第14話 選ばれたのは悪党でした
「ここが、魔王城なのか?」
気が付くと不気味な装飾に彩られた大きな部屋にいた。
たしか真っ白い空間で謎の少女に、異世界転生するとかどうとか言われた記憶がある。正直馬鹿らしくてまともに聞いていなかったが。
異世界転生で英雄になれとか言われたが、あまりにもくだらない。俺は散々悪いことをしてきたのだから、どうせ地獄送りに決まっている。
「よく来たな、転生者よ。我が名は魔王!」
目の前には玉座に座った男が、俺を向いて叫んでくる。
頭に角があるので人間ではなさそうだ。やはり地獄の鬼の類か。
「案ずるな、お前のことは色々と美少女女神様より聞いている。我らに危害を加えない限りは衣食住は約束するし保護もしよう」
「…………」
魔王と名乗った男は人の好さそうな笑みを浮かべる。
正直どうでもいいので、美少女女神って女を二回言ってることになるだろと思ってしまう。
そしてなにより下らない嘘に吐き気がする。
「俺のことを聞いているならあり得ないな。俺のやったことを考えれば、そんな話をされても白々しいんだよ」
この時点でこの魔王とやらは信用するに値しない。
俺のことを知っているならば保護なんてするわけがない。つまり俺のことを知らないのに嘘を言っていることになる。
「いや本当に知っているとも。例えば君の名前は龍宮寺……」
「その名を口にするんじゃねえ!」
その単語を聞いた瞬間、俺は全身に鳥肌が立った。
二度と聞きたくない単語が耳に入ってしまったことで、それを発した奴を睨む。
もしもナイフでもあったならばこの場で殺していただろう。命拾いしたな、魔王とやら。
「次にその名を言ったら殺すぞ!」
「ははは、承知した。気を付けよう」
怒りを込めて叫んだが魔王とやらは特に動じない。
普通の奴ならすぐに怯えて金なり出してくるんだがな。
「では転生者と呼ばせてもらうが構わないな?」
「……名を呼ばなければどうでもいい」
「わかった。では転生者よ、この世界の説明をさせて欲しいが構わないかな?」
「勝手にしろ。まともに聞くかは分からんがな」
「いまは聞き流して構わない。断片的にでも情報が入るだけで違うだろう」
この部屋にいるのはこいつだけだが、おそらく外には他の者もいるだろう。こんな豪華な建物ならボディーガードを雇っていそうだ。
包丁の類でも持っていればよかったのだが、素手だと逃げてる途中で捕らえられてしまう。
……チッ、よくわからないが流石にここで暴れても無駄そうだ。仕方ない、ひとまず逃げられそうなタイミングまで様子見か。
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「お、おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!! 半日、生き残ったのじゃぁ! これなら一日を過ごすことも可能に見えるのじゃ!」
モニターの前で新米女神ちゃんが狂喜乱舞している。俺も思わずガッツポーズ。
新たに送り出した転生者は、魔王の庇護の下にすでに半日を超えてまだ自由に生きれていた!
今までなら森で殺されたり、皇帝に捕らえられたり殺されたりだったのに!
たった半日? バカを言うな! その半日を生き残らせるために、どれだけの試行錯誤をしてきたと思っている!
…………いややっぱり半日生存で喜ぶのおかしいな? 感覚がマヒし過ぎてるなこれ!?
「すごいよ新米女神ちゃん! これなら三日の生存も夢じゃない! これは快挙だよ!」
ヴィナス様も新米女神ちゃんを褒めたたえている。
「三日の生存が夢に例えられるとは、やはりこの異世界は地獄ではないでしょうか」
「よかった。俺が異常なわけじゃなかったんですね」
マヘキさんがこっそりと耳打ちしてきて、俺もうなずいて同意してしまった。
やはりこの世界は地獄だ。人間の生きるような環境じゃない。
「やはりマヘキの言うように人材は選ぶべきじゃな! 人間ってなんで面談とか面接とかやりまくるか不思議だったのじゃが、意味があったってことなんじゃな!」
「本当だね! ボクもあの無意味な儀式はなんなのかと思ってたよ! 皆が同じような衣装に包んで、御社ーとか歯車ーとか潤滑油ーとか同じ呪文唱えてさ!」
「葬式との違いがわからなかったのじゃ!」
悲報。新卒採用が葬式のような儀式と思われていた。
確かに言われてみれば全員が黒っぽいスーツ揃えて、同じように面接繰り返すのは事情知らなかったら不気味か?
「まあ二神様も落ち着いてください。まだあくまで半日の壁を突破しただけです。むしろここからが本番でしょう? 最低でも三日生き残れるかです」
「えっ? そ、そうじゃな!?」
新米女神ちゃんが腕を振るうと、いつの間にか机の上に出ていた酒瓶やスナック菓子の袋が消滅した。
明らかに祝勝宴でもやる雰囲気だった。半日突破で完全に舞い上がっている。
「せっかく転生者が生き残りそうなのです。我々も全力で支援するべきでしょう。ひとまず今の転生者の一挙一動を確認していきましょう」
「そ、そうじゃな! 流石はマヘキじゃ!」
「頑張ろー! ボーグマン君もそれでいいよね?」
「もちろんです。せっかくの最長記録更新なんですから、少しでも長生きさせましょう」
こうして俺達は新しい転生者に注力することに決まった。
「あ、そうそう。今回の転生者のプロフィールなのじゃ!」
新米女神ちゃんが俺達に紙を渡してきたので、その内容に目を通す。
書かれている内容は彼がどんな人生を送ってきたかだが……。
「こ、これはまた重いな……」
「選りすぐりと言うだけのことはあります」
俺もマヘキさんも彼の人生を見て少し暗くなるのだった。
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