第9話 皇帝、お前が諸悪の根源か!


 俺達は王城の廊下を無許可でひたすら歩いている。


「し、侵入者だっ! なんとしても捕縛をっ!」

「だ、ダメだ! 槍で突いてもすり抜けるぞ!? どうなってやがる!?」


 当然ながら衛兵たちが槍で攻撃してくるが、穂先が俺の身体をすり抜ける。


 彼らは俺達に危害を加えられないのだ。


 俺達はこの世界の者ではないからな! まあ俺達からも向こうになにもできないんだけど。


 それと肉体的なダメージこそないが、槍の穂先が迫って来るのは普通に怖い。安全だと分かっていても怖いものは怖い。


「あそこが玉座の間じゃ! 突撃ぃ!」


 新米女神ちゃんの号令に従って、俺達は玉座の間の扉をすり抜けて中に入った。


 俺達は壁すらすり抜けられるのだ! ちなみにここは三階なので、床をすり抜けて落ちそうな気もするがそれは大丈夫らしい。ご都合主義万歳。


 部屋の中はだだっ広く、豪華な柱や旗や絨毯などのまさに贅をつくした部屋だった。


 そしてその部屋の奥では、玉座に座る男が俺達を睨んでいる。


「来たか、貴様らが神を僭称する者か。余はギャクザツ帝国の皇帝シーロ・ゴナミ・ギャグザツ五世である!」

「お主! 人間でありながら我に逆らうとは何事なのじゃ! 何様のつもりじゃ! 返答次第ではこのまま殺すのじゃ!」


 新米女神ちゃんは皇帝をキッと睨む。


 だが皇帝はまるで動じずに見下したように笑い続ける。何て奴だ、新米女神ちゃんはこれでも神なんだぞ!


「黙るがいい! 貴様が神を詐称するならば、余は皇帝である!」

「な、なんじゃと!? 誰が神を詐称じゃ!」


 皇帝の言葉に新米女神ちゃんは動揺してしまう。


 その様子を見た皇帝はニヤリと笑った。


「ククク……神なぞこの世におるわけがなかろう! 余こそがこの世界を支配し、全てを掌握する者だ!」


 あの皇帝、凄まじく不遜なこと言ってるのに気づいてない……。


 新米女神ちゃんはあれでも立派な神なのに。


「どうせ貴様は亡霊の類であろう! だからこそ槍をすり抜け、ここに来れたのだろうが! だが生きた者に危害は加えられぬ!」

 

 俺達が玉座の間に侵入した時から、特に逃げようともせずにずっと玉座に座っている。

 

 それは俺達を危険な相手ではないと認識しているからだ。普通なら侵入者に対して身を守る行動をするだろうに。


「誰が亡霊じゃ!」

「エセ狐の亡霊よ、去るがいい! この世界はすべからく余のものである!」

「誰がエセ狐じゃ!? この世界は我のものなのじゃ!」


 新米女神ちゃんは怒り心頭だ。


 対してマヘキさんは怪訝な顔をして皇帝を見ている。


「ひとつ聞きたいことがあります。なぜ貴方は魔王を滅ぼしたいのですか?」

「この世界は余のものであるべきだからよ」

「何故、この世界は貴方の物だと?」

「下らぬ問答に興味はない!」


 皇帝はマヘキさんの言葉を拒否して、今度はヴィナス様の方に視線を向けると。


「貴様はよい見た目をしているな。肉体さえあれば、余の性奴にしてやるものを」

「うわぁ……こいつ、ボクのことが九歳の少女に見えてるよ」


 ヴィナス様は性癖暴露機だ。彼女の見た目は相手の好みによって変わる。


 つまり皇帝はヴィナス様を九歳の少女に見ている上で、性奴にすると言っているのだ。なんというまさに神をも恐れぬ所業……!?


「なんという鬼畜外道ですか。貴方に国の王になる資格などありません」


 マヘキさんが珍しく声を少し荒げて、皇帝を強く睨んでいる。


 この人は魔法少女は一般性癖だが、やはりロリコンは許さないらしい。


 皇帝は傲岸不遜に、新米女神ちゃん、ヴィナス様、マヘキさんをそれぞれ激高させた。なんて奴だろう。


 そして皇帝は俺達をさらに見下すように眺めたあと。


「そもそも異世界転生などと下らぬことを! この世界はそんなものは不要だ! そもそもなにも出来ぬ転生者にチート能力など与えて、なにが面白いというのだ。無能は無能らしく死んでおくべきだろうが」


 俺はその言葉にイラッとした。


 ……異世界転生が下らないか。確かにこの皇帝の立場からすれば、異世界からやってくる者など目障りなのだろう。


 だが俺は異世界転生が好きだ。好きなものを下らぬと断じられたら腹も立つ。


「貴様。我に逆らったのじゃ、楽には死なせぬぞ!」

「ボクを性奴にしたいだなんて、身の程を弁えなよ下郎」

「少女を無理やり襲うロリコンは、世界で最も存在してはならぬものです」


 皆が皇帝に激怒している。


 そして俺もこの皇帝は気に食わない。


「皇帝、貴様は神に喧嘩を売ったのじゃ! その罪、もはや死ぬ程度では洗えぬと知るのじゃ!」

「君が死んだら転生させてあげるよ。すぐに潰される虫か、実験体のモルモットとしてね!」

「下らぬ! 亡霊ごときが神を僭称するでない! そして余は神すら恐れぬわ! それならば最初から転生者を雑に扱ってなどおらぬ! この世界は生者のものと知れ!」

「もう怒ったのじゃ! 我がなにもできぬと思っているおめでたい頭に、目にモノ見せてやるのじゃ!」


 実際なにもできないのでは? と思ったのも束の間。


 新米女神ちゃんは空中ディスプレイを出現させると、画面上でなにかの駒らしきものをつまんだ。

 

 その瞬間いきなり部屋に光が溢れて、棒人間のようなものが瞬時にこの場所に出現した。


 あ、あの棒人間はまさか!?


「出でよ! 我が配下ディアベルバル! あの悪王をやるのじゃ!」

「な、なんだここは!? どうなっている!? 私は魔王城にいたはずでは!?」

「て、敵襲ー!? 敵襲だー!? 王を守れぇ!?」

「馬鹿な!? ディアベルバルだと!? 貴様亡霊のくせになにをした!?」


 新米女神ちゃん、なんと魔王軍四天王筆頭のディアベルバルを、よりにもよって王城玉座の間に呼び寄せてしまった!?


 皇帝も衛兵もディアベルバルもすごく焦って、現場は完全にカオス状態だ!?


「!? 貴様、まさかギャグザツ皇帝か!」

「ま、魔王軍四天王筆頭が何故ここに!? こ、皇帝陛下をお守りしろ!」

「いい気味なのじゃ! 少し気分も晴れたし帰るのじゃ! 次は我も攻撃の方法を考えておくのじゃ!」

「このカオスな状態を放置して帰るの!?」

「神らしいじゃろ?」

「確かにそうですね」


 どこが!? と言いかけたら、なんとマヘキさんが同意してしまった!?


 い、いったいどこが……、


「まさに疫病神に相応しいですね」

「うわすごく納得できる」

「そういう意味じゃないのじゃ!?」


 王城の面子もディアベルバルも大混乱だ。グダグダの展開になった隙に俺達はさっさと地球へ帰るのだった。


 ちなみにディアベルバルはわりとすぐに空を飛んで逃げたらしい。別に彼? は新米女神ちゃんの配下じゃないし、意味不明な状況だと戦わないよな……。



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