、のもチート能力か。他だと知識無双とかがあった気がする。ほら異世界で地球の特産品とかを発明してさ。火薬とかマヨネーズとか石鹸とか」
知識無双は異世界転生における鉄板だ。
チート能力よりも説得力もある。転生者を召喚する理由が、異世界の知識を得るためというのは理にかなっているだろう。
「確かにそれなら説得力もあるね。もし千年前の世界に現代の化粧品があれば、凄まじく儲けられるだろうし」
ヴィナス様が楽しそうと笑っている。
やはり知識無双か。チート能力が使えないならば、知識で異世界をぶん殴ればいいのだ!
「いけるのじゃ! よし早速、世界に設定を追加するのじゃ! 異世界転生した者たちは賢者であるため、庇護することで儲かると!」
新米女神ちゃんはノリノリで、巨大テーブルディスプレイをタッチして設定を追加した。
これでひとまず異世界転生者が、召喚直後にゲームオーバーということはなくなるだろう。
だがそんな中でマヘキさんは腕を組んで難しい顔をしていた。
「マヘキさん? なにか心配ごとでも?」
「確かに知識無双はアリとは思います。ただ気になるところがあるのですが」
「と言うと」
「私は火薬もマヨネーズも石鹸も作れませんが、一般人はそういったモノを資料なしに造れるのですか?」
彼の言葉の直後、モニターから声が聞こえた。
『なにぃ!? 貴様、なにも知らぬではないかっ!? なにが賢者だっ! この者をひっ捕らえろ!』
『ひ、ひいっ!? 助けてぇ!?』
転生者が召喚直後に質問攻めにされて、特に有用な情報を与えられずに捕縛されてしまっていた。
確かに俺も火薬もマヨネーズも石鹸も作り方知らねぇ……異世界転生だと当たり前のように作れるけど。
「い、いったいいつになったら!? 転生者は異世界でまともに行動できるのじゃぁ!?」
「あははー。いまの最長行動時間が三分だもんねー」
ヴィナス様の言葉に全員が何も言えなくなってしまった。
この異世界は地獄だ。まるでソシャゲのリセマラを繰り返すかのように、悪党の命や自由が消されていく。
「こ、これじゃと魔王を倒せるのはいつになるのじゃ……」
「え? 魔王倒さないとダメなの?」
「うむ。魔王を倒すか死ぬことで、転生者は罪なき者と認められるのじゃ。罪なき者でないと感謝されても神気が溜まらないのじゃ」
「ボクたちは聖神だからね。悪人に感謝されても溜まる悪気は糧にできない。邪神の類ならご馳走なんだろうけど」
なんということだ。魔王を倒せだなんて、こんなの無理難題すぎるだろ。
正直魔王がいるのすら忘れてたというか、記憶から消えていた。
「ところで気になっていることがあります。新米女神さんがこの世界に介入できることを教えていただけませんか?」
マヘキさんが新米女神ちゃんに質問する。
確かに新米女神ちゃんがこの世界に対して、なにができるのかは微妙に分かっていない。
「む? 我ができるのは魔物を新たに生み出すことと、生み出した魔物の配置。他には武器とかを用意したりとかじゃな」
「では逆にできないことはなんでしょうか?」
「基本的に人間には手出しできぬ。神託で声を聞かせて誘導するくらいじゃな。後は魔王関係は弱体化できぬ。魔王城の配置や魔王の考えや強さは変えられぬ。そこをいじると罰にならんのでな」
魔王の強さ変えられるなら楽勝だったのだが無理らしい。
そうなるともう抜本的な改革が必要な気がする。そう例えば。
「ふむ。やはりどれだけ言っても、チート能力が必要なのではないでしょうか?」
マヘキさんの言うようにだ。
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