第28話 悪党を倒すのは


 死を覚悟した俺の目の前に現れたのは、ドレスに身を包んだ少女だった。


 いや少女と言うには少し微妙な年齢か? 高校生は少女に入るかわからない。


 だがその見た目は明らかに魔法少女だった。こいつはたしか魔王軍四天王の……!


「な、なんだてめぇは!?」


 転生者も予想外だったようで魔法少女を睨んでいる。


「私はルインと申します。かつて魔法少女だった者です」

「ま、魔法少女!? ふざけてんじゃねぇぞごらぁ!」


 転生者はチート剣を構えるが、魔法少女は涼しい顔をしたままだ。


 魔王軍四天王だけあって自信があるのだろうが、あの剣相手にそれはまずい!


「おい! あの剣は魔族なら問答無用で殺す……!」

「もう遅い! 死ねぇ!」


 チート剣が空を斬り、その衝撃が魔法少女に襲い掛かる。


 ダメだ、避けようともしない!? 魔法少女の髪が剣の風圧でふわりと揺れてしまう。


 くっ……助けられなかった! 魔王軍四天王がこうもあっさり死んでしまうなんて! と思ったのだが……。


 あれ? 魔法少女いつまで立っても倒れないんだが?


「残念ですが私には無意味です」


 魔法少女はノーダメージと言わんばかりに、ファイティングポーズをとった。


 え? え? え? あのチート剣の攻撃を受けて無傷だと!?


「ば、ばかなっ!? てめぇなにものだ!? なぜこの剣で切れねぇ!?」


 転生者も俺と同じく困惑しているようで、一歩ほど後ずさった。


 だがすぐに気を取り直したのか、再びチート剣を構えた。


「ははぁ! さてはてめぇが魔王か! 空圧程度じゃ倒せないらしいが、なら直接ぶった切ってやらあ!」


 転生者は魔法少女を魔王と勘違いして、剣を振りかぶって突撃してくる。


 だがその動きは明らかに素人で、この世界の人の兵士よりも酷い。


 当然だろう。奴は剣の鍛錬も積んでないのだから、いきなり機敏に動けるわけがない。


「魔法少女相手に近接戦を挑むと? 愚かですね」


 魔法少女はそれを迎え撃つように突撃する。


「死ねやごらあああああぁぁぁぁ!!!!」


 転生者が走りながら剣をふるったが、魔法少女は軽く身体をひねって回避した。そしてそのままの勢いで回転すると、右手で転生者の顔面を殴打した!?


「ごええええぇぇぇぇ!?」


 吹っ飛ぶ転生者。チート剣がその衝撃で手から離れて、カラリと床へ落ちた。


 これで勝負アリだと思ったが、魔法少女はさらに転生者に接近すると。


「ごへぇ!?」


 みぞおちへの蹴り。


「ごばぁ!?」


 背負い投げ。


「おぼぼぼぼぼぼ!?」


 顔への往復ビンタ。おおよそ魔法少女に似つかわしくない攻撃を、転生者に仕掛けまくっている。


 おかしい、俺の知識だと魔法少女ってなんかこう。魔法使って人の不幸を助けるとかじゃないのか……?


 あんな肉弾戦で戦う魔法少女ってアリなのか? そんなことを考えていると、魔法少女がこちらを振り向いてきた。


「目を見れば言いたいことは分かります。魔法少女と言っても色々あるのです。確かにかつては不幸な人の願いを叶えるのが主流でしたが、最近はどちらかというと魔法で魔物や悪を倒すのも増えています。また魔法少女の正式名称はついていませんが、武闘派で格闘術メインのものも増えています。なので魔法少女をフワフワな概念で勝手にカテゴライズするのはやめていただきたい」

「アッハイ」


 やべぇ。なにかよくわからないけど逆らわない方がよさそうだ。


 さっきまでの危機が一転して、わけわからないことになってきた。


 そして魔法少女は両手で掌底を繰り出して、転生者をぶっ飛ばして城の壁にめりこませる。敵ながらひでぇ、これじゃあ魔法というより横暴だ。


 だが転生者はもう気絶しているので、これで無事に勝ったことに。


「ではトドメといきましょう」


 魔法少女は右手を天井に向けて掲げる。すると右手が黄金色に輝きだした。


「も、もうとっくに決着ついてると思うんだが……」

「まだです。魔法少女は必殺技で勝たなければなりません」

「俺の知ってる魔法少女と違うんだが」

「では覚えて帰ってください」

「アッハイ」


 魔法少女は右手を光でバチバチ言わせている。


 なんか転生者が哀れな気がしてきたが、正直止めるほどの義理もない。


「ダーク・レイズ・ブレイク!」


 魔法少女が床を蹴ったかと思うと、一瞬で転生者のそばまで肉薄。そして転生者の心臓向けて、黄金に輝く右手でぶん殴った。


 その瞬間だった。転生者の姿が闇色の粒子となって、周囲に散らばっていく。


「安らかに眠りなさい、悪しき者よ」


 なにかに祈り始める魔法少女。いったい俺は何を見せられているのだろうか。


「殺したのか。てっきりなんかこう、悪しき心を消し去るみたいな感じかと思ったんだが」

「魔王軍四天王がそんなことをするのはおかしいでしょう」

「魔王軍四天王に魔法少女がいることがおかしいと思うのだが」

「そこは気にしないでいただきたいですね。大事の前の小事ですので」


 むしろそこが一番の大事な気がしなくもないのだが。


 ………………いいか! 無事に帰ることができるんだから、魔法少女だろうがなんだろうが!



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やりたい放題しましたが次回でたぶん最終話です。

 

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