第15話 三日生存の新記録


 俺が異世界に来てから三日が経った。


 魔王からこの世界の説明を受けた後、俺は自分の部屋を与えられて存外自由に過ごせている。


 問題があるとすれば、俺の身体が人間ではなくなっていたことくらいだ。


 と言っても頭に角が生えて、背中に大きなコウモリの翼があるくらいだが。


 クズにはお似合いの姿だと思えば特に気にならない。


「転生者よ。今日は街に出てみないか? 我らのことを知って欲しい」


 魔王城の食堂で朝食をとっていると、魔王がやってきて話しかけてきた。


 こいつは俺に対して衣食住を与えてくれているので、それくらいなら答えるのもやぶさかではない。


 地球では毎日食うために、人を襲って恫喝を繰り返してきたからな。あれは大変だった。


 なにが大変かというと、人を脅して財布を奪っても現金があまり入ってないことだ。電子マネーやキャッシュレスが流行ってるせいで。


 キャッシュカードなんぞ盗ってもすぐ止められるのがオチなので、現金だけその場で引き抜いて財布は返していた。


 もちろん訴えたら殺すと脅した上でだ。そうすれば多少の現金なら諦めてくれることが多く、通報されることが少なかった。


「いいだろう。俺はクズだが一宿一飯の礼くらいは知ってるつもりだ」




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 モニターの前では新米女神ちゃんとヴィナス様が、ハイタッチをして喜んでいた。


「やったのじゃ! とうとう三日と言う壁を突破したのじゃ! これは歴史的快挙じゃ!」

「やったね新米女神ちゃん! ボクたちは伝説を創ったんだ!」


 関係ないけど三日坊主って言葉あるよね。


 三日生存が歴史的快挙とかなにかがおかしいが、あの異世界では実際に歴史的快挙なのがまた。


「これならあの転生者が、憎き皇帝を潰してくれるのじゃ! 神を侮辱した愚か者に、裁きが下されるのじゃ!」

「それはどうでしょうね」


 大喜びの新米女神ちゃんに水をさすように、マヘキさんが淡々と告げてくる。


「のじゃ!? 三日も生き残った逸材じゃぞ!? なにが問題なのじゃ!?」

「問題ならいくらでも思いつきますが。一番は当人にあまり殺る気が感じられないことですね。あのままですとあの転生者は、皇帝を倒す動機が皆無なのでは?」

「確かに危険なマネするなら、それ相応の理由がいるよなぁ……」


 例えばゲームで勇者が魔王を倒すのは、放っておいたら世界が滅んで大事な家族などが死んでしまうからだ。


 だからこそ命を賭けて魔王軍四天王とか倒して、魔王を倒すように頑張っていく。


 もしくは両親が殺されての敵討ちとか、なんにしてもなにかしらがある。


 だがあの転生者には世界を救う理由がない。命を賭けるような戦いに自ら進んでいくだろうか?


「のじゃ!? た、確かにそうなのじゃ……! そ、そんなことなら三年以内に皇帝を殺さなければ、転生者が爆発して死ぬとかにしておけばよかったのじゃ!?」

「それいいね! 二年と九か月くらい経って、それでも魔王を殺せてない転生者の焦り……きっと美しいよ! 想像したらゾクゾクする!」

「じゃあ次の転生者からは実装するのじゃ!」

「なんで常にエグイ方向に持って行こうとするんだ!?」


 この二人、本当に地獄が好きすぎるだろ!?


「しかし人間なんぞ命の危険がなければ動かないのじゃ! ほれ人の歴史は戦争と共に発展するではないか」

「うんうん。日本だって戦国時代にすごく発展したけど、平和な江戸時代は微妙だったよね? 芸術の類は発達してたけど、技術的には進まなかった。それで黒船が訪れて、必死に逃げ纏う人たちが一番美しい芸術だったなぁ」

「ヴィナス様、黒船リアルタイムで見てたんですか?」

「うん。面白かったよ」


 とんでもない事実をフェードアウトされた気がする。


 いや神様なら三百年くらい生きてても全く不思議じゃないけどさ……。


「ひとまず今はあの転生者が、皇帝を倒すように誘導するのを考えるべきでしょう。のちの転生者を爆弾にするかはおいおいで」


 マヘキさんがメガネをクイッとする。どうやら話を逸らす方向に動いたようだ。


 歴史の生き証人、いや生き神様相手に反論するの厳しそうだしな……。


「確かにそうなのじゃ。でも自爆なしでどうすればいいのじゃ?」

「ボクとしては刺客でも送るとかいいと思う。三年以内に皇帝を殺さなければ、転生者を殺すみたいな」

「命の脅し以外の方向で考えよう!? ほらせっかくの歴史的快挙の有能な転生者を、そんな簡単に殺したらもったいないでしょ!?」

「むむむ。じゃあボーグマン、殺す以外にいい方法はあるのじゃ?」


 うわ、振られてしまった。


 確かに改善策を出さずに反論だけはよくない…………えーっと、えーーーっと。


「……世界を守る理由を用意すればいいんじゃないか? ほら、例えばベタだけど子供ができたら、その子の幸せのために皇帝を倒してくれるかも」


 大切な相手ができて、その人と子を成せば皇帝とも戦ってくれるのではないか。


 問題は大切な相手をどう用意するかだが。


「なるほどなのじゃ! じゃがそれには問題があるのう」


 新米女神ちゃんも俺と同じく、大切な相手を用意する方法に悩んで、


「ヴィナス様、男を妊娠させるにはどうすればいいのじゃ?」

「うーん。卵を埋め込む魔物を創るとか?」

「違うそうじゃない!? 妻! 大事な女性と結婚して子供を産ませるの!?」

「なんじゃ。それならそうと言うのじゃ! 処女受胎の男版かと思ったのじゃ!」

「そう言ったつもりなんだけどな!?」

  

 じょ、常識が、常識が違いすぎるっ!?


 危うく転生者の男が苗床とかいう、誰得な展開にされるところだった。


「わかったのじゃ! 絶世の転生者大好き美女を用意するのじゃ!」


 新米女神ちゃんは自信満々に告げてくる。


 だが何故だろう。彼女の言ってることはそこまでおかしくないのに、今回も失敗する未来しか見えないのは。

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