第2話 お話し合いと、製造計画

 良いのか分からないが、どんどんレベルアップしていく。

 その快感で、ついズムズムとビートを刻んでしまう。

 絵面的には、凄く悪い。


「すみません、ノリノリでいるところ申し訳ありませんが、バスドラム用のキックペダルじゃないので、いい加減にやめてもらえます」

 足の下から、声が聞こえる。

「あっ。失礼」

 足をそっと避ける。


 むっくりと上半身を起こし、俺の方を見るマガツヒ。

 がっくりと肩を落とし、ため息をつく。


「調子よく踏んづけていると思ったら、一気に一垓分の一も力を持っていって、亜神レベル。もう少しで天部に届きそうになっている」

「それって凄いの?」

「はんっ、天部など凄くは無い。修行中の雑魚よ雑魚。小指でプチッといけるわ」

 そう言ってマガツヒは、中指を立てる。


「まあ段々と、踏まれるのが気持ちよくなってきて、止めるのが遅れたのも原因ですが。…… この、足蹴にされて、罵って貰うと、お尻の辺りがきゅっとして、むずむずする。これは、初めての体験」

 そう言って、ほっぺを両の手で挟み、ぽわわとした顔を上空に向ける。

 その状態で、目だけがこちらを、ぎろっと向く。


 怖えぇよ。


「さて、それはそれ、これはこれ。そんなに階位が上がった魂を、輪廻に乗せるわけにはいけない。すなわち、全身全霊でもう魂に合う器を創ります。私の全能力を掛けて。……まあ掛けても、行く世界が世界だから、たいした物は創れないけどね。物理社会の三次元でしょ。まあ魔法が使えるし、それに対する適応と魔力量は、物理限界だし。異世界転生したらレベル九千九百九十八だったみたいな感じ?」

「どうして、九千九百九十八なんだ?」

「そこは、日本人の謙虚さで。多分現世なら、一生掛かっても最後の一は上がらずに、一生悔し涙を流せば良いわ」

 そう言って、にまにまと嬉しそうにこちらを見る。思わず、頭をぶん殴ってしまった。


「悪い。なんかムカッときた」

「良いけどさ、どうして平気なのかが分からない。よく考えれば、これだけのレベル差、触れた瞬間に、あんた、はじけ飛ぶはずなんだけど。おかしいわね。まあ良いや、基本の体はこれね」


 ぽいっと、体がでできて、床に転がされる。

 なんか結構な勢いで、頭が床にぶつかった音が聞こえたけれど大丈夫か?

 うーん。出てきた体。つい最近までのなじみのある物だが、若い。高校生くらいかな?

「さぁ入って、下へ送るから」

「ちょと待て、裸でいきなり送るのか?」

「駄目なの?」

「駄目だろう」

「ちぇー。面倒」

 ぽむっと、服が着せられる。詰め襟の白い服。

 ボタンでは無く、服に取り付けた木の棒に、輪っかを引っかけるタイプ。中国憲法の道着みたい。

 靴も、ソールは何かの革っぽい。


「ついでに力も強くして。それに、夜目も利くように。それに下半身もビッグにして、なんだかんだと注文を付けると、見たことはないが、多分オーガになった」

 うん。これは違うな。意識中で否定すると、ふっと音も無く消滅した。


「はっ? 何するのよ。せっかく創ったのに」

 またぽんと、体が出てくる。


 創っては消し。消しては創って、そこから、多分七十二時間くらいは掛かったと思う。

「もう、いい加減。良いわよね」

「ああこれで、チートオブチートだろう。使い方はしっかり覚えたし、魔術の方もこれでオーケーだ」


「じゃあ入って」

「ほいよ」

 寝ている体に重なる。


 魂が入ったところで、体を動かしてみる。

「まあ、こんなものかな」

「じゃあ行くわよ」


 ふわっと、体全体が光に包まれる。

「それじゃあ。行ってくる」

 マガツヒが俺に向かい。消える瞬間、凄く嬉しそうに伝えてくる。

「ああ。最初に言ったけど、此処での記憶は無くなるからね。がんばれー」


 その言葉を最後に、気を失う。


 ちなみに、耐久七十二時間の間に土下座をしていた理由が分かった。因果をいじり、事故は起こす予定だった。しかし、それをぶち壊す着信が、トラックの運ちゃんにあり、それに気を取られてそのまま突っ込んできた。予定では、トラックが俺の車に気がつき、急に車線変更し、マガツヒの予定通り隣の車線に入れば、歴史に残る大事故になる予定だったらしい。当然俺はマガツヒを踏んづけたが、奴がぽつっと言った、生かしておいてはいけない奴が、生き残った。その一言が気になった。



********



「馬鹿野郎。ふざけんなぁ」

 そう叫びながら、目が覚める。

「あれ? おれ、車で事故って、 エアバッグが…… 投げ出されたにしては、トンネルから? いや無理があるし」

 周囲は鬱蒼とした森。


 どこかで、ギャアギャアと鳥なのか、獣の鳴き声なのか、声が響いている。

 キョロキョロと周りを見回し、よくわからんが、傾斜を見て上り側へ向かって歩き始める。

 太陽の感じからすると、まだ夕方では無い。


 進んでいる方向は、太陽の感じから、丁度南に向いているのだろう。


 どんどん歩き、途中で涸れ谷があったが、無視して進んでいく。

 谷に沿って行けばきっと、川があるだろうが、野生動物も多いだろう。


 理想的なのは、断層崖などの湧水。

 断層崖は、地震で断層が出来て、隆起または陥没したところ。


 天然ろ過された、水が良い。

 流れ出した周りの変化で飲めるか判断する。湧き出した水たまりに、細かな虫がいること、そして、流れに沿って苔が生えていることなどが判断材料。

 無論、崖上での生物が生活をした影響により、多少の汚染があるかもしれない。

 この辺りは、自身での線引きが必要になる。


 まあpHが中性近くで綺麗な湧水なら、沸かせば完璧。

 ちなみに、有名なリトマス紙は、アフリカに生えているリトマスゴケから作られる。日本なら、ウメノキゴケから、同様のものが作れるようだ。

 他にも、紫キャベツや赤じそ、紅茶や、有名なあじさい。ブドウの皮やその他諸々。意外と多い。


 さて、沸かすと言ったが、無論サバイバル状態で、沸かすことが出来ればの話。


 木の皮や、紙。竹、時間があれば土器を作成。

 キャンプ程度なら、紙皿をそのまま鍋に使うことが出来る。



 それはさておき。

 今、俺の目の前には、日本にいないはずのゴブリン三匹が、俺に向かって棍棒をかまえていた。

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