第27話 異世界を救うのは……


「断る。俺はこの世界を存外気に入っている」


 俺は世界を壊そうとの提案に気づけばそう答えていた。


 この世界に転生してから大変なこともあった。邪神はめちゃくちゃだし、人ではなく魔族に転生させられるし。


 そして人との戦争に駆り出されるしで散々だ。だが代わりに親友ができた、愛する妻ができた、そして……子までなせたのだ。


 こんなクズには不相応な幸せが、この異世界で得ることができたのだ。


「はぁ? こんな無茶苦茶な、邪神の心ひとつでぶっ壊されそうな世界が気に入っている!? お前バカだろ!?」

「バカかもしれない、だが本心だ」

「お前も悪党なんだろ!? 急に聖人ぶってんのか!? ボクが世界を救いますって!」

「違う、俺は聖人ではない。はっきり言うがお前が人間だけを殺すなら、このまま逃げ帰っていたかもしれない。だが俺の全てを壊されるわけにはいかない」


 俺は悪人でクズだ。


 だから自分と関係ないことで命はかけられない。だがそんな俺でも守りたいものはある。


 この男はそれを全てぶっ壊そうというのだ。


「ぷっ! おいおいおい! 俺はお前ら魔物を絶対に殺せるんだぜ! それに立ち向かおうとかバカだろ!」


 確かにバカかもしれない。


 だが俺は、この転生者を殺せる一番のチャンスはここだと感じている。


 あいつはおそらくまだ力を得て間もない。ここで逃げて時間を置いたら、あいつはあのチート魔剣をより使いこなしていくだろう。


 つまり余計にあいつが強くなって、俺たちが不利になっていく可能性が高い。


 それにあの転生者は人間をまとめあげて、再び魔物と人の戦争を引き起こすだろう。


 世界をぶっ壊すならば楽なやり方で、そんなことをされたら俺たちのやってきたことは全て無意味と化す!


 無に帰させてたまるものか! 魔王が積み上げてきたことを! 俺がこの世界で守りたいものを!


「フレイムブレイズフレア!」


 俺は手のひらから巨大な火球を出して、転生者に発射する。


 奴は剣で防いだり回避したりもせず、ただ動かずに火玉は直撃した。


「だから無駄だっての!」


 だが全くの無傷だ。服や髪の毛すら燃えていない。


 まるでバリアでも張られているかのように、完全に無力化されている……!


「ば、バカな!? あの魔法を直撃して無傷だと!?」


 ディアベルバルも驚きの声を隠せていない。


 俺は魔力チートだ。そんな俺が力を入れて撃った魔法が効かないとなれば……。


「わかっただろ? お前らがゴミで俺が神ってことだよ! じゃあ死ねよ!」


 転生者は俺たちに向けて、剣をふるってきた。





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「あああああああ!? 龍宮寺が死んでしまうのじゃ!? なんとかならぬかなんとかならぬか!? あいつを死なせるなんて絶対ダメじゃ!」


 新米女神ちゃんはモニターにかじりついて叫んでいる。


 おそらく今までで一番必死だ。彼女も本当に龍宮寺を助けたいのだ。


「助けてあげたいけどボクもなにも思いつかないかなぁ……魔王軍しか操れないんじゃ、あの剣相手にはなにもできないし」

「こればかりは難しそうですね。助けてあげたいのはやまやまですが」


 ヴィナス様やマヘキさんも方法が思いつかないようだ。


 あのチート剣の性能があまりに強すぎるのだ。魔物なら絶対に負けないとか理不尽にもほどがある!


「ぼ、ボーグマン! なにかないか! お主ならいい策が!?」


 新米女神ちゃんはすがるように俺を見てくるが。


「ごめん、思いつかない……」


 俺だって助ける方法があればとっくに言ってるわけで……だが新米女神ちゃんはなおも食い下がってくる。


「ボーグマン! お主が一番異世界転生に強いのじゃ! ほれなにかこうそういう作品でチートを破る方法とかなかったのか!?」

「ああいうチートって、普通は主人公陣営の能力だから……」


 理不尽を持つのは主人公で敵はそれにぶちのめされる。それが異世界転生作品のテンプレで、その逆は基本的にあまり望まれていない。


 だから主人公陣営が弱くて、敵がチートな作品は少ないのだ。


 主人公の立場が魔王軍とかはよくあるが、基本的には敵よりもチートなことが多い。


 ……だけどそんなこと言ってる状況でもない。俺だって龍宮寺には死んでほしくない。


 あいつが地球で悪人だったのは、おそらく仕方のないところもあったのだろう。全面的に悪くないとは言えないが情状酌量の余地はある。


 そして異世界では必死に生きてきて頑張っているのだ。そんな彼を見捨てたら目覚めが悪いなんてレベルじゃない!


 考えろ! 魔王軍しか操れないこの状況下で、魔物への完全耐性を持つチート転生者を殺す術を!


「や、やばいのじゃ!? 龍宮寺の片腕が切り落とされたのじゃ!?」


 ああもう時間がない!? 


 そもそも魔物なら相手なら絶対勝てるなんてチートすぎるだろ!? そんなの魔王軍じゃ絶対に勝てない……!


「マズイです! ディアベルバルが龍宮寺をかばってやられました!」


 マヘキさんが現状を必死に叫んでくる。


 もう時間がない!? だけどいい方法なんてなにもない! 魔王軍四天王のキングカーやディアベルバルでも歯が立たないのだ。


 なら魔王や他の四天王を呼んだってただ犬死するだけだ! デュラハンやスライム少女や魔法少女がいたところで……!


 …………ん? あれ? 魔法少女って、魔物だったっけ? 魔物少女じゃないよな?


 た、確かマヘキさんはあのキャラをすごく長い設定羅列していたはずだ。


 魔王軍によって闇に染められた先代の魔法少女って……人間のままなのでは!?


 モニターでは龍宮寺の首に、転生者の剣の切っ先が付きつけられている!? だがまだ間に合う!


「し、新米女神ちゃん! 魔法少女だ! 魔法少女は元人間の設定だったはずだ!」

「はっ!? おおおおおお!!!!! 魔法少女を、龍宮寺の元に転送!」


 な、なんてことだ!


 この異世界を救うのは、魔法少女という一般性癖だった!?

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