第3話治療

 清香は六条家の魔道技術を駆使したデバイスを着用する事で一般人と同様に背筋を伸ばして歩く事が出来る。 

 

 これを外すと立っている事も叶わない程、湾曲してしまうのだ。 

 

 だがデバイスで痛みを軽減させながら姿勢を正すのにも限界と言うものがある。 

 

 清香の背骨と背骨の間に腫瘍が出来つつあり、デバイスでの魔道治癒機構と麻酔機構をつかっても、まっすぐ立つ事が非常に痛い様になってきてしまった。 

 

 だがデバイスをはずした清香の歪んだ立ち姿は、初めて見る人間には「えっ」?と驚かせるほど歪んだ立ち姿で、顔が整っている故に奇妙さ、恐ろしさが倍増される程、恐ろしいと言っていい立ち姿だった。 

 

 幼いころの清香が、歪んた姿勢を見せた時、何をみても驚かないと覚悟を決めていた両親が、恐ろしいと思い、そして醜悪だと感じてしまう程、その頃から体は歪んでいた。 

 

 それを医術と魔法の魔科学で惜しみない研究と共に、骨格を痛みなく無理なく矯正するデバイスを開発したのが六条家なのだ。 

 

 成長データと治療に仕えそうなデータは、綾小路の医術院と共有して治療しようとしているが、呪病は簡単ではない。 

 

 「叔父様、いつもお手数かけて申し訳ありません」 

 

 「何をいうんだい、なんの問題もないよ。もっと根本的治癒について何かわかる事があればいいのだが、情けない限りだ」 

 

 「叔父様達がいなければ、私はこんなに普通に立ち歩く事なんてできなかったんですもの、莫大な費用を元に私の為に研究してくださって、本当にありがとうございます」 

 

 う~む、中々に美しい、だからこそ体が歪んだ状態の時がホラーの様で怖いのだ。 

 

 デバイスが完成する前の幼少期はほとんど外に出る事もなく、人前には出さなかったと聞く。 

 

 そして矯正用のデバイスも限界だろうな、彼女は治癒機構も麻酔機構もついてある状態なのに、鈍痛を感じている様だ。 

 

 観察眼、を発動する。 

 

 呪いによる病、大勢の呪術師ですら解呪できなかった呪い。 

 

 なんて事はない、呪いの根源を潰せばいいだけだ。 

 

 なぜこんな簡単な事が出来ない?と不思議に感じていると。 

 

 「一輝兄さま?」 

 

 「ん?ああっごめん、聞いてなかった」 

 

 「もう、兄さまと合うのも久しぶりですね?」 

 

 「ああっそうだな」 

 

 幼少の時に俺は父に連れられ、清香に会っている、綾小路が隠したくて仕方がなかった頃の清香とだ。 

 

 俺は探検していて、許可なく会ってはいけない清香と偶然にも遭遇、それから何故か清香は俺に懐いた。 

 

 「清香君、残念だが段々とデバイスの性能が追いつかなくなっていっている。このままだと以前の様にお屋敷で寝たきりになってしまうかもしれない」 

 

 重い沈黙が流れるが、清香は笑っていた。 

 

 「なんとなく、限界が近い事は感じていました。大丈夫です。覚悟はできていますから」 

 

 このままではどんどんゆがんでいき、他の臓器が圧迫されどんな症状にむかっていくかわからない、わかっているのはゆっくりと徐々に鋭い痛みをどう誤魔化していくかの話。 

 

 「ものは試しに一度俺にみせてもらえませんか?」 

 

 綾小路家に恩を売って損はない。 

 

 「兄さまにですか?」 

 

 「ああ、無能力者だと思っていたんだがな、治癒の異能が使えるんだ」 

 

 「あ、ああ、目覚めたばかりらしいが、でも一輝、お前の治癒では・・・・」 

 

 「やれる事はなんでもやらなきゃ、奇跡がおきるかも?なんて、でも少しでも和らげば儲けもんじゃないですか」 

 

 そういうと父の顔は、やれやれと言った感じで、清香はクスリと笑っていた。 

 

 寝台に寝転がってもらって、気功による針を額、胸の中心、腹に三本差す、この針は気功によるものだが、気功熟練者でもなきゃ見えないだろう。 

 

 ダマになっている気を循環させ、次に心臓に溜まっている黒い塊、呪いの根源を吸引して俺の手で握り潰した。 

 

 これで呪いは、呪いをかけた綾小路綾香、現一条綾香に還ったはずだ。 

 

 地獄を味わえ。 

 

 鋭い目で吐きつける様に考える。 

 

 「あれ?痛みが・・・・・痛みが驚く程ないです」 

 

 「本当か!一輝!凄いぞ!凄い事なんだぞ!」 

 

 「はいはい、次に骨格を矯正しますから、デバイスをはずしてください」 

 

 そういうと父はキョトンとした顔をして、今度は真っ赤になり怒り始める。 

 

 「ばかもん!デバイスは彼女の姿勢はもちろん、痛みを軽減させる為につけてるんだぞ!ちょっと軟らんだくらいでははずせん!!」 

 

 「父さん、一度はずしてみてください。きっと驚きますよ」 

 

 「んぐ!」 

 

 「叔父様お願いします。今なら大丈夫な気がするんです」 

 

 「清香君・・・・わかった。でも何か違和感があればすぐに言うんだ、いいね?」 

 

 そういって矯正デバイスを外していくが、前半の段階で押さえつけていた骨格がゆっくり自然と歪んでいくはずなのに、彼女はじっと動かずまっすぐに横たわりながらデバイスを外す事ができた。 

 

 「これは!?清香君!痛みはないかい!?凄いぞ!まっすぐに横になれている!」 

 

 そこからは、骨と骨に挟まってしまった腫瘍の切除と、ズレてしまった骨をテキパキと繋げていけば完成だ。 

 

 さっさと動いていると、俺が彼女の体を動かしてコキコキパキパキと音を立てながら体を動かす度に、何故か父が「あっ!」とか「うっ!」とか声をあげた。 

 

 「はい、おしまい。これからはデバイスなくても問題はないよ。驚くほど違和感もないだろ?背中の腫瘍もとったし、肌の表面にでる痣の数々もすべて消したからもう問題ない」 

 

 父も清香もキョトンとしている。 


 清香は起き上がると、背中を鏡に映し、確認する。 

 

 体が歪むと肌や背中に青タンやほくろの様な、ぼつぼつができるのだが、それらも綺麗に除去した。 

 

 女の子だからな、きっと口にはださないだけで気にはしてただろう。 

 

 「ひっく、痛くない・・・・・体も歪まない・・・・・機械なしでも歩ける」 

 

 「一輝、お前は・・・・・」 

 

 「兄さま!ありがとう!っつっ!ありがとう!ありがとう!」 

 

 清香は俺に抱き着いて、泣き始めた。 

 

 う~ん、プールにはいっていたから大丈夫だと思うが、まだデブなのでこんなに引っ付かれると色々と気になる。 

 

 父は腰を抜かしながら、綾小路家に電話して綾小路清四郎にこの事を告げた。

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