第33話 報酬は奴隷。ええ、遠慮はしません。

「しっ、閉められた。やはりあいつは」

「あいつは何?」

「意識がはっきりしていませんでしたが、背中の鞭以外を与えたのは多分彼です」

 うーん、まあそんな感じよな。


「まあ良い。彼女を探そう」

 そう、サイベリアンだったか。

 嫌な予感はするが、早いほうが良いだろう。


 そして一つの牢の中で、息絶え絶えの彼女を見つける。

 あのヌフという男。まるで子どもが虫の羽でも毟るような事を、亜人に平然とするようだ。大分歪んでいるな。

 檻は簡単に壊れたので、彼女に突き刺さっている色々な物を引き抜き、浄化を施し樹の実を与える。


 みるみるうちに、焼かれていた所も、切られたところも復活をして行く。

 怪我や欠損、火傷が治ると、ラグドールが言ったように美人だな。


 水を、少し飲ませる。

 だが目を開けて、俺を見た瞬間。悲鳴を上げて、逃げる。

 まあそうだよな。治ってもされたことは記憶に残っている。


 黙って、ラグドールに合図をするが、こいつ最初に彼女の状態を一目見ただけで、自身で目を被い。見ないようにしていたので、気がついていない。

 彼女は一糸まとわぬ姿で、悲鳴を上げているのに。声ぐらい聞こえるだろう。


「おい、おまえの出番だ」

 そう言うと泣きながら、顔を上げて、彼女を見る。

「うわあぁ、見るんじゃねえ」

 状況が分かり、俺に見られないように彼女に覆い被さるが、彼女に蹴られてひっくり返る。

 いい加減やかましい。なんだこの混沌状況は?


 少し、威圧を掛ける。

 まだキャーキャー言っているが、収まってくる。

 まだ、ラグドールは頭を打ってうめいているし。

 それに気がついたのだろう。

 叫びやめて、彼女はすささと、嫌な動きでラグドールにしがみつく。


 落ち着いたかな。

「これでも着ろ」

 前にチャチャに買わされた服を渡す。そう言えばチャチャを忘れてきたな。

 下着もあるが、サイズはどう見ても合わないだろう。

 尻尾の穴も、ちょっと大きいが我慢して貰おう。

 何とか、ラグドールの姿を見て、落ち着いたようだから、他も見る。


 全部で、三体。

 うまく、切り取った部分を焼いて、生かしてある。

 この地下全体がひどい匂いなので、浄化をする。

 トリアージじゃないが、四肢欠損状態の子から、順に拘束を解き、実を与えていく。

 黄色は病気全般に効くので、ストレス性のものも、フォローをするのだろうか?

 目が覚めた瞬間、俺を見て、獣人じゃないため安心をするようだ。

 適当に、服を与えていく。


 サイベリアンが猫だったが、犬?、こっちは少し違う狼? 獣人と違いマズルと呼ばれる鼻口部(びこうぶ)で判断が付かない。そして彼女は虎かな?

 全員女の子。

 あいつ性癖がどうこう言っていたが、自分がかなりやばいじゃないか。


 お腹が空いていたようなので、スープを与える。翼竜のベーコン入りだが、大丈夫だろう。


 聞くと、犬のユーリアは、間引きした葡萄をもったいないから食べた。

 凄く酸っぱかった。

 そう教えてくれた。


 狼のクリスチナは、兵とぶつかった。

 虎のレオナは、目が合ったという事らしい。

 要するに、何でも良いようだ。それで、この子達は、十二歳くらいらしい。


 そして牢の奥。奥の壁には、いやな匂いがする蓋がある。

 嫌な予感がするが、中を覗く。

 うん見なけりゃ良かったが、うーん。生きている人は居ないようだ。

 別の所から、排出用の階段が繋がっている。

 こんなに攫うと、奴隷だといっても居なくなりそうだが、大丈夫なのだろうか?

 そっ閉じをして、浄化をする。


 皆にはスープを飲ませて、大丈夫そうなので、塩焼きの方を与える。

 やっと少し、ほのぼのした雰囲気が出てきた。



 その頃、母屋側。


「父上、報告に参りました」

「おお。ヌフ。川の様子は、橋はあったか?」

「いえ、見事に流れていました。ですが、通りすがりの亜人が土魔法を使い、石の橋を造ってくれたので、問題解決です」

「この短時間で、橋を? 一体幾らで?」


「いや、奴隷が欲しいと申したので、地下に封じました。三日も放っておけば、おとなしくなるでしょう。ただし力を取り戻すと面倒なので、魔力封じと隷属の魔道具を用意せねばなりません」

「そうか? それでうまくいけば、儲けだが、そんなに力のあるものが、野良でいるものかな? どこぞ、貴族の子飼いなら面倒だぞ」

「その場合は、もったいないですが、潰せば良いでしょう」

「後で確認をしておけよ。ギルドに登録はしていないと思うが、登録していると、カードによって、居場所が通知されるからな」

「はい」

 そう返事をして、部屋を後にする。


 連れてきて、料理に一服盛ろうと思ったが、丁度良かった。

 今頃、猫の獣人も彼女に会えてうれしいだろう。

 ちょっと、壊れているけどね。

 三日も、遊べないのがつまらんが、まあ我慢しよう。

 街道も通ったし、どこかでまた奴隷を拾ってこよう。

 次はどこに行こうかな。偏ると面倒が出る。


 ヌフはまだ見ぬ獲物に思いを馳せながら、繁殖させることを考えていた。

 あいつの子どもなら、高く売れるかもしれない。


 だが皆が落ち着いたところで、あっさりと金属製の閂をへし折り、外に出る。歪んだ閂は綺麗に戻す。皆に話を聞きながら、コンストリュイール男爵領の奴隷を頂いていく。俺が橋を造った証明石板は、定礎の中に入れてある。それに橋の名前は、『神乃風刺橋』入り口は漢字表記、出口はひらがなで決まりに則り書いてある。


 奴隷達は全員で、三百人程度しか居なかった。

 ユーリア達のお母さん達は、泣いて喜んでくれた。

 作業中にいなくなったので、またかと思い諦めていたそうだ。

 奴のやっていることは、以外と周知されていたようだ。

 また、荘園内で攫った者は、比較的長くいたぶられ、外から攫った者は、ばれるのを恐れてか、すぐに殺されるようだ。被害者には辛いが今回はそれが幸いした。


 愕然としたヌフが見られたのは、四日後の昼過ぎであった。

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