第25話 決着


「食らいやがれ! フレイムブレイズフレア!」


 転生者が極大の炎で敵兵を焼き殺し、


「貴様らに恨みはないが、皇帝に従うならば抹殺する!」


 ディアベルバルが両手をバットのように扱って、敵を金属鎧の上から叩いて撃沈し、


「くたばるのじゃあああ!」


 新米女神ちゃんのキングカーが敵兵を大勢吹っ飛ばしていく。


 気が付くともう帝国兵で立っているのは、皇帝のそばにいる二人だけだった。


「ば、バカな……! 近衛兵だぞ!? わが軍の最精鋭が!?」

「なにが最ぜっ」


 一噛み。


「再せせっ……」


 二噛み。


「最精鋭じゃっ! 神に比べれば赤子にも劣るわ!」


 悲報。新米女神ちゃんめちゃくちゃ噛み噛み。


 実際最精鋭ってわりと言いづらいかもしれない。あの皇帝、動揺しながら噛まずによく言えたな。


 そして皇帝は玉座から立ち上がると、新米女神ちゃんをすさまじい形相でにらみ始めた。


「邪神がぁ! この世界は貴様の遊び場ではないぞ!」

「失礼な! 我は別にこの世界で遊んでないのじゃ!」


 皇帝の言葉を即否定する新米女神ちゃん。


 そうだ。実際に彼女は別に遊び半分で転生者を送っていたわけではない。


 あれでも彼女なりに真面目にやっていたのだ。結果としてひどい惨状になったが、新米女神ちゃんは別に遊びでやっていたわけではない。


 そこだけは勘違いをしてはいけないのだ。彼女は転生者が生き残るように必死に考えていたのだけは間違いない。


 ただ発想が明らかに邪神のそれなのも間違いないが。


「おい皇帝さんよ。この邪神が世界で遊んでいたかはどうでもいい」

「よくないのじゃ!?」

「それよりあんたこそだ。この世界でなにがしたいんだよ」


 転生者こと龍宮寺は皇帝を試すように見ている。まるで見極めようとしているかのように。


 その問いに皇帝はさらに顔をゆがませると。


「余は世界の皇帝なるぞ! この世界全てを掌握し、魔物を殺して人の国を作り上げる! それこそが余の義務!」

「義務ねぇ。その感情自体が、邪神に操られてるとか考えないのか? あんたが改心するなら、もう戦わなくてもいいと思うんだが」


 龍宮寺は小さく自嘲気味に笑った。


 なんと皇帝と和解するつもりがあるらしい。どこが悪人なのだろうか、まるで勇者のようだ。


「はぁ!? そんなのあり得ないのじゃ!? 絶対ダメなのじゃ!? 皇帝を殺さぬ限り世界に平和は訪れないのじゃ!?」


 そして皇帝絶対許さない神様だが、平常運転なので放っておくことにする。


 いや新米女神ちゃんからしたら、皇帝殺さないと神気が手に入らないから仕方ないのだが。


 そして皇帝はそんな龍宮寺の問いに対して、


「くくく……はははははは!」


 ただ笑っていた。


「転生者、貴様は勘違いをしている」

「勘違い?」

「そうだ。貴様は魔族のくせに、人間と対等に話そうとしていることだ。わかるか? 貴様ら魔族は殺されねばならぬ存在なのだ!」


 皇帝の声には憎悪がこもっていた。とてもてきとうに言い放った言葉ではない。


「…………何故だ」

「貴様らはあの邪神に従う、愚かな創造物だ! ならばこの世界を穢す異物である!」

「…………」


 転生者は黙って目をつぶった後、しばらくしてから再び開く。


 その視線はもはや先ほどまでのやさしさなどなく、ただ殺意に満ちている。


「残念だ。ここまで脅してもなお屈しないならば、お前は邪神関係なくそもそも話が通じないようだな」

「話ならば通じるぞ。対等な者同士であればな! 魔族! 貴様らはこの世界の異物! あってはならぬ存在だ!」

 

 皇帝はなおも叫ぶ。


 どう考えても勝ち目のない状況でありながら、己の意思を絶対に曲げぬその態度。


 発言の善悪などを除外すれば、それは絶対支配者たる皇帝に相応しいものだった。


「余は作り物などではない! 余は余だ!」


 おそらく皇帝は、邪神ちゃんが造った時から変わっているのだろう。


 赤ちゃんだって成長するのだから、ましてや大人に進歩がないわけがない。


 龍宮寺は少しだけ黙り込んだ後に。


「そうかい。ならこれで終わりとさせてもらう! セイントフレア!」


 竜宮寺の両掌から出現したのは太陽、いやそう錯覚するほどの火の玉だった。


 全長3mを超える巨大な炎の塊は、皇帝に向かって進んでいく。


 だが皇帝はなおも笑っていた。


「くくく……くははははははは!!!! 余を殺しても終わりではない! 終わりでは……!」


 火球は皇帝を飲み込んで蒸発させると、その役目を終えたかのように消滅した。


「……残念だ。邪神の手にかかった者同士、話し合えればよかったがな」


 転生者はそう吐き捨てると、皇帝がいた場所から背中を向ける。


 残っていた二人の近衛兵はすでに剣を落としていて、完全に戦意を喪失していた。


 ここに悪しき皇帝は転生者に打ち払われたのだ。


「や、やったのじゃ! これでゲームクリアなのじゃ!」

「少し不満は残るけど、まあ美しい終わり方かな? めでたしめでたしってことで」

「長い戦いでしたね。多くの犠牲も払いましたし」


 みんなも安堵と喜びの声だ。これでこの異世界は救われ、


 その瞬間だった。玉座の間の扉が勢いよく開き、鎧姿の男が入ってくる。


 その男の持っていた剣はいびつだった。異常なまでに輝いていて、神聖かくあるべしと思わせるような刃。


 そしてその剣を持つ男に、俺たちは見覚えがあった。


「あ、あの男は……!」

「そうですね。彼には見覚えがあります」

「誰なのじゃヴィナス様!?」

「ボクも覚えてないかな」


 俺たちの反応など知らないとばかりに、その男は龍宮寺たちをにらみつけると。


「よお。よくもやってくれたなこのくそ女神がぁ!!!!!!」


 その男は……最初に王城で召喚されて、あっさり捕らえられた転生者だった。

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