第16話 絶世の美女


 俺は魔王に街を案内された後、自由行動を許されて一人で出歩いていた。


 魔王め、俺のことを知ってるくせになんて扱いをしやがる。首輪くらいつけておけってんだ。


 周囲を見回すと頭に角をつけた人間が一番多いが、二足歩行の獣や鬼みたいな奴が人間のように生活しているのが見える。


 すげぇな。別の生き物だろうに仲良く暮らせるとはな。地球だと肌の色や人種で喧嘩するくらいなのによ。


「……魔王ね。悪いイメージしか持ってなかったが、ようは魔物の王ってだけか。その名自体が悪を指す言葉ではな……」

「お待ちしておりましたわぁ! 転生者様ぁ!」


 いきなり甲高い声が響いて来て、思わず睨む。


 するとそこにいたのは……えっと、平安時代の絵で見たようなやつ!?


 おたふく顔にマロ眉、無駄にカラフルな着物の女!? どうなってやがる!? ここは中世風異世界じゃなかったのかよ!?


 不気味な女はノシノシとこちらに近づいて来る!?


「転生者様ぁ! 私の名は大野大町! 貴方の妻となるべく遣わされた、絶世の美女でございますわいとおかし! 好きですわぁ! 抱いてくださいですわー!」


 ふ、ふざけんな!? なにから突っ込んでいいか分からないがふざけんな!? 


 魔王め! 俺に嫌がらせを……いや違う! きっとこれはあのふざけた邪神の仕業か!? 世界観考えろよ!?


 なにが俺の妻だふざけんなよ!? これ下手に捕まったら……ヤバイ気がする!?


「ひ、ひいっ!? 来るな!? 来るなぁ!?」

「あーれー! お待ちになってー! 好きですわー! 一緒にこどもを創りましょうー!」 


 俺は一目散に逃げて王城に帰った。




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「せっかく世界三大美女の日本版を用意したのに! なんで逃げるのじゃ!」


 新米女神ちゃんはモニターを眺めながら怒っている。


「いやもうそりゃ逃げるでしょあんなの……」

「なんでなのじゃ! 転生者が好きでたまらない美女を創ったのじゃぞ! あの世界三大美女の小野小町の画像を取り込んで、しかも人間風に直してるのじゃぞ!? なんてワガママな!」

「なるほど。世界三大美女なら大丈夫と考えたわけですね」

「そうなのじゃ! せっかく考えたのに!」


 新米女神ちゃんは怒り心頭だ。


 どうやら彼女なりには工夫したようではある。以前なら棒人間とか出してたかもしれないし。


 でも残念ながらゼロ点が五点になった程度であった。


「えっとね、新米女神ちゃん。ボクが分かりやすく教えてあげるね」


 今回はヴィナス様もダメな理由を分かっているらしい。


 流石に美の女神なだけあって、その方面にだけは強いようだ。


「ヴィナス様教えて欲しいのじゃ! なんで世界三大美女がダメなのじゃ!?」

「えっとね。まず美しさというのは時代や場所、それに人によって変わるんだ。ボクの姿が見る人によって変わるのも、不変では美になり得ないからなの」

「な、なんと……つまり小野小町はもう時代遅れの婆ってことなのじゃ!?」

「新米女神ちゃん言い方」


 世界三大美女を婆呼ばわりは、なんかどこかで怒られそうな気がする。いや婆どころかとっくに骨と皮すら残ってないだろうけど。


「それとね。見た目が仮にその人の好みでもあれだとダメだよ」

「なんでなのじゃ?」

「うーん、そうだね」


 ヴィナス様は少し逡巡した後に、俺の方をジッと見てきた。


 そしてゆっくりと俺の目の前まで歩いて来ると、少し赤面してモジモジし始める!?


「えっとね……実はボク、ね。ボーグマン君のこと、気になってて……」

 

 ドキッとしてしまった。


 俺の理想的な好みの女の子が、目の前で照れながら俺に好意をぶつけてくれてる……!?


 さらにヴィナス様の顔が赤くなって、恥ずかしそうに俯いて……服に手をかけて!?


「それでね、えっとね……よかったら……ボクのこと好きに……っていう風に、恥ずかしがらせた方がいいよ? そうすればボーグマン君みたいになるから。まずは偶然を装って知り合いにしてそこからかな」


 ヴィナス様は瞬時に全ての甘い雰囲気を吹き飛ばして、さわやかに笑いながら離れて行った。


「なるほどなのじゃー」

「いきなり出会って抱いては、流石におかしいですからね。なにかしらの理由がないと、まあ十中八九美人局の罠でしょう。悪人なら当然疑います」

「…………」


 新米女神ちゃんとマヘキさんが頷いてるが、俺はまだ立ち直れそうになかった。


 辛い。理想的な可愛さの美少女に見せられた幻視が。


 だってさ!? 見るだけでドキッとする少女が俺のこと好きって言ってくれて、顔を赤くして告白ムード出して来たんだけど!?


 ああああああああああああ!!!!!


「ボーグマン、なんで両膝を床についてうなだれておるのじゃ?」

「あはは。ちょっと刺激が強かったかな?」

「かなり酷薄なシーンでしたからね。ボーグマン君、代わりにおススメの魔法少女アニメをお教えしますよ」

「いえ結構です…………」


 俺はなんとか立ち上がってノーダメージを装う。


 いややっぱりヴィナス様の姿が目に入って泣きそう。


「なるほどなのじゃ。つまり大事なのは奥ゆかしさと、その人間の好みということじゃな?」

「そうそう! ボーグマン君の尊い犠牲は無駄じゃなかったね!」

「わかったのじゃ! じゃあ次は現代風の可愛い少女を用意するのじゃ! しかしそうなるとどんな見た目がいいかのう」


 新米女神ちゃんは腕を組んで悩み始める。


 正直新米女神ちゃんの姿を象れば、大抵の男は好みだと思うのだが。


 するとなにか思いついたのか、彼女は手をポンと叩いてマヘキさんを見た。


「そうじゃ! マヘキの作った魔王軍四天王の魔法少女を使って」

「あ”っ?」

「嘘じゃから殺意を込めた目で睨まないで欲しいのじゃ!?」


 マヘキさんの背中にヤバイオーラが見えるようだ。


 いやなんか本当に床が微妙に焦げてるような……? 


 すると新米女神ちゃんがごまかすように、再度手を鳴らした。


「そういえば思い出したのじゃが、異世界転生系の作品って少女を助けるの多かった気がするのじゃ! 盗賊に襲われてるやつ!」


 確かに異世界転生系で盗賊は鉄板だ。そしてそこで助けた少女と仲良くなるのも。


 なるほど初対面で仲良くなるのに、盗賊はすごく便利だったんだな……そこまで考えて異世界転生作品を見たことがなかった。


「よし! ならばすぐに盗賊と美少女を用意するのじゃ! そして美少女を盗賊に襲わせて、そこを転生者に助けさせるのじゃ!」


 新米女神ちゃんの案はアリだと思う。酷すぎるマッチポンプだけど、そんなの今更過ぎる話だし。


 これで俺が弄ばれた純情も少しは報われるというもの……。


「……む? 転生者の近くに少女が寄っていますよ?」


 新人女神ちゃんが壮大なマッチポンプをしようとしたところ、マヘキさんが告げてきたのでモニターに視線を向けた。


 すると転生者と知らない美少女が仲良く話をしていた。いつの間にやら意気投合したようでほのかにいい雰囲気を醸し出している。


「おお! これなら別に美少女も盗賊もいらないのじゃ!」

 

 ……あれ? もしかして俺の純情は無駄に弄ばれただけ?


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