第19話 転生者を援護しよう
「あの皇帝絶対許せないのじゃ! 神の命令を無視するとは!」
新米女神ちゃんはご立腹だ。
皇帝が神託を無視して言うことを聞かないためだろう。
「罰当たりな人間だよね! 新米女神ちゃんが神託を下してるのにね!」
「ヴィナス様の言う通りなのじゃ! 我が自ら指示しておるというのに!」
なお新米女神ちゃんの皇帝への神託は、『お前は転生者に殺されろ』である。そりゃ普通は拒否するよ。
よっぽど信仰心ないと聞かないだろうな。俺が皇帝の立場なら絶対イヤだ。
やっぱりあの異世界は地獄である。思いがけぬところで生まれの幸運を痛感してしまう。
「あの皇帝が長く生きるのは許さないのじゃ! あの転生者に二年以内に殺させるのじゃ! そのためにどうすればいいかの意見を求むのじゃ!」
新米女神ちゃんは地団太を踏んでいる。
……最近分かって来たのだが、新米女神ちゃんというか神様と人間の価値観は違う。
俺達にとってすごく残酷なことでも、新米女神ちゃんとヴィナス様は笑顔で問題ないと考えることが結構あるのだ。
たぶん彼女らにとって異世界の人間の命は、ゲームのNPC(ノンプレイヤーキャラクター)に近い。
あるいは軍人が兵士を駒として扱うように、異世界人も同様に扱っているようだ。
つまり彼女が本当に皇帝に我慢ならなくなったら、その時点で異世界が完全消滅させられる恐れもある。
ゲームの電源ボタンを押すノリで、異世界削除なんてのも普通にあり得てしまうのだ。恐ろしい話だなぁ。
「ボーグマン君、なにか穏便な案はありますか?」
マヘキさんが俺に視線を向けてくる。
穏便な案と強調して言ってきたことを考えれば、マヘキさんの意図することは分かる。
新人女神ちゃんたちが暴走する前に、俺達で犠牲の少なくなる意見を出そうということだ。
あの二人に考えさせると大概ロクなことにならないので、なんとか先んじて思考を誘導しなければ……!
異世界をこれ以上、いやこれ以下の地獄にしてはいけない。彼らの命運は何故か俺とマヘキさんの肩にかかっている!
「…………皇帝の土台を揺るがすとか? ほら革命みたいな」
必死に考えた結果がこれである。だが言い訳させて欲しい。
まず皇帝を殺すという時点で穏便な案はそうそうない。
更に言うなら魔王国と帝国は戦争中なわけで、こんな状況で平穏無事に終わらせるなんて神様でもないと無理だろ!?
いや訂正しよう、神様でも無理だ。なにせその二人は今、俺の横にいるのだから。
「なるほど。帝国がガタガタになってしまえば、転生者による暗殺なりもやりやすくなると。それに魔王国が有利になりますし」
マヘキさんが俺の意を組んでくれた。
俺は魔王国と帝国の双方の犠牲を減らしつつ、転生者が皇帝を殺せる方法を考えたわけだ。
そのためにはまず魔王国側が優勢であるべきと思った。
やはりトップの考えは軍の動きに大きく影響する。皇帝はかなり非道なため、帝国軍が勝ったら虐殺など平気で指示しそうだ。
対して魔王のほうがだいぶ穏やかなため、そこまで非道なことはしないと思う。
それに魔王軍が優勢の方が転生者も動きやすいだろうし、皇帝の暗殺などの成功率も上がるだろう。
「よし! ならば帝国の民衆に神託を下し、皇帝に従わぬように命じるのじゃ!」
新米女神ちゃんは意気揚々と喉を鳴らし始めた。
神託ってかなりチートだよな。一方的にこちらの言葉を伝えられるんだから。
だが残念ながら彼女に好きにやらせるわけにはいかない。
「新米女神ちゃん、待って。神託ってなんて言うつもりなの?」
「もう決まっておる!」
「念のため、俺達に事前に言ってくれない?
新米女神ちゃんの好きにやらせるとだいたい失敗する。
もうそれは痛感したので慎重にいきたい。すると新米女神ちゃんは息を吸うと。
「愚かな帝国民衆よ! 我の命に従い、皇帝を討つのじゃ! さもなくば死ぬのは貴様らじゃぞ! 我に従え! 我こそが神じゃ!」
「うん。絶対ダメ」
「のじゃ!?」
危なかった。新米女神ちゃんがまたエセ神と言われるところだった。
「なにがダメなのじゃ!? 我は神じゃぞ!? まったく嘘もなく真実だけを告げておるのじゃ!」
「新米女神さん、やはり神には神らしい宣言があると思います。確かにこの言葉に嘘偽りはないでしょう。ですが真実が信じられるとは限りません。魔法少女が一般性癖なのは事実なのに疑う者もいるのです」
真実が信じられるとは限らない。確かにその通りだ。
その後に続く言葉はおかしい気がするのが。
「はいはい! ボクに任せて! 神託とか得意だよ!」
そんな中でヴィナス様が手をあげた。
彼女もわりと怪しい気はするが、少なくとも新米女神ちゃんよりはマシだろうか。
「どのような神託をするつもりでしょうか?」
「我は神なり。汝らの間違いを正す機会を与えるため、声を届けることにした。汝らが崇める皇帝は神敵なり。その者に従う者もまた神敵に堕ちる定め。だが今ならば間に合う。悪しき皇帝に裁きを下すならば、我は汝らを裁かぬと誓おう」
ヴィナス様はすごく綺麗な声で告げた。
彼女の話し方には威厳があり、これならば信じてしまう人もいるかもしれない。
「なるほど。これならいけそうな気がしますね」
「よし! これで異世界に革命を起こすのじゃ!」
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