第6話ニア・エルドラドの治療。

 綾小路静香呪病が治った。 

 

 この情報は日本を駆け抜け世界に広がった。 

 

 治癒魔法をつかって傷を治せるものはそれなりにいる。

 

 問題は部位欠損を治せる治癒師は何人いるか?途端に国内でも片手で数えるほど数人になる。 

 

 病気は?呪病は?今回の様に手術と治癒師、呼びにポーションを持ち入れながらやらなきゃいけない手術、まず医者側、やりたがる医者がいない。 

 

 難病になればなるほど、医者と治癒師の連携手術で高度な手術を出来るようになったが、基本的に金をいくら積んでも高難易度の手術を受ける医者はほとんどいない。 

 

 そして魔力の暴走による、反動で肉体が傷つきまともに生活が出来なくなったと言われる人間は多い。 

 

 貴族、王族などの高貴な家柄の人間に多い、魔力暴走と呪病は名家と言われる人たちにとっては大きな問題として頭をかかえていた。 

 

 綾小路清香、生まれながらの強力な呪病に犯され骨格が変形してしまい通常の手術の整形や世界に数人しかいない祓い屋や聖人、聖女と言われる最高峰の治癒術でも治す事が出来なかった悲劇の少女、その子を支える献身的な六条家もまたある意味では有名だったが、その六条の息子!武人でも異能者でもなく、人間としても凡人と評されていた六条家の長男がまさか治癒に目覚め、聖人でも現代最先端医術、治癒術でも治せなかった呪病を治す! 

 

 中には異能が使えなくなる呪病などもあり、死活問題の人たちは藁にもすがる思いで六条家にコンタクトをとった。 

 

 エネルギーとIT事業で世界的にも裕福な国、エル・ドラド王国 国王ハモン・エルドラド21世は娘のラニ・エルドラドの治療に世界を飛び回る事で有名だった。 

 

 どこかの遠い国で高位ポーションが出土すればそれを手に入れ、神々の治癒薬、エリクサーレベルの霊薬が発見されたと聞けば自らがその国のオークションに参戦するほど治癒のアイテムや高僧、聖女に娘の治癒を求めた。 

 

 ニア・エルドラド 14歳 彼女の病気は5年前から始まる。 

 

 唐突に起こる体内魔力の暴走に表面の皮膚は溶けだし、神経に触れる様な激痛にのたうち回った。 

 

 彼女を覆う表面の皮膚は常に火傷に犯された様な、酸を浴び続けている様な状態にあり、じわじわと肉体が溶けていくのが止まらず、永続的に痛みを感じながらゆっくり溶ける肉体を溶けない様にポーションで維持する事で一命をとりとめていた。 

 

 常にポーションによる点滴で、溶ける皮膚を回復させては溶け、回復させては溶け、その間も感じる痛みにまともに寝る事もできず。 

 

 そんな彼女を日本に呼び寄せたのは、六条家が治癒を施してくれると快く受け入れてくれたからだった。 

 

 覚醒したばかりの人間の治癒、しかも凡人と言われ、名家の人間でありながら一般人的な扱いを受けて来た人間の治癒・・・・・・・。 

 

 期待なんてほとんどしていない、針の穴ほどの可能性で何か少しでも良くなる事に繋がればそれだけでも奇跡的だとおもい、娘をこの島国まで呼んだのだ。 

 

 六条家頭首、六条瞬は私を見ると、私に寄り添い悲しそうに私の手を握り「おつらかったでしょう。少しでも良くなる様に尽力させていただきます」。 

 

 そういい、力強く手を握ってくれた。 

 

 誇り高いエルドラド、何物にも弱みをみせず、悲しみをみせず、辛くても顔を引き締め凛としていた、私は何気なく言われたその言葉に我慢できなくなり膝を地面についてしまった。 

 

 懇願してしまった。 

 

 神でもない人間に祈ってしまった。 

 

 願ってしまった。 

 

 「どうか!?どうか!?・・・・・・娘を、お救いください・・・・・・・」 

 

 誇りなどもなく、王の威厳などもなく、顔をくしゃくしゃにして涙を流し懇願した。 

 

 奥の部屋に進み、ベットに娘を寝かせると、太った少年?青年か?身長はそれなりにある。 

 

 男の子だろう人が、我が娘のお腹に手をあてると。 

 

 「ああ、これなら大丈夫。すぐ治りますよ」 

 

 にっこりと笑って、あっけらかんと言う言葉に理解が追いつかなかった。 

 

 私の腹心が、顔を真っ赤にして怒鳴り出したのを、冷静に覚えている。 

 

 「ふざけるな!!ちっぽけな島国の!それもなんの能力もないお前らなんかに何が出来る!?王も王だ!こんなの馬鹿げている!謝礼でもほしさに嘘をついているのだろ!ふざけた事を言っていると貴様らの命で償ってもらう事になるぞ!」 

 

 「ハキム・・・・・・やめるのだ、治癒師様に失礼な事はしてはならん!すまない、ここにきてから妙に心が落ち着いて呆けていた。もう一度いってもらっていいだろうか?娘はよくなるのだろうか?」 

 

 「だから、よくなりますって。これなら魔力をちょっと調整すればすぐよくなりますよ。娘さんもよく耐えましたね。大丈夫ですよ~」 

 

 「嘘をつくな!聖人でも!聖女でも!表面的な治癒しかできなかったのだぞ!」 

 

 「ちっうるせーなー、すぐ治してやっから黙ってろ雑魚、すりつぶすぞ」 

 

 そういうと少年はお腹に置いた手に力を籠めると、まばゆい光を放ち、部屋全体にバチバチと放電現象が起こった。 

 

 私は見た。 

 

 「娘の乱れ爆発した魔力の流れが正常になっていくのを、壊れた魔力の経路を細かな小さな魔力の脈が、丁寧に修復されていき、内臓だったら大変な事になっていただろう、爆発でもしてボロボロにでもなった魔力の魔力路や袋、中間点などが綺麗に治されて再生されていく。 

 

 この少年、我々にもわかるようにこの映像をみせているのか!?これが娘の体内で行われている事なのだとはっきりわかる。 

 

 怒涛の如く広がる治癒はまさに魔道手術と言われる様な、魔法的な手術だった。 

 

 そこからは肉体の再生が始まった。 

 

 5年前にとまってしまった成長をいまするかのように、成長していく娘、見る見る治っていく肉体、なんだこれは!?欠損の再生!?それ以上の事が行われている。 

 

 こんな事!聖人でも聖女でもできなかった事だ!それを?商家の凡愚といわれている息子が?いとも簡単に?なんだこれは!?奇跡的すぎる。 

 

 そうして娘は14歳の姿で、完璧な健康的な姿で目を覚ました。 

 

 「うああああああああああ!にあ!にあ!私の娘!!!」 

 

 「おとうさん・・・・・もうからだ、いたくないの、すごくおだやかできもちいい」 

 

 そういうとすーすーと寝息をたて、眠ってしまった。 

 

 「まぁこんなもんだろう。問題もなし、魔術を使っても問題もないです。肉体も強化してるので、また暴走しても自分で制御できるでしょ」 

 

 王も側近も何も言わず、驚いた顔をしながらうんうんと頷くだけで精一杯だった。 

 

 治す事はした。 

 

 あとの交渉は父にまかせて、またプールでダイエットしよう。

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