第34話

「おはようございます、星野先輩」

 塩田君だ。

「昨日の会議はどうだった?」

 キラキラ光る髪に、満面の笑顔。女性社員が眼福とばかりに塩田君を見ている。

 う、うちの勇樹だってイケメンなんだからね!負けないんだからね!

「はい、無事に終わりました」

「緊張しなかった?大丈夫?」

 塩田君が首を横に振った。

「強制ログアウトされるほどの緊張はしませんでした」

「え?」

 強制ログアウト?

「ログアウトって、ダンジョロイドのこと?」

「あ」

 塩田君がしまったと口を押える。

「ふふ、うちの義弟も会話の中でダンジョロイドの話が出て、時々首を傾げちゃうんだ。塩田君、本当にダンジョロイド好きなんだね」

 塩田君が小さく頷き、何かをつぶやいた。

「マインちゃんを知ってからもっと好きになったんだ……」

「え?何?」

「な、何でもないです」

 エレベーターが到着する。

 今日も昨日と同じ。

 押し合い圧し合いになるほどではないけれど、腕とか肩とかが少し触れてしまいそうなほどには混んでいる。

 こつんと手が塩田君に当たった。

「強制ログアウト的っ」

 塩田君のつぶやきに、首を傾げた。

 ログアウトって出ることだよね。強制ってなんだろう?

 エレベーターから出ることをログアウトとでもいうのかな?ブザーが鳴ったら強制ログアウトってこと?

 強制ログアウト的って、ブザーが鳴って乗れないくらい混んでるみたいな意味かな?

 うーん。ダンジョロイド配信とかの人の間では通じる言葉なのかな?

 エレベーターから降りて、塩田君に尋ねる。

「また、教えてもらってもいいかな?人気のダンジョロイド配信ってどういう物があるの?魔物を倒す以外に」

「え?えっと、人気があるのは高レベルのダンジョロイドの配信で」

 高レベル?いくつなんだろう。高レベルって。確か塩田君も義弟と同じ999でしょ。平均くらいなのかなぁ?

「魔物を倒すんだよね?」

 それは見たくないなぁ。ちょっとは勉強しようかと思ったけど、難しそう。

「あ、他にはキャンプ系も人気です」

「キャンプ系?」

 そう言えば、ダンジョロイドじゃない動画配信サイトでも、ただたき火をずっと眺めているだけの動画とかのんびりしたものも好まれているとか聞いたことがある。

 なるほど。ダンジョロイドを使ってダンジョンの中でのんびり火を眺める配信も人気があるのね。

 それなら私にもできそうだ。

 私が預かっている間に義弟のダンジョロイドの人気が落ちたらだめだもんね。できることはしないと。

「ありがとう、参考になったよ」

「あ、えっと、しょ、食事でもしながらもう少し詳しい話をしましょうか?」

 塩田君はいい子だねぇ。

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