第20話 神の革命
「はぁ……いつまで戦わないとダメなんだろう……」
魔王軍と帝国軍の最前線の平野。
そこでは兵士たちがくたびれながら、焚火を囲んでうなだれていた。
この戦いにおいて帝国軍の士気はあまり高くない。
理由は戦う理由が明白でないからだ。もし魔王軍が世界征服を考えていて、それに立ち向かうならば兵士たちも頑張っただろう。
だが魔王軍は別に人間に危害を加えてくるわけでもなく、帝国軍側から一方的に攻め込んでいる。
そのうえで敵の魔物は転生者に苦戦しているのだから、兵たちはもう諦めて撤退して欲しいと考えていた。
「この戦いさ、勝ったらなにが得られるんだ?」
「土地だろ。魔王国の土地なんぞいるとは思えないけど」
「そもそもなんで皇帝って偉いんだろうな……」
厭戦気分とはよく言ったもの。
帝国軍兵士たちはもう戦いたくもなく、なにか切っ掛けさえあれば我先にと逃げ帰るだろう。
とは言えそのきっかけを作るのは当然ながら簡単ではない。なにせ自分ひとりだけ逃げて捕まったら、他の兵士への見せしめに殺されるだけだ。
大勢の兵士がみんな、もう無理だと逃げ出せるだけの理由。それさえあればと言ったところ。
その瞬間だった。上空の青空が一瞬で暗雲に染まり、雷の音までがなり始める。
もし地球でこんなことが起きれば、誰かが世紀末のラッパが吹かれたと叫ぶだろう。そんな現象が発生する。
「な、なんだ!? 空が……!?」
「ま、魔王軍の魔法か!? もういやだぁ!?」
「そ、総員戦闘準備を!」
軍の隊長たちの命令が叫ぶ中、彼らの脳裏に、いやこの世界の全てのモノの脳裏に、
『我は神なり。汝らの間違いを正す機会を与えるため、声を届けることにした。汝らが崇める皇帝は神敵なり。その者に従う者もまた神敵に堕ちる定め。だが今ならば間に合う。悪しき皇帝に裁きを下すならば、我は汝らを裁かぬと誓おう』
こんな神託が下りてきたのだ。
「な、なんだ……? 神敵!? 俺たちの皇帝が!?」
「そ、そんな!? なら俺たちはいったいなんで……!」
「ええい聞く必要はない! こんなもの嘘っぱちだ!」
一般兵が動揺するのを、隊長が必死に否定する。
だがその隊長自身も戸惑っていた。彼が動いていたのは軍を指揮する者としての義務感だけ。
「い、いいのかこんなことしてて!?」
「逃げないと神様の敵にされてしまう!?」
兵士たちが逃げ始め、帝国軍が瓦解するのだった。
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「やったのじゃ! 帝国軍が逃げていくのじゃ!」
「これで転生者が動きやすくなったね! 皇帝に従わない者も出てくるはずだよ!」
「流石はヴィナス様なのじゃ!」
モニターの前で新米女神ちゃんとヴィナス様が大喜びしている。
帝国軍は神託によって見事に瓦解したので、ここから魔王軍の逆転が始まっていくのだろう。
そうなれば転生者は帝国軍相手に戦う必要はなく、皇帝の暗殺などに注力できるようになる。
なので結果は上々、上々なんだけど……。
「なんというか皇帝に同情してしまいますね。神の敵にされてしまうとは」
マヘキさんで近くで告げてきて、俺もおもわずうなずいてしまう。
「とは言え皇帝もかなりアレですからねぇ……」
「そうですね。彼は転生者を簡単に殺したり生体兵器にしたりと、めちゃくちゃなことをしています。もし神様がいらっしゃるならば、皇帝と魔王ならば魔王に味方するでしょう」
正直この異世界では魔王側が勝った方がいいと思う。
正義や善的な側面から見ても、皇帝はかなり悪逆だし魔王は善人だ。なので神が魔王に味方すること自体はなにも間違っていない。
間違っているのは、神が魔王に味方する動機なだけだ。
でもやらない善よりやる偽善という言葉もあるから、きっとこれは正しい行いなのである。
「新米女神ちゃん。この後は魔王に神託を下して、神様がこの世界のために力を貸したと伝えるべきだよ」
そんなわけで俺は新米女神ちゃんに助言する。
たぶんなのだが魔王たちは、新米女神ちゃんに不信感を持っている可能性がある。
なにせ世界があと二年で滅ぶなんて重要なことを、いきなり言い始めるくらいだからな。
なのでここは実態は置いておくとして、神様らしく悪を裁くために尽力してると伝えておかねば。実態は置いておくとして。
「わかったのじゃ! 魔王に今がチャンスじゃと伝えるのじゃ! ついでに現在の帝国の各軍の配置や場所なども仔細伝えるのじゃ!」
「今更ですけどすさまじい理不尽ですよねこれ。世界を俯瞰的に見て情報を逐一伝えられるのですから。伝えられる側はたまったものではないですね」
「神だから理不尽で当然なのじゃ! さあ転生者よ! 今度こそすべての舞台は整った! いまこそあの神敵たる皇帝をつぶすのじゃ!」
新米女神ちゃんは力強く宣言する。
舞台は整えたというが、整えたなんて可愛いレベルじゃない。地面をブルドーザーでならして超豪華劇場を建てたレベルな気がするなぁ……。
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