第13話 選りすぐりの悪党
「転生者を選ぶじゃと? 殺人を犯したような悪人しか選択肢がないのに?」
マヘキさんに対して新米女神ちゃんが聞き返すと、
「はい。これまでの転生者は完全にランダムでした。ですが人間には大きな個体差があります。人柄や能力を選べば生存率は上がるかもしれません」
「そうかのう? ヴィナス様はどう思うのじゃ?」
「さあ? ボーグマン君はどう思う?」
おおっとなぜかたらいまわしで俺に振られたぞ。
「確かに転生者を選ぶというのはアリかもしれない。大罪を犯した人であったとしても、罪の意識に苛まれた人もいれば微塵も反省しない奴もいるし」
例えば殺人を犯した者が二人いたとしても、ひとりは「はぁはぁもっと殺したい」でもうひとりは「殺してしまった……」だったら大きく違うだろう。
それに状況などもある。例えば普通に強盗殺人をした奴と、過剰防衛の結果で死なせてしまったのでは全然違う。
日本の法律ですら反省次第では、情状酌量の余地などで罪が軽くなる可能性もあるのだから。
「むむむ、確かにその通りじゃな。悪事をしていても違うのじゃ」
「それに個人の能力も違うでしょう。例えば殺し合いのプロなら強いでしょうし。ただ火薬の知識を持つ者は気を付けなければなりませんが」
確かに人によっては火薬の作り方を知っているのもいそうだな。
悪人が火薬チートなんて危険すぎるから、絶対に避けるようにしないと……。
そう思った瞬間だった。
「そ、それじゃ! 選りすぐりの悪党を選んで転生させればいいのじゃ! 火薬とかに詳しい奴ならなおいいのじゃ! 産業革命じゃ!」
ダメだ新米女神ちゃんに余計な知恵を与えてしまった!?
「異世界がめちゃくちゃになるぞ!?」
「別に構わんのじゃ! あの憎き人王さえ倒せて、我が転生者に感謝されたらそれで! その後に異世界がどうなろうと知ったことではないのじゃ!」
新米女神ちゃんは両手を広げて高らかに叫ぶ。
もう言ってることが完全に邪神なのだが、これでもまだ聖神を自称するつもりなのだろうか。
「えーっと……異世界で無双できそうな悪党はどれじゃろ……」
そして机ディスプレイをタッチして、悪人リストを見始める新米女神ちゃん。
悪党に無双された異世界はいったいどうなってしまう……!? 流石に止めよう!
「待つんだ新米女神ちゃん! 魔王はいい人っぽいから、あまりアレな転生者を送ると可哀そうじゃないかな!? そういうのは貯めておいてさ、いざという時に人王のところに送ろう!」
「た、確かにその方がいいのじゃ! じゃあ今回は性格がよさそうな転生者にするかのう」
や、やった! なんとか異世界が悪党と火薬に蹂躙されるのを防いだぞ!
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私ことマヘキは新米女神さんたちの言動を聞きながら、とあることについて考えていた。
あまり今の話題に関係のあることではないのですが、気になってしまうとどんどん頭が働いてしまう。
私の脳裏にあるのは、この世界で魔王と人間が争っている理由についてだ。
これは魔法少女の話なのですが、やはり争いが起こるには理由がある。
例えば大事なモノの取り合いだったり、世界破壊を企む悪を滅するなどの大きな理由が。
そしてこういう場合、世界破壊を企む悪にもそれ相応の理由がある。たとえば人間が苦しむ心がエネルギーになるなどでしょうか。
だがこの異世界ではそういった理由が見えてこない。人と魔王が争っているのはわかるが、その背景や理由が全然わからない。
あのギャグザツ皇帝は魔王も神も滅ぼすと言っていたが、あの男が何故そう思っているかも分からない。
そして私はその背景にとある仮説を立てていた。
(新米女神さんは基本的に雑です。なので人と魔王が争っているという設定だけ作って、あとは特に考えていないのでは?)
新米女神さんは魔王軍四天王(ぼっち)を作った実績もある。ならば今回も自分にとって都合がいいように、魔王と人が争うということだけを用意しただけな気がしている。
実際、皇帝に何故魔王と戦うのかを聞いてもフワッとした答えだった。
そうなると色々なことが悲しく見えてしまう。
(この争いの理由は人による侵略戦争でしょう。それを皇帝が世界征服のために命じているように思えますが……彼の野心が世界の設定のために造られたものだったとしたら?)
皇帝が全てを手に入れるのを欲して戦争を仕掛けたのならば、それは別に問題はない。
だがもし人と魔王が戦争する理由として、無理やり皇帝の心が捻じ曲げられていたら?
なにせそういうことでもしないと、人と魔王が争う理由があまり見当たらない。
魔王の民はかなり少数のように見えるので、わざわざ人間の領地を奪う必要はない。その争う理由に皇帝の野心が、もし埋め込まれたのだとしたら。
そう考えると皇帝が哀れに思えてしまう。そしてなにより。
(本人が狙ったわけではないでしょうが、新米女神さんが完全に黒幕の邪神ですね。あくまで仮説ですし、流石に口に出すのはやめておきましょう)
余計なことは言わない。それが平和に生きるコツである。
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