第22話 出発
「転生者よ。これからお前には帝都まで潜入し、皇帝を暗殺してきてもらう。そしてお前の支援として魔王軍四天王を二人つけることにする」
俺が魔王国王都を出発する日。街の門を出たところまで見送った魔王は、いきなり俺に告げてきた。
「随分と急だな。今まで聞いてなかったぞ」
「今朝神託を受けたのだ。四天王の五人の内の二人にお前を援護させろと」
「神託ねぇ……」
俺はあの邪神に感謝こそしているが、信用はしていないんだよな。
あいつの狙いが未だによくわからない。俺を転生させた理由はいったいなんなのか。
少なくとも俺を殺そうとはしていないので、敵ではないのかもしれない。だが味方かも怪しい。
四天王の五人については昔に突っ込んだのでスルー。
「それで俺についてくるのは誰だよ?」
「私だ」
空から声が聞こえたので見上げると、棒人間のディアベルバルが腕を組んで浮いていた。
こいつ本当にどうやって飛んでるんだ? 翼も羽根もないし、この世界には浮遊魔法もないはずなのだが。
「そして我なのじゃ!」
声とともにブオンブオンとエンジン音が鳴り響き、俺の目の前に一般的な自家用車がやってきた。
「我が名はキングカー二世! よろしくなのじゃ! 大船に乗ったつもりで任せるのじゃ!」
どこかで聞き覚えのある声が、車から電子音で流れてくる。
「邪神。お前本当になにがしたいんだ?」
「のじゃ!? ち、違うのじゃ! 我はキングカー二世なのじゃ! ほら乗るのじゃ! 我が皇帝の元まで運んでやるのじゃ!」
車の運転席の扉が自動で開いた。誰も乗っていない。
頭が痛くなってきた。ファンタジー世界なんだからせめてもう少し、カボチャの馬車とかないのか……?
「ほれ乗るのじゃ! このまま皇帝の元へ突撃するのじゃ! そしてお主が奴にとどめを刺すのじゃ!」
……まあいいさ。俺は皇帝を殺して我が子を抱くためなら、魂を邪神に売りはらってやる。
運転席に乗り込んでシートベルトをつけると、俺がアクセルを踏むまでもなく車は発進した。
「行くのじゃー! いざ出発じゃー!」
「なあ。俺が運転席に乗る意味あった?」
「後ろの席で寝られたら腹立つのじゃ」
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「よしよし! キングカー二世なら帝都まですぐじゃ!」
新米女神ちゃんは両目を閉じて叫んでいる。
どうやらキングカーを動かすために視点移動しているようだ。
「ぶー……ボクのスラミンも連れてくべきだったのにー……」
ヴィナス様は可愛らしくいじけている。
相変わらずドキッとするからできればやめて欲しい。見た目は理想の女の子なので一挙一動がヤバい。
「仕方ありませんよ。魔王軍四天王の五人が全員いなくなったら、間違いなく怪しまれてしまいますから」
マヘキさんが眼鏡をクイッとあげた。
今回の作戦はこうだ。転生者とディアベルバルの精鋭二人で、帝都に潜り込んで皇帝を暗殺する。
暗殺なので当然ながら感づかれてはいけない。なので魔王軍四天王の五人が……言いづらいな!? 五人衆でいいだろ!
五人衆全員が暗殺のために動くと、全員が戦場などで姿が消えてしまって怪しまれてしまう。なので五人のうちの二人を使うことにした。
ディアベルバルは棒人間のくせにハイスペックで、近接も魔法もこなすし空も飛べるオールラウンダー。
キングカー二世は足が速いので採用だ。暗殺にはスピードが必須だからな。
「帝都周辺の騒ぎはどうなっていますか?」
「わ、我はいま運転に必死なのじゃ! ヴィナス様!」
「大混乱の最中だね。帝国軍の大半が民衆の暴動に手いっぱいで、守りがだいぶ手薄になってるよ!」
そして民衆全てに神託を下したことで、帝都周辺は一揆が勃発していた。
敵を混乱させてその隙に暗殺。作戦としては完璧だ。
やり方はかなりヤバいけど。神託を暗殺に利用するってなにか色々と間違ってる気がする。
「これで転生者は感謝するはずなのじゃ!」
「するかなぁ……?」
恩の押し売りみたいで、向こうも察してるだろうしなぁ……。
「念のため、バックアップできる準備はしておきますか……私も魔法少女を、バレないくらいに王城に近づけておきます。彼女も人間なので転移できませんし」
「不要なのじゃ! 問題ないのじゃ!」
なぜそこまで言い切れるのだろうか。新米女神ちゃんの自信はどこからきているのだろう。
そんなことを考えていると、モニターから転生者の声が聞こえてくる。
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俺は運転席に座りながら、車が勝手に進んでいくのを見ている。
なにもできない時間だからか、色々と物思いにふけることができた。
……地球だとこんなゆっくりとできた時間はなかったな。常に空腹に追われながら、明日のことで精いっぱいだった。
今ここに俺がいるのは……。
「邪神、もしもの時のために言っておくぞ。俺はお前に感謝している」
どれだけ言いつくろってもこの邪神のおかげなのだ。
邪神に礼なんておかしな話だが、邪であろうが神様。悪人の俺にはちょうどいい。
「な、なんじゃいきなり。それは皇帝を倒した後に言うのじゃ」
「倒した後でも言わせてもらう。だから頼む、俺は死んでもいい。死にたくないが罰されても文句は言えない。だが俺の妻と子を守ってくれ。あいつらは……」
「のじゃ! お主に死なれても困るのじゃ! 我はお主も妻も子も生きてもらって、我に感謝してもらわねば困るのじゃ!」
邪神は吐き捨てるように叫んでいる。
相変わらずこいつの目的は分からない。だがなんとなくだがこの邪神は、俺に対して嘘はついてない気がした。
「そうかよ、なら頼むぜ。邪神様、いや俺にとってはお前は神様だ」
「わ、我は正真正銘の聖神なのじゃ! 邪神じゃないのじゃ!?」
「そうかい。なんでもいいさ、頼むぜ! 俺はあんたのこと、素晴らしい神様だと思ってるんだからよ!」
「ほほう! ま、まあ我が素晴らしいのは言うまでもないがの?」
感謝しろっていうならいくらでもしてやる。
だからどうか……生きて帰らせてくれよ、不器用な神様。
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