第4話 ダンジョロイドの操作方法

「ぐむむ、離せ、離せ勇樹!」

 ホールドされた。ギブギブ。もうっ!全然引き離せない。これ、何?復讐なの?

 確か中学に上がるまでは勇樹があまりにかわいくて抱きしめてたな。やめてよって言われてもしつこく抱きしめてた……。まさか、この年になって復讐されるとは思わなかった!

 と、思ったら、どうやら復讐しようとしてるわけではない。

 勇樹のちょっと擦れた声が耳に届く。

「辞めようかな、留学……離れるの寂しいな……」

 ああ、そうか。あと3日で出発だものね。1か月も家を空けることなんて今までなかった。

「私も、寂しいよ、勇樹に会えないの」

 勇樹の私を抱きしめる手に力が入った。

 勇樹の背中に手を回してポンポンと叩く。

「でも、勇樹の人生に必要なことなんだよね?この留学って。だから、応援してる」

 うんと小さい声が聞こえてきた。

「それに」

 勇樹の腕の力が緩んだところで、体を離して勇樹の顔を覗き込む。

「どうせ、毎日連絡してくるんでしょう?ちゃんとログインしてるのかとか、チェックされるんだよね?」

「うん」

 今度は勇樹ははっきりと声に出して返事をした。

「ちゃんと毎日チェックするよ。舞に彼氏ができたかどうか」

 にっと、勇樹がからかうように笑った。

「ふんっ、そっちこそあっちで彼女できたら言いなさいよ!金髪美女を突然連れて帰ってきたらお義母さんひっくり返っちゃうからね!」

「それはない」

「ひっくり返るようなことはないってこと?でもびっくりするよ。私にあらかじめ伝えといてもらえれば、それとなくお義母さんには言っておいてあげるからさ」

「いや、そっちじゃないっていうか……あー、もういいや。うん。やっぱり作戦通り留学するしかないよな。ってなわけで、絶対3日に一度。突発的なことがあってログインできない日が続くと怖いからできれば2日に1度……いや、毎日でもログインして欲しい。5分でもいい。3日に1度は1時間は動いてくれ。動画再生回数が減ると収益化に影響でるから……」

 なんだか勇樹は疲れた顔をしてため息をついた。

「そんなに心配しなくても、ちゃんとログインするよ……でも、1時間配信って……えーっと、私、魔物とか倒せないよ?」

 勇樹が頷いた。

「倒さなくていいよ。強いモンスターが出ない初級ダンジョンに入るってちゃんと予告してあるし。1か月はスローライフ配信にチャレンジって言ってある。だから、好きなことしてればいいよ」

「ダンジョンで好きなことって?」

「あー、歌を歌うとか?まぁ、音声はオフにしてあるけど。まぁとにかくあんまり気にしなくていい」

 音声オフで歌を歌ってるのを見て楽しい?

 私には分からない……。

「本当に好きに動いていいから。寝ててもいい。初級ダンジョンのモンスターに襲われても傷一つつかないだけの装備だし」

「寝ててもいいなら、機械音痴のお義母さんでも問題ないんじゃない?」

 首をかしげると、勇樹があわてた。

「そ、それは駄目!俺にも計画があるんだからっ、ダメだからな。絶対義姉ちゃんがログインしてくれよ。あー、それからいろいろ声かけられても無視すればいいから。ライブ配信してるから、よほどの馬鹿じゃないかぎり変なことしないと思うけど。それから……これ、大事なことなんだけど」

 うへー。なんかいろいろありすぎて、私に務まるか心配になってきた。

 寝ててもいいというのなら、ここに布団持ってこようかな?

「フレンド登録してるやつは無視せずに話をしてくれ。むしろ、全部事情を知ってるから、困ったら頼ってくれ」

「あ、そうなの?よかった。分かった。任せて!なら問題ないよ!寝ててもいいんでしょ?分からない事があればお友達に聞けばいいのね?オッケーオッケー」

 一人じゃないなら大丈夫そうだ。フレンドって、何人くらい登録してるんだろう?きっと勇樹のフレンドなら毎日のようにログインしてる人だよね?詳しくは知らないけど、小説みたいにダンジョロイドでパーティーを組んだりしてダンジョン攻略したりするらしいし。

 それから、ダンジョロイドの操作方法を聞く。VRスーツ着て、VRゴーグルつけて、コックピットと呼ばれる動きをトレースしてダンジョロイドに伝える場所の中央に立つ。それだけ。

 操作パネルはステータスオープンで出てきて、横にスワイプすると装備を変更する画面になったり、今現在の配信映像を確認できたり、フレンド一覧が出てきたり。

 宙に浮かぶスマホ画面みたいな感じらしい。問題なく使えそうだ。



 そう、あの時は大丈夫大丈夫。任せて!って思ったんだよね。



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