第10話 魔王様、実はいい人?


 白のみが続く異様な空間で、頭が見えないほどの高さの巨人とヴィナスが話をしていた。


「ヴィナスよ。新米の調子はどうだ?」


 巨人の声が遥か空の彼方から聞こえてきて、ヴィナスはクスリと笑った。


 今の彼女の姿は他人の理想に沿ったものではないが、ボーイッシュ気味な見た目ではあった。


「頑張ってると思うよ」

「そうか。そろそろ一つ目の異世界転生用の惑星が完成を」

「百人ほど死なせた結果、人間側につくのはダメでは? という結論に至ったかな! あ、それまでの転生者の最長記録は半日くらいかな」

「……死に過ぎではないか? 地獄を造っているわけではないのだぞ?」

「あははー。でもなんだかんだで前には進んでるよ。七転び八起きみたいな」


 ヴィナスは愉快そうに笑い続け、巨人は小さくため息を吐いた。


 もしその一息が地球で吹かれたならば、台風すら超える災害となっていただろう。


「この地球には人が増え過ぎた。もはや魂が多すぎて輪廻転生では間に合っておらず、いずれは魂の溢れで世界が滅ぶ可能性もある。それを解決するためにも、成功させてやってくれ」

「分かってるよー。でも魂が溢れるのって、早くても数百年後の話でしょ? 気が早くない?」

「悩みの種は早めに解決したいからな。今は悪人の転生用世界だが、いずれは善人や大きな魂も送る世界を創ってもらいたい」

「人間の言葉を使うなら偉人だっけ? 偉大なことをした人間ほど魂も大きくて、死後の世界への負担が大きいなんて皮肉だよね」

「仕方のないことだ。しかしこれほど大事な神務を、新しく生まれた神に託さねばならぬとはな」


 巨人はさらにため息。対してヴィナスはなおも明るい。


「仕方ないでしょ。古い神はすでに担当があるわけだし。それに異世界転生なんて面白いよねー。魂を他の世界にーなんて」

「人の想像力には目を引くものがあるのは認めよう」





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 俺達はいつもの部屋に集まっていた。


「今日は魔王の人柄を見るのじゃ! あの憎き人王を倒すために、魔王に力を貸していいか確認するのじゃ!」

「ボクも賛成ではあるんだけど。人王から魔王に鞍替えって百八十度転換だし、今までのこと全部ムダになっちゃったね。あはは」

「いえムダではありません。森での転生を試したから王城に行きつき、王城に行きついたからあの人王が最低だと分かったのです。むしろしっかりと前に進んでいると言えます」


 マヘキさんのメガネがキラリと光った。


 確かにこれまでのことがムダになったわけではない。むしろこれまでのことがあったからこそ、魔王につくという選択肢が生まれたのだ。


「俺もマヘキさんの意見に賛成だし、今までのノウハウは役に立つと思う。魔王の元に転生者を呼べれば、魔国? 側での身分や生存は保証されそうだし」

「失敗は成功のもとって言葉もありますからね」

「そうなのじゃ! 我もだから転生者をどんどん送ってるのじゃ! 失敗するほど成功につながるのじゃ!」


 それは失敗は成功のもとなんてレベルじゃなくて、屍で橋を繋ぐレベルの話では……。


「さあ今回は魔王城の玉座に行くのじゃ! 魔王の人柄を見に行くのじゃ!」


 こうして俺達は異世界へと向かい、いきなり魔王城玉座の間へと転移した。


 部屋内は全体的に暗い部屋で、禍々しい悪魔の像や紫炎のキャンドルなどの飾りつけ。まさに魔王に相応しい場所だ。


 そして玉座に座っていたのはヤギのツノをつけ、漆黒のマントなどを身にまとった人型。


 これまたテンプレ見た目の魔王は、俺達を見て目を丸くしている。


 そりゃそうだ。いきなり玉座の間に侵入者など、驚かない方がまともじゃない。


「な、何者だ!?」

「我はこの世界の神じゃ! 崇めよ!」


 新米女神ちゃんの無茶ぶりがまた炸裂してしまった!?


 こんな状況で神様ですとか言っても、誰も信じるわけが……!?


「そ、その声は……! 以前に神託を下さった声!? あ、貴女が、いえ貴女様が神様なのですか! おかげで人間軍の作戦が分かり、最小限の被害で倒せました!」


 魔王はいきなり玉座から飛びあがると、新米女神ちゃんに跪いてしまった!?


 というか人間軍の作戦が分かったってどういうことだ!?


「ふっふっふ。我はな、コッソリ異世界に潜っておったのじゃ! そしてこの絶対に捕まらないし妨げられない体で、あの人王の伝令の手紙を盗み見たのじゃ!」

「ひ、ひでぇ……」

「無敵の力を完璧に利用してますね。防ぎようのない、まさに悪魔のような攻撃ですか」

「マヘキ! 神の裁きと言うのじゃ!」


 新米女神ちゃんは必死に叫ぶが、盗み見ることといい残念ながら神の裁きとは言い難い。


 でもやられる側はキツイだろうなぁ……どんな攻撃でも危害を加えられないし、壁とかもすり抜けるから情報を隠しきれる気がしない。

 

「魔王! お主は人の王よりいい奴っぽいのじゃ! 我が力を貸してやるのじゃ!」

「な、なんとっ……!」

「新米女神ちゃんストップ!? 少しは魔王城下とかも確認してからにしよう!?」

「大丈夫なのじゃ! あの皇帝は悪じゃ! 悪の敵は正義なのじゃ!」

「そんな簡単な話じゃないよ新米女神ちゃん!?」


 即座に決断しようとする新米女神ちゃんをなだめて、俺達は魔王城下の街へと出向くことになった。

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