第37話 亜人の町、第一回方針会議
「えー王国の方から、やってくる者も落ち着いたようだし、そろそろこの町についての決まり事を制定しよう」
見回すと、犬、狼、猫、虎、獅子、兎、狐。各獣人の代表が、この部屋に集まっている。
最初はまだ不安そうだったが、農作物をドライアド達に頼んで促成栽培して貰い、肉類は、何故かドラゴンからお裾分けして貰ったりして急遽まかなえた。
問題は、大部分の亜人達が数世代の隷属のため、自発的発想や行動ができなくなっていること。
つまり、体は自由になっても、精神的に抜け出せていない。
指示がないと、動けない。
これでは駄目だ。
まるでブラックな会社で、考えるな動け。おまえ達は兵隊だ、指示に従え。
客は養分、会社が一番。そんな感じだな。
「えーそれでは、この町は共和制とする。この場にいる代表者ですべて決めて貰う。そして、全員教育を受けさせる。基本は作るが、君達の生活で起こったこと、したことによってどうなったかを記録し、それを教育に落とし込む。集団選考と呼ばれる方法だ。これにより、柔軟な発想と行動の幅を習得して貰う」
「すみません。それはどうなのでしょうか? 私の領主は、下手に物事を知ると使いにくいとか、教育なんぞ必要ないと言っていましたが」
狐の代表、ルボルが発言する。
「それは、考えずに従えという。人を人と思わない考えの基に言われたものだ。君達はすでに奴隷ではない。教育は、一つは基礎教育。読み書き計算。これは、詰め込みで教えても、役に立たないことはないが、それでは足りない。もう一つ重要なのは、どうしてそうなるのかを考えさせること。そうでなければ、流布された情報に簡単に騙され、先導されてデモやクーデターが起こる。これは、考える教育をきちんと受けていないところの方が起こりやすい。なぜなら、どうしてが理解できないからだ。理解できていれば、矛盾にも気がつきやすい。単に勉強できるだけの馬鹿は必要ない。君達にはそこまで行って貰う」
そして基本的枠を作る。農業なら、こういう状態で水を与えると逆に枯れたとか、この場合なら元気になったとか、そういう基本的情報の収集。それを、両方とも伝えること。そしてそれは何故かを考えさせる。それを、教育として教える決まりを作る。何故失敗なのかの方が、意外と重要だったりするからな。
「分かりました。それでずっと気になっていたのですが、この町の名前は何でしょうか?」
「そういえば」
「そうですね」
会議室に、疑問の声が上がる。
「良くぞ聞いてくれた」
そう言いながら焦る。全く気にしていなかった。
「エンシェントドラゴンの守る町。古都じゃないし、千年都市でいいや」
考えが、口に出てしまった。
しかし、あれは王国だが、千年の最後には、最後の審判が行われ、サタンが滅ぼされるだったか?
「千年都市ですか?」
「いやちょっと待って、千歳(ちとせ)にしよう」
北海道からクレームが来そうだが、千歳には、悠久という意味もある。もう一つやばい意味もあるが気にしないことにしよう。
「千年続くという意味を込めて、チトセと名付けよう」
「「「おおっ。チトセ」」」
「でも、名前が決まっていなかったら、カミノにしようって言っていたのは? どうするの」
猫族のサーラがぶっ込んでくる。
カミノって俺の名前じゃないか。
「そうだよな。町の名前は、大体治める貴族の家名が付くもの」
誰かが発言する。
「俺は貴族じゃないし、代表になる気も無い。ヒュウマコンチネンティブ大陸へ渡ってみる気だ」
「そんな、ヒュウマコンチネンティブ大陸ってどこです?」
「我らの先祖を連れて行った、忌まわしきヒューマンのいる大陸じゃよ」
獅子の代表、ヴァルトルが発言する。
「聞きたいことがあったが、カミノ様はヒューマンなのか?」
そう聞かれて困る。
考えた末、正直に話す。
「ヒューンかもしれないし、違うかもしれない。俺は気がつけば、エクシチウムの樹海にいた。その前の記憶は、……こことは違う、世界のことしか覚えていない」
そう言うと、ザワザワと場がざわめく。
「違う世界? それはどのような。教えていただいても、よろしいでしょうか?」
そう聞かれて、素直に話すことにした。
「地球と呼ばれる星のことだ、ここよりも随分文明は発達していた」
そして、ざっと説明をする。
「かわいそう」
俺が家族を残し死んだことへの同情なのかサーラから声が上がる。
「分かりました。我らの怨敵ではない様子。助けていただいた上での失礼な態度。申し訳ありませんでした」
ヴァルトルが頭を下げてくる。
「いやまあ、歴史は習った。そのおかげで君達は、ずっと奴隷だったわけだしね。理解できている」
「しかし、さすがですね。エクシチウムの樹海に足を踏み入れ帰ってきたものはいないともっぱらの噂ですし、その近くでも、謎の爆発が起こったと噂になっていました。謎の火柱が立ちのぼったと。領主様達の立ち話ですが、封じられている邪神が蘇る兆しではないのかと騒いでいました。私には、邪神が何かは分かりませんけれど」
「邪神は、悪しき神じゃ。そいつが現れる前は、モンスターなどいなかったらしいよ」
「そうなんだ」
「さて、ここまで良いかな。じゃあ次は、防衛についての説明だ」
「「「はい」」」
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