第39話 破滅に向かい一歩一歩
「どうですか、まあ一杯」
だらだらと、行軍を進め。あと一歩で、亜人達が潜伏する村へとたどり着こうとする頃、兵達は浮かれていた。
そこそこバランスが取れ、めったに軍の活動などなくなった平和な時代が続いていた。そのために、基本的軍隊行動も廃れ久しい。
まあ今回は、狐狩り。もとい亜人狩り。
一方的虐殺。
相手は無手の貧弱な種族。
結構な人数が逃げたため数は多いが、大したことはないだろう。
そんな慢心が全開で表に出ている。
偵察に出ていた兵が、首をひねりながら帰還する。
「報告いたします。この峠を越えた先は、共和国でしょうか?」
「いや、まだ先のはずだ、どうした?」
「町が存在しています。それも城壁に守られた、堅牢なものの様子。いかがなさいます?」
「目を離した隙に、実効支配か?」
「いや、さすがにそれはないでしょう? 年に一度は交流を行い。両国の取り決めの確認を行っていますし、そう言えば、この峠を越えればドラゴンの繁殖地のはず。簡単に町など造れ得るはずがありますまい」
「ふむ。間違っていると後々面倒になりそうだ、その町へ向かい確認をしてこい」
「確認ですか?」
「ああそうだ。盗賊じゃあるまいし、いきなり襲ってくることはないだろう」
そう言われて、兵達を五人ほど選抜して、確認をしに行く。
むろん変装して、一般人の旅装で。
兵達は、峠に立ち。眼下に広がる、異様な風景を眺める。
「凄く頑丈な町だな」
「ああ王都より遙かに強固だ。あの櫓を見ろよ。街道にいる間に、両側から射ち放題だ」
九十九折れの道を下るたび、その全容は恐怖を与える。
だが、街道を下りきり、直線の部分から町の入り口へと向かうと、雰囲気が変わってくる。
街道の両側にはテントが立ち並び、市場ができていた。
ここを通る商人達から求められ、食事処や民芸品。休憩所まで完備。
利用制限はあるが、ホテルまであったりする。
幾度もここを通る商人達は、ここを通るたび、腕試しに来るドラゴンに対して戦々恐々としていた。だが、ある日いきなり町ができて、街道の両側が壁になり、ドラゴンがやってこなくなった。安心して通れるようになると、腹も空くし疲れも出る。
見かけた門番に話をしてから、あっという間に市場ができた。
そして、此処で作られていた、磁器や漆器。
他にも見たことのない魔道具を、目ざとく商人は見つけることとなる。
文字通り、奇跡の町。
今まで陶器しか見たことのなかった商人は、磁器の薄さとガラス質のなめらかな肌に惹かれた。
そして、漆器。
扱いは気を使うが、質感と、蒔絵と呼ばれる装飾。
目ざとい商人達は飛びついた。
口コミであっという間に話が広がり、ここを目的に来る商人が出始める。
そして、宿泊所ができて、さらにそのサービスにより噂が広がる。
そう、磁器があると言うことは、陶石が取れるということ。
陶石は、火山岩、火砕岩、砂岩、泥岩などが、熱水変質作用でできたもの。
ここには、温泉が湧いていた。
無骨な門をくぐり、町の中に入っても、さらに無機質な壁に囲まれた通路があるだけ。
だがその先で、門を越え、折れ曲がった通路の先にある門を二つ越えると町に入れる。
そこが、外の人間用の区画。
いきなり雰囲気が変わり、純和風な世界になる。
そして、木で造られた見たことのない建物。
その本館とは別に、戸建ての建物もあり、仕切られた温泉が付いている。
山の中なので、基本の料理は山菜や川魚。肉料理だが、見た事のないものばかり。
豆腐と呼ばれるものや、川海老の素揚げ。
中でも絶品が、翼竜の唐揚げと呼ばれるもの。
うどんにそば、クルミ味噌の五平餅?
とにかく、初めてのものばかり。
浮かれていた商人達。
そして、その噂を聞きつけ、やってくる良くない奴ら。
そう、なんと言ってもここは亜人の町。
たまたまやってきたが、今回、見えるところで王国の軍がたどった末路を見て、そいつらは意識を改める。
その少し前。
「この町は、今まで知らなかったが、なんと言う町だ?」
「ああ。チトセの町と言うんだ」
話を聞きながら、お好み焼きという変わった食べ物を受け取る。
「見たところ、店主は全員亜人かい」
「まあね。店主どころか町民もそうだよ」
「へー。少し前にあった、王国から解放された者達か」
「そうそう。このヤマメ節と、マヨネーズもつけて食べると美味しいよ」
言われるままに、どろっとした白いものと、パサパサの木くずのような物をかける。
ふんわりと、香ばしい匂いがする。
フォークという道具で、小さく切って、口に放り込む。
このフォーク。手が汚れなくて、良い。
この世界の食事は、基本まだ手掴みが一般的。たまに使ってもナイフ程度。
ふむ。このお好み焼きもうまい。野菜と肉。周りは小麦粉か? だが、この黒いタレと白いどろっとしたもの。作り方の見当が付かない。
「このタレとかの作り方は、聞いてもいいか?」
「残念。知らないんだ。秘伝とか言うんだって」
お気楽に答える猫の亜人は、本当に知らない様子。
まあ亜人だからな。だが、信じられないことだが、この町が目的地であることは分かった。
報告に帰ろう。
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