第6話 ひとまず三日生き残らせるのを目標に


 俺は地球で幼女を犯したらその両親に銃で撃たれて死んだのだが、異世界転生の権利を得て森に召喚された。


 その時に女神とやらから、チート能力としてサイコキネシスをもらった。


 超能力で敵を触れずに持ち上げたり、破裂させることができるらしい。まさにチート能力に相応しい力だ。


 気が付くと謎の森にいたのでしばらく歩いていると、茂みから緑のブロックで造られた人型が現れた。


「なるほど。お前が魔物ってやつか。ちょうどいい、俺のチート能力の試し打ちになぁ!」


 念じた瞬間、緑の魔物は破裂して死んだ。なんという力だろうか、これなら……幼女をいくらでも犯して、その両親も殺せる!


「おいおい、こりゃすげぇ! これならいくらでも好き放題に生きることがっ……!?」


 急に心臓に痛みが走ったと思った瞬間だった。


『ああっ!? 代償の痛み自体では死ななかったけど、痛みで気絶してる間に殺されてしまったのじゃあ!?』





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 俺達はモニターの映像で、転生者がチート能力の代償でショック死する惨状を見ていた。


 ……ま、まあ明らかにヤバイ奴だったから、下手に生き残っても困ったが。


「転生者はこれで百人目じゃ……」

「つまり全員合わせても、三百分以内にゲームオーバーになっているということですね。私個人としては今の奴は生きる価値なしとは思いましたが」


 マヘキさんの言葉に周囲が黙り込む。


 ビックリするほど効率のいいリセマラしてるなぁ……。


 それとマヘキさんとしては魔法少女は一般性癖だけど、手を出すロリコンは許さないようだ。


「改めて数字に直すと酷いな。致死率ほぼ百パーセントだし……」

「ち、違うのじゃ! ほれあれじゃ! 王城に転生した何人かは、いまも地下牢に囚われて生きておる! 多少は拷問とか食らってるかもじゃし、もう魔王なんぞ倒せるとは思えぬが」

「それは生きていると言えるのだろうか……」

「少なくとも転生者としては死んでいるのと同義かと」


 結局転生者は全員が酷い目に合っているのは変わらない。


「ねえ新米女神ちゃん。ボク思うんだけどさ、とりあえず三分出オチを避けることを目標にしない? 例えば三日生き残らせるとか」

「み、三日!? そんなの無理ゲーなのじゃ!?」


 確かに三分以内に全滅しているのに、その千倍以上の時間を生き残らせるのは至難の業だ。


 三日生き残らせるのが無理ゲーとか、どれだけ厳しい異世界なのだろうかいう話だが。


「確かにヴィナスさんの言う通りかもしれませんね。ひとまず三日生き残らせるのを目標にして、頑張ることにしませんか?」


 マヘキさんもヴィナス様の意見に賛成か。


 俺も同意見ではあるので頷いておく。やはり目標というのは大事だろうし。


「ま、魔王を倒させるのが目標なのじゃが」

「RPGで言うなら現状は魔王どころか、最初の村すら突破できてないから……」

「間違いなくクソゲーと呼ばれるゲームバランスですね」


 RPGの最初の村は本来チュートリアルだが、この世界では開幕初見殺しみたいなものだからな。


 説明役の爺さんが襲い掛かってくるみたいな感じの。


「わ、わかったのじゃ。まずは三日生き残らせるという、無理難題を目標にするのじゃ……でもどうするのじゃ? チート能力を与えてもダメじゃったし」

「こういう時は少し整理して、よかった点と悪かった点を分けましょう。まず初期転生地点は森よりも王城がよいと思われます。これはいきなり魔物に襲われないためです。そして王から支援を受けることが出来れば、生存率も上がるでしょう」

「でも王城だと捕縛されてしまったのじゃ」


 なにも知らされずにいきなり玉座の間に召喚されたり、賢者と詐称されて実が伴ってなかった奴らだ。


 確かにあいつらは役には立たないが。


「チート能力を与えれば、ひとまず庇護してもらえるんじゃないか?」

「でもサイコキネシスを与えたら、ショック死してしまったのじゃ」

「そこはボクに提案があるよ。もう少し弱体化した力にして、代償も弱くしたらいいんじゃないかな? 例えば三回使ったら虫になるとか」


 ヴィナス様は黒い笑みを浮かべた。


 それヤバイ感じの匂いしかしないのですが……三回使った後はもう地獄すら生ぬるくなりません?


「そ、それじゃ! それならチート能力者にも利用価値が生まれて、国も庇護してくれるに違いないのじゃ!」

「使い捨ての特攻兵器みたいに使われる気が……」

「それでも三分よりは生き残れるじゃろ!? まず生き残らないと話にならないのじゃ!? 生きていればなにか起きるのじゃ!」


 新米女神ちゃんがなんか耳障りのいい言葉を話す。


 確かに生きていればなにかが起きるし、死んでしまってはそこで終わりだし悪い考えではない。


 問題はそもそも死地に送っているのが彼女だということくらいだ。

 

「よし! では転生者にさっきのサイコキネシスのチート能力を、代償を三回で虫になるに変更して与えるのじゃ! こうすれば三分以上は生き残れるのじゃ!」

「ふふ。二回使った後の感情の動きが楽しみだね。もう一回使ったら虫になってしまう葛藤は、きっと美しい色を醸し出すよ」


 新米女神ちゃんとヴィナス様は明らかにワクワクしている。


「なんというか。私まで感覚がマヒしてきそうですね。転生した魂が極悪人で、禊であるのが不幸中の幸いでしょうか。ボーグマン君、君も私と同じでしょうか?」


 よかった。同じ人であるマヘキさんは俺と同じ感覚のようだ。


 やはりここは人間同士、異世界をもっとまともな方向に動かしていって。


「はい。俺もそう思います。一緒に頑張って異世界をまともにしましょう」

「もちろんです。まずはもっと魔法少女を出すように働きかけましょう」

「あ、すみません。同じじゃなかったです」


 なんとか同類を阻止していると、新米女神ちゃんが懐からスマホを取り出した。


「む? そろそろ夜なのじゃ。よし今日は解散なのじゃ。お帰りはあちらなのじゃ」


 新米女神ちゃんが手をポンと叩くと、勝手にふすまが開いて俺の部屋が見えていた。


「ほれボーグマンや。あそこを通れば帰れるのじゃ。また明日になったら繋ぐから今日は帰るのじゃ」

「すごい急だね」

「色々と事情があるのじゃ。そういうわけで早く行くのじゃ」


 俺がふすまを通って自分の部屋に戻る。


 本当に自分の部屋だと思っていると、ふすまがガラリと閉められて消えた。


 ……まるで夢でも見ていたようだ。いや実は本当に夢で俺は今起きただけだったり。


「言い忘れてたのじゃ! 明日は朝から迎えに行くからのー!」


 そんな俺の不安を新米女神ちゃんの声が消し飛ばすのだった。


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