第29話 はっぴーえんど
「やったのじゃやったのじゃ! 色々あったが無事に皇帝を討伐して、魔王軍の勝利なのじゃ! 龍宮寺も我に感謝してるのじゃ!」
「やったね新米女神ちゃん!」
新米女神ちゃんとヴィナス様が抱き合いながら跳ねて喜んでいる。
結局のところ、なんだかんだで目的は達成だ。悪逆の皇帝は討ち果たしたのだ。
問題があるとすれば実質世界を救ったのが魔法少女なのと、そもそも最初は魔王を倒すはずだったくらいだ。大問題な件。
「うむうむ! よしこの世界は合格じゃ! 善人の転生者を呼べる資格を得たのじゃ!!」
言うほど呼べるかな? と思わなくもない。でも善人の転生者ならチート能力を与えられるみたいだし、それなら問題ないか。
「そうですね。皇帝が死んだからこの世界はもう平和でしょうし」
マヘキさんが眼鏡をクイッとする。あ、本当だ。
もう敵がいないから魔族も人間も戦争しないし、それなら善人が転生しても幸せに暮らすことが。
「なにを言っておるのじゃ? これからこの異世界をコピーしまくって、龍宮寺が転生する寸前まで巻き戻して、転生者を送り込むのじゃぞ? そうしなければ転生者が楽しめぬではないか。のうヴィナス様?」
「そうだね。せっかくのチート能力なんだから、振るう相手がいないとね」
なんという恐ろしい話だろう。
どうやらあの異世界、巻き戻ってグルグルと地獄を行うらしい。
「今後の転生者はすべて魔王城に召喚するから安全なのじゃ!」
「つまり皇帝はこれから幾度となく殺されると。コピーなら別存在でしょうがそれでも同情しますね」
俺もマヘキさんの言葉に同意だ。
あの異世界やっぱり地獄だよ、色々な意味で。
「よしひとまず一つ目は完成じゃ! では次の異世界を作り始めるのじゃ!」
「え。また作るの?」
「当たり前じゃ! あの異世界だけでは楽しめぬ転生者もいるじゃろうからな! ほれ次はスローライフ辺りを目指すのじゃ! でもあんまり静かだと面白くないじゃろうし、ゾンビあたりでも出すのじゃ!」
「新米女神ちゃん!? それ水と油よりダメだと思うよ!?」
「やってみなければわからんのじゃ! さてまた悪人転生者で試すのじゃ!」
どうやら新米女神ちゃんの異世界作りはまだまだ続くらしい。
理不尽世界に送られる悪役転生者に同情するのだった。
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「む、むう。ここは……」
余が目を覚ますといつもの玉座だった。
玉座の間もまったく壊されていない。あれだけ兵士と魔王軍が争ったというのに、まるでなかったかのようだ。
「む、むう? 確か余は、あの転生者に焼き殺されたはずでは……ああ、そうか。くだらぬ夢を見……」
『夢じゃないのじゃ! この万死に値する極悪人!』
脳裏に忌まわしき声が響いた。これは……邪神か!
「き、貴様! これはどうなっておる!?」
『ふっふっふ。お主は我を邪神などと呼ばわったのだ。その罪、万死に値するのじゃ! 故に罰を与えることにした!』
「ば、罰だと!? ふざけるな!」
だが邪神は余の叫びを無視して、さらに頭に声を響かせる。
『これからお主は転生者に殺される役を、一万回ほど繰り返すのじゃ。ようは龍宮寺が転生してくる瞬間から、何度もやり直すというわけじゃな』
「な、なにを言ってっ」
『わからんでもよい。すぐにわかる。なに安心するのじゃ、お主がもし転生者を殺せれば救われるぞ? ただし転生者はチート能力持ちの上、魔王軍に守られておるがな! ではさらばじゃ! くははははははは!!!』
余はこの言葉の意味をすぐに理解することになった。
あれから三か月後、玉座に座る余の前には新たな転生者がやってきていた。龍宮寺とやらとは違う別人が。
「お前が諸悪の根源の皇帝か! 唸れ、人殺しの剣よ!」
転生者が剣で横なぎに空を切った瞬間、その衝撃で余の周囲にいた兵士たちは全員消滅した。
あの転生者の持つ剣の力、それは人に対する完全特攻だった。人間である限り、転生者を傷つけられないという理不尽。
「死ね! 皇帝!」
「ご、ごぶっ……」
そして余は首を斬られて死んだ。はずだった。
「はっ!? こ、ここは!?」
気づくと再び玉座の間だった。また先ほどまでの戦闘の跡などなく……。
ま、まさかこれは……!?
『気づいたか? お主はこの世界をループするのじゃ! 他の魔王などはコピーじゃが、お主だけは本物でやってるのじゃ!』
「なっ、なっ、なっ……!?」
『神に逆らった報いを受けよ。万死をもって償うがよいのじゃ! このループを抜ける方法はただひとつ、転生者を殺すのみよ。ただし転生者は人間の攻撃への、絶対耐性を持っておるがな!!』
「ふ、ふざけるなあああああぁっぁぁぁぁぁぁ!?」
余は何度も首を落とされながら、転生者を殺すために工夫をした。
転生された直後に暗殺部隊を編成し、魔王城へと忍び込ませた。ダメだった。
玉座の間から逃げて他国へ逃亡しようとした。ダメだった。
いっそ毒で自殺した。ダメだった。
「よう悪逆皇帝。死ぬ準備は万全か?」
そして余はまた、転生者に剣を突き付けられている。周囲は森だ、森に隠れて潜み住んでいたのに見つかってしまった。
玉座も王冠も捨てた。街にも出ずに山で狩人の暮らしをして、自給自足の生活をしていたのになぜバレる……。
前は漁師に紛れた。次は下水道に、スラムに、思いつくことはあらかた試したのに。
「や、やめてくれ……余はもう、九百六十五回も殺されておるのだ!」
「はぁ? なに言ってるんだ? じゃあな」
そして腹部に剣を刺されて、余はまた玉座に戻っていた。
震えた両手で顔を覆う。気づくと涙が出ていた。
ああまた殺されるのか。余はいつになったらこの地獄から抜け出せる……。
どうしようもない。逃げても土下座しても自殺しても無駄……。
そしてまた殺されて、気づけばこの玉座に…………っ。
「も、もう許してくれぇえええええええええ!!!!!!」
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悪逆の皇帝は罰を与えられました。めでたしめでたし。
なお皇帝は絶望のループなのと、万死してもたぶん抜けられません。
そのころには新米女神ちゃんが忘れてる可能性が高いので。
あとがき
この作品は好き放題しまくったので、最後までめちゃくちゃにしました。
ただ龍宮寺を主人公ぽく見てもらえた人が多いようなので、この作品を書いたかいはあったかなと思います。
サブキャラに共感してもらえれば、作品を作りやすいですし。
この作品はあまり人気が出ませんでしたが、なんとなく予想はしてました(
ワンチャン爆発しないかなと思いましたが、流石に奇をてらい過ぎでしたかね。
来週くらいに新作を投稿予定です。
今度は個性を出しつつそこまで奇をてらってはおらず、私の今年の総決算にする作品です。
人気が出るかは投稿しないと分からないですがウケるといいなぁ。
よろしければ見ていただけると幸いです。
新米女神ちゃんは異世界転生を司る神様になって、めちゃくちゃな世界を創るようです ~すぐ死ぬ転生者を救うためにご都合主義を考えよう。初期地点に武器を置いたり王城に召喚したりで~ 純クロン @clon
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