第18話 嘘
「すまない! どうか世界を守るために戦って欲しい!」
魔王城玉座の間で、俺は魔王に頭を下げられていた。
魔王に謝罪させるなんて、少し前の俺に言っても微塵も信じなかっただろうな……。
そんな現在の状況にそぐわない考えが頭に浮かぶ。
「どうしたんだ魔王。俺に戦いを降りろと言ってたじゃないか」
「神が……皇帝をあと二年で殺さなければ、世界が滅んでしまうと神託を送ってきた……! すまない、どうか皇帝を殺して欲しい……!」
魔王は顔を上げないままに告げてくる。
なるほどな。急に話が変わった理由はそれか。
こいつからすれば俺を戦わせたくない気持ちはあるが、世界敷いては自分の民のためにはその選択を取れないと。
なら俺の回答もひとつだ。
「別に構わない。俺は元々戦うつもりだったからな」
「すまない……絶対に死なないで欲しい。お前にはいずれ、この国を継いでもらいたいのだ」
「おいおい。どこぞの馬の骨ですらない俺が、この国を継ぐ理由なんて皆無だろ。それに周囲も納得しない」
「……それは大丈夫だ。お前の妻は実は……私の隠し子だ。お前は魔王の娘を妻にしている以上、王になる権利がある」
「なっ……!?」
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「なんか謎展開が始まったのじゃ」
「人は命の危機にさらされると美しくなるよね」
新米女神ちゃんとヴィナス様は、モニターを見ながらポップコーンを食べている。
異世界に地獄をもたらした諸悪の根源が、高みの見物をしているのだ。
そしてその方法は俺が思いついてしまったわけで……俺も世界滅亡の片棒を担ぐことになってしまうのか!?
「し、新米女神ちゃん。本当に異世界を二年で滅ぼすの……?」
「安心するのじゃ。ただの脅しで流石にしないのじゃ。せっかく長生きしてる転生者がいるのに勿体ないのじゃ」
「あ、脅しか。ならよかった」
本当に良かった。新米女神ちゃんにもまだ人の心はあったんだね。
「えっ……嘘なの……?」
そしてヴィナス様は心底悲しそうな顔をしている。
もう彼女には人の心はないようだ。元から神様だけども。
「ヴィナス様、安心するのじゃ。あと二年で滅ぶのは嘘じゃが、もしこの転生者がゲームオーバーになったらこの異世界は消滅させるのじゃ。なので皇帝にそう伝えて、世界のために転生者に殺されろと言うのじゃ」
「ボクは賛成! 皇帝からすれば勝ったら世界が滅び、負けたら自分が殺されると。いいんじゃないかな!」
「皇帝がのうのうと生き残るのは許せないのじゃ! 奴は絶対に死なせるのじゃ!」
皇帝の扱いがあまりにも不憫過ぎる件。
転生者がもうすぐ暗殺なり動くだろう。それに対して皇帝は抵抗しなければ殺されるし、下手に阻止して転生者を再起不能にすれば世界が滅ぶ。
しかも転生者はチート魔力を持っているので、生け捕りとかはすごく難しいだろう。つまり殺されるか世界が滅ぶかの二択だ。
「よし早速あのクソ馬鹿皇帝にも神託を下すのじゃ!」
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余が玉座に座っていると、いきなり脳裏へと声が響いた。
『おい皇帝! 貴様に神託を下すのじゃ! もうすぐ転生者がお前を殺しに行くから、大人しく殺されるのじゃ! もしそうせずに転生者がゲームオーバーになれば、この世界はお前ごと消滅するのじゃ!』
「ふざけるな! 誰がそんな妄言を聞くものか!」
余は激怒しつつ叫んだ。
あまりにも理不尽なエセ神託など聞く価値すらない! 馬鹿か!
こんな神託、ようは余を殺すためにやっているようなものではないか!
元より神など信じていなかったが、もはや言葉に耳を貸す必要すら皆無になったな!
「エセ神! 貴様の指示など聞くつもりはない! 余は理不尽な貴様の軛を解き放ち、この世界を人間の手に取り戻す!」
『ふざけろなのじゃ! この世界はすべて我のモノなのじゃ!』
「ふん! まずは貴様の切り札たる転生者を殺し、目にモノ見せてくれるわ!」
『貴様! さらに我の怒りを買うとはよほど命がいらないのじゃな!』
「なにが命がいらないか! 貴様の言うことは、余に死ねと言っているだけであろうが!」
こんなエセ神のことなど無視すればよいのだ! どうせ大したことはできない!
もしこやつが本当に神であり、余にそこまで怒っているのならば、とっくに余を殺しているはずなのだから!
それが出来ないと言うことは、こいつは大した力を持っていないという証拠だ!
「転生者を召喚して、そいつに余を殺させるしかできぬ者が! 神などと名乗るでないわっ!」
余はエセ神の矛盾を告げる。すると奴はくつくつと笑いだした。
『勘違いしているのはお主のようじゃの! 我は本当は貴様なぞ簡単に殺せるのじゃ! でも転生者に殺させないと禊ができないから、仕方なくこうしているだけじゃ!』
「なにを意味の分からないことを! もういい! 貴様の声など金輪際返事せぬ! そうすれば貴様などただ言葉を話せるだけの亡霊だ!」
『なら我は四六時中脳裏に語り掛けてやるのじゃ! 一生寝かせてやらぬのじゃ!』
「やめんか!?」
こんな奴の言葉を聞くつもりはない!
余が討たれるための敵役にされているなど、あり得るはずがないのだから!
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