第23話 神様は守りたい


「あの龍宮寺という転生者はすごくいいやつなのじゃ! 絶対に生き残らせてやらねばならぬのじゃ! 死なせてはならぬのじゃ!」


 新米女神ちゃんは目をつぶりながら叫ぶ。


 どうやら自称悪党の転生者のことが、好きになってしまったらしい。


「そもそも彼に関わらず転生者は、元から生き残らせる予定であったはずなのですが」


 マヘキさんの言う通りである。


 そもそも転生者を生き残らせる目的の異世界のはずなのだが……やってたことはずっとデスマラソンだからな。


 なんならリセマラ感覚で転生者を送り込んでたし。


「ところでつかぬことを伺いたいのですが。今まで死んでいった転生者で、名前を憶えている者はいますか?」

「い、いないのじゃ……」


 悲報。異世界に送り込まれた転生者、誰一人として名前を憶えられていなかった。


 いやまあそんな気はしてたよ。転生者たち、名乗る前に死んでたから……召喚した新米女神ちゃんしか名前を知る機会はない。


 その彼女が知らないわけだから、転生者たちは誰にも名を知られてないと。


「くっ……! これまで散っていった転生者たちの死を尊くするためにも、必ず龍宮寺は生き残らせねばならぬのじゃ! それが彼らの死を無駄にしないための行為じゃ! この勝利は龍宮寺のものだけではない! 今までの転生者全ての勝利じゃ!」

「言葉だけ聞くと最終決戦に相応しいセリフですね」


 新米女神ちゃんがまるでアニメのようなセリフをしゃべる。


 これが散っていった仲間を振り返っての最終決戦での言葉なら、ものすごく感慨深い言葉となっただろう。


 邪神女神ちゃんが転生者をデスマラして、彼らの屍の山を築いた側であることを考えなければ。


「お。転生者君たちは快進撃を続けてるみたいだよ」


 ヴィナス様がモニターを覗き込みながら実況してくる。


 流れてくる映像を見る。するとキングカーが帝国の関所の木の柵に突撃して、そのままぶっ壊して進んでいく様子だった。


 当然ながらキングカーは衝撃でボディの一部がへこんだ。だが車体が輝いたかと思うと、なんと走りながら自然に修復していってる!?


「なんで車がひとりでに再生をしているのですか?」

「あのキングカーは魔物じゃ! 魔物じゃから再生するのじゃ!」

「そうでしたね。この世界はまともに考えてはいけない、理不尽すぎる世界でした」


 俺も心の中でうなずく。


 この異世界はもう俺たちの常識で考えてはいけない。少なくとも魔物に関しては大概なんでもアリ説のある世界だからだ。


「本当は転生者も玉座の間に送りたかったのじゃがな! 新しく召喚したり生み出す時ならともかく、それ以外で人間や転生者は操ったり転移が出来ないのじゃ!」

「皇帝にとっては唯一の救いでしたでしょうね」


 マヘキさんが眼鏡をクイッとあげた。


 正直新米女神ちゃんが本当に殺る気になれば、皇帝は一分後には死んでいるのだろう。


 魔族全員を玉座の間に転移させられたらどうにもならないし、そもそも世界自体を壊すというひどい手段もある。


 転生者に皇帝を殺させる目的があるからこそ、そういった手段が取られていないだけだ。


 結局のところ、この異世界は金魚の入った小さな水槽のようなものだ。人間の機嫌次第でひっくり返されたら、いつでも滅んでしまう泡沫。


 ただ人間も金魚を好きには操れないのと同じで、神様も転生者と人間のことはそこまで思い通りにならない。


 エサを撒いて誘導したり、水に空気を送ったり綺麗にしたりはできる。だが死にかけの金魚を救うとなれば難しい。


 その中で新米女神ちゃんは金魚の水槽にブルーギルを投入し、特定の金魚だけを食わせようとしている感じか? 

 

 ブルーギルに好き勝手にさせてはダメだから悪戦苦闘しているみたいな。


 …………今更だがなかなかひどい気がする。


「よっしゃなのじゃ! 帝都の近くまでたどり着いたのじゃ!」

 

 そんなことを考えていると、モニターに以前に俺たちが出向いた帝都が見えた。


 巨大な城塞都市なのでラスボスの居城に相応しいと思ってしまった。


「でもここからどうするの? 流石に理不尽キングカーでも城塞や城門は壊せないような」


 城壁は岩づくりだし、城門はかなり分厚い木の扉だ。流石に自家用車で突撃してもぶち破れるとは思えない。


「隠密はもう考えていないようなものですので、木の城門なら転生者の魔法で破れるのでは? 隠密はもう考えていないようなものですので」


 マヘキさんが大事なことなので二回言いました。


 もう暗殺というか明殺だよなこれ……自家用車で関門とか派手にぶちぬいてるんだから。


 どうやら転生者もその考えだったようで、城塞都市の木の城門箇所を炎の魔法で燃やし尽くした。


「……まあ本来ならば。魔法で城壁や城門が簡単に破られるなら、城塞都市なんて発展しないはずなのですが。現代地球でも大砲などの攻城兵器の発達で、城塞都市は価値がなくなりましたし」


 ボソッと毒を吐くマヘキさん。それ以上いけない。


「ほ、ほら転生者の魔法が特別強いだけで、他の魔法使いだと壊せないとかもあるかもだし」

「ふっふっふ! さあ行くのじゃ! 突撃ぃ!」


 なにも考えてない新米女神ちゃんによる攻撃が始まるのだった。



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