第38話 王国での動きと、行きすぎた防衛システム。

 俺達が、丁度防衛について話をしていた頃。

「王様。各貴族から陳情が来ております。荘園の維持ができないとのこと」

 宰相が、ため息を付きながら報告をしてくる。

 この手の報告は、最近毎日上がってくる。


「人を雇えば良いだけのこと。いちいちそんな事を上げてくるな」

「雇うにしても、基本その技術を持った人間がいないとの事でございます。そして、奴隷どもの解放についても一方的すぎるということで不満が出ております」


「それは、あれだ。何時までも言いがかりで、亜人どもを奴隷にしておくのはいかがなものかと思ってな」

「ほう。何か、お変わりになる切っ掛けでも、ありましたでしょうか?」

 宰相の目が冷たい。

 実はこの時、宰相の中では王子を擁立し、王を引退させる話ができていた。


「いや、別に無い」

「では、月とは何でしょう?」

「それは、空に浮かんでるものだ。皆知っておろう」

「左様ですな。ですが、月が来るとは一体?」

「それは知らなくて良い、その方が身のためだ」

 恐ろしい、無表情でただ殴られ、体の内側から破壊される痛み。苦しみ。

 それが癒やされ、また殴られる。

 死ぬ事もできず、ただ苦しみが続く。

 我は、強いそう思っていた。

 だが、彼の動きは一切見えず。気がつけば衝撃と、力の入らぬ我が体。

 恐ろしい。本当に。


「王様。王様」

「んあっ。なんだ?」

「お疲れの様子。引退とはもうしませんが、療養をなさってください。おい」

「「「はっ」」」

 ドカドカと、近衛達が侵入し、拘束される。


 首に付けられたのは、隷属の魔道具。

 ぐっ。意識が。


「残念ですが、亜人どもは必要なので。手間ですがまた捕まえに行って参ります。ああ大丈夫です。第一王子、ストゥピッド様が、すべて差配なさいます。安心して休養をなさってください」


『やめろ。奴に手を出すな』そう思うが、言葉が出ない。そして意識は、沈んでいく。



 そして、チトセの町では。

「と言う事で、どちら側から来ても大丈夫。取り扱いは、簡単だが危険だからな。いざとなれば、ドラゴンに頼めば良い」

「その連射式矢ですか、取り付けはどのように」

「まあ、実際に見た方が早いだろう」


 会議室から町へ出る。

 ここは、小高い山だったが、随分削って丘になってしまった。

 外周部には、壁が立つ。

 基本は、火矢に対処するため、低いところは石で固めてある。

 そして、全周囲が見られるように天守閣。


 町の中も、幾多の壁が作られている。その壁は入り口から、城まで途中クランクを入れながら、町の入り口にある壁まで続く。

 つまり非常時は、壁の上が通路となる。


 そして街道は、当然壁に挟まれて山の中腹までは繋がっている。

 山の壁両岸は 採石のついでに切り崩し崖を造ってある。

 山中の壁上部は、尖らせてあり通路にできない。


 そして、町の両側と、畑側には櫓があり、そこに攻撃用兵器が詰め込んである。

 この世界、まだ騎士の世界なので、対応は十分なはず。

 町側は、命大事に。敵は散れ。という装備。

 すべて、飛び道具。

 皆には、矢だと説明したが、実は銃だったりする。


 ガス圧式フルオートタイプ。

 火薬ではなく、屑魔石。

 意外と危なくて、普通なら穴を掘って埋めておくと数年で消える謎物質。

 組成をチェックしても魔力としか出ない。

 だが、叩き潰すと結構な勢いで破裂する。

 最初は、ニトロセルロースを合成して、安定剤やら色々混ぜてと思ったが、意外と良いものが見つかった。


 弾は精密な計測ができないため、おおよそ、五ミリメートル掛ける四五ミリメートルの大きさ。方鉛鉱が見つからなかったので弾頭は真鍮。

 きっと貫通力は強く、彼らの鎧も貫くだろう。ただ比重が少し軽いからどうかとの心配はある。


「さて、一応はオートだが、この弾帯で繋がった弾を、此処に差し込み、ハンドルを引いて、初弾はロードする。後は、このようにこの引き金を引くだけ。弾は地面に付けたりせず、かならずこの箱で持ち運び装填する事」

 説明しながら、実際に撃ったため。かなりの音が周辺に響く。

 亜人と言っても、俺達より耳が…… あっ。なんとなく自分は、イヤー プロテクターを着けたのに皆はそのままだ。

 全員が固まっている。


 それに、人間用イヤー プロテクターは使えないな。耳栓かな。


 みんなの尻尾が、膨らんでいる。


 それに、音を聞いてまた来たよ。

「また、そのようなおもちゃで遊んでおるのか。困った時は我らを呼べ」

 そう言って、離れていくドラゴン。名前はまだないらしい。


 口は悪いが、何かあったのかと、心配して見に来たのだろう。

 あれ以降、何かあれば様子を見に来る。


「練習はしても良いけれど、通行人を確認してね。ああ、道を囲っている壁の外を移動している奴は、警告して良いから。これは警告用」

 そう言って拡声器を銃座の脇に置く。



 その頃王都では、盛大に出征式が執り行われていた。

「ようし、それでは、亜人狩りに出かけるぞ。皆楽しんでくれ」

 第一王子ストゥピッドは、下卑(げび)た顔で宣言する。

 盛大な式だが、目的は亜人狩り。


「ああ、そうだ、痛めつけすぎると、帰りが大変だし仕事に使えない。駄目な奴はきちんと殺せよ」

「王子、心得ております。参りましょう。このままでは、我が荘園の葡萄が駄目になります」

「分かった、良いのができたら、ワインを相伴させて貰おう」

「はっ。お任せください」

 そうして、王国軍は、無謀な進軍を始めた。


 むろん、この時にはまだ、おびえる亜人の姿しか脳裏に浮かんでいない。

 まさか、『逝ってこいや、おらぁー』などと叫ぶバーサーカーが、ドラゴンと共に現れるとは思いも寄らないことであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る