第12話 魔王軍四天王の残りを用意しよう


 俺達は現実世界へと戻って、さっそく魔王軍四天王をデザインし始める。


 デザインと言ってもシャーペンで紙に描くだけだが。


「あ、失敗したのじゃ。ボーグマン、そこの消しゴム取って欲しいのじゃー」

「ほいほい」

「ボーグマン君、ついでにそこの定規取って欲しいなー」

「はいはい」


 四人揃って机ディスプレイの上で、イラストを描き殴っている。


 とても新たな生命を誕生させるとは思えない。


「むむむ……コンパスを使うの結構難しいのじゃ」

「もう少し痛みを与えられる攻撃方法が欲しいかな。一センチくらいの太さの固い牙とか。マヘキ君はどう思う?」

「申し訳ありませんが話しかけないでください。私の夢の一部がここで果たされるかの瀬戸際です。ドレススカートの装飾を多くするか少なくするか……」


 うなる新米女神ちゃん、機嫌よさそうなヴィナス様、まるで人生を賭けた勝負のように真剣な顔のマヘキさん。


 まさに三者三様だ。ただ生命を作り出していることを考えると、マヘキさんくらいがちょうどいいのかもしれない。


 彼が描いているイラストが魔法少女でさえなければ、きっと完璧だっただろう。


 そんなことを考えながら俺も絵を描き続ける。

 

 そうして少し時間が経ったあと、全員が完成したので互いに見せ合うことになった。


「力作なのじゃー! 頑張ったのじゃ!」


 新米女神ちゃんが見せびらかしてくるイラストは、箱に丸が書かれたもの。端的に言うとものすごくデフォルメ化された車だった。


「……車、だよね?」

「そうなのじゃ! 実はのう、異世界に何度か降臨したじゃろ? その時に足が欲しいと思ってのう。この皇帝ひき殺し車には我らが乗れるようにするから、異世界での移動手段にするのじゃ!」


 生き物じゃなくて乗り物じゃないか。


 とは言え小回りが利く移動手段があるのはありがたいかも。二回ほど異世界に降り立ったが移動に思ったより時間がかかったからな。


 魔王軍四天王の一体がデフォルメカーなのはどうかと思うが。でも俺達のアバターって言ってたから、新米女神ちゃんの自由ということで。


 名前は突っ込まないぞ。


「次はボクのを見てよ。それなりに自信作かなー」


 ヴィナス様が見せてくるイラストはスライムだった。下半身は球体で上半身が裸の女の子の姿を象っている。


 その絵の特徴を端的に言うなら激烈に上手ということだ。色を塗っていないシャーペンの絵だというのに、フルカラーラノベのイラスト表紙よりも目を惹かれる。


 目の大きさ、表情、仕草など諸々が綺麗に見えるイラストだ。


「す、すごい綺麗だ……」

「美の女神の名は伊達ではないということですか」

「そうでしょ? この娘はスラミンって名前にするの」

「むむむ……我に劣らぬ上手さなのじゃ! ところでなんで下半身は球体なのじゃ? これだと移動しづらいのじゃ」


 確かに新米女神ちゃんの言う通りだ。


 下半身が球体だと動きづらそうだし、人型をとったほうがよさそうに見える。


 するとヴィナス様は恍惚とした表情になった。


「人間を呑んだらそこに閉じ込めて、ゆっくり溶かすためだよ。じわりじわりと死んでいく様は、きっと人間として至上の美しさを放つよ。それにスライムなら相手を殺さずに痛めつけられる」


 そういえばこの神様は真正のSだった……。


 スラミン……見た目はすごく綺麗で名前は可愛いのに、絶対に出会いたくないタイプの魔物になってしまった。


 しかし弱ったな。俺の考えた魔物は普通だぞ。


 マヘキさんはもう間違いなくアレなのが分かっているので、最後に回されるとインパクトが弱すぎる! ここはさっさと公開してしまおう!


 俺の魔物は完全に自分の好みだ! というか実は内緒で書いている異世界転生小説の主人公! 


 まさに俺の考えた魔物だ! 自分の小説の主人公を創造できるのだから! まさに人の夢だろうこれは!


「よし次は俺だな! 俺は甲冑を着たサイボーグの」

「あ、地球より発展した生命はダメなのじゃ」

「…………」


 泡沫の夢だった。最終的に甲冑を着たデュラハンで妥協した。


 そしてとうとう最後に残った問題児。マヘキさんの番となった。


「では最後は私ですね。魔王軍がお題なのに皆さまの予想を裏切るようで恐縮ですが、私は魔法少女のイラストです」

「マヘキさん、誰一人として予想を裏切られてませんよ」


 そんな彼が見せてきたのは、黒衣のドレスを着た高校生くらいの魔法少女だった。


 なんというか悪っぽい感じがするのは、魔王軍だからだろうか?


 それと普通に上手い。プロのイラストレーターと言われても違和感ないレベル。


 ヴィナス様のイラストを先に見ていなければ、きっとものすごく目を惹かれていただろう。


「あれ? ボクのイメージだと魔法少女って九歳から十四歳くらいなんだけど。この娘、それにしては年齢高そうだけど」


 俺もヴィナス様の意見に同意だ。


 このイラストの娘は女の子と言うにはかなりギリギリに見える。女子高生とかくらい。


 するとマヘキさんは待っていたとばかりに、


「この娘は堕ちたのです。かつては正義の心を持っていた人間の少女でしたが、魔王軍によって闇に染められた先代の魔法少女です。そして新たなる世代の魔法少女の敵として立ちふさがる。ですが最終的にかつての心を取り戻して、再び人類の味方に戻って戦うことを決意するのです。ただ魔法の力は全盛期よりも弱まっていて」

「ストップなのじゃ! 放っておいたらいつまでも話続けそうなのじゃ!?」


 いつもの数倍饒舌なマヘキさんを、新米女神ちゃんがなんとか止めた!


 よかったよかった。放っておいたらたぶんずっと話していたぞあの人。


 なにせあの魔法少女のイラストの裏は、まるで経文のように字が書かれてるし……。


「というか人王を倒す戦力なのに、人に寝返らせてどうするの?」

「おっとそうでした。では人王を倒した後、自分が王になって救世主となる方向で」

「異世界の王様が勝手に決められたのじゃ!?」


 こうして魔王軍新四天王が爆誕した。


 車、人間苦しめ特化スライム、デュラハン、堕ちた年齢アウト系魔法少女…………まともなの俺のデュラハンだけじゃないかこれ?


 そしてこれらの筆頭にされてしまったディアベルバルは、きっと一番の被害者だろうな……いきなり敵本拠中心部に召喚されたり、扱いがものすごく酷い。


「しかしすごくいっぱい書いてるのう。我がこの世界を創った時の設定より文字多いのじゃ」


 悲報、異世界の設定ペラペラだった。いや知ってたけどさ!


「さあ次は魔王城に転生者を召喚するのじゃ! さっそくてきとうに選んだ魂を」

「待ってください。次はもう少し転生者を選ぶべきと思います」


 新米女神ちゃんが机ディスプレイを操作しようとすると、マヘキさんが待ったをかけた。



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新米女神ちゃんがこの世界を創った時の設定分の文字数<マヘキの魔法少女の設定文字数




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