第36話 ドラゴンに守られた、奇跡の町爆誕。絶賛分譲中。

 目の前に、ひれ伏しているでかい図体。

「もう良いのか?」

「もう良い。分かった」


 這いつくばっているドラゴンを見ていると、脇から声が掛かる。

「そのくらいにしておいておくれ、精霊を司るものよ」

「精霊? 司る?」

「しばらく前に、世界にざわめきが広がった。おぬしだろう。若い者には見えないようだが、わしには見える。おぬしの非常識な魔力が」

 頭の中に、樹の精霊桜が浮かぶ。


 ああ、契約をしたからか?


「桜と契約をしたなあ」

「それもある。じゃが、それだけではない。この世界の安寧を保つ、守護。ご神木に力を与えてくださった、はず。周囲に流れる魔力に、おぬしを感じる」

「そうか、それであんたはやるのか?」

 そう言うと、ビクッとする、でかいドラゴン。


「おぬし、話を聞いておったのか? 何故そんな話になる。此処に村を造るなら許可をしよう。そして、此処に生きる者達を守ろう」

「おおっ。良いのか? それはありがたい」


 皆に、適当に焼き肉パーティをさせて、俺は街道部分をはさみ、農地部分と居住部分を造っていく。


 ここは盆地になっており、土地も悪くはなさそうだ。

 周囲から、沢がいくつか流れ込んでおり、水害時は少し怖いが、それは何とかしよう。用水路と区画整備をしなければ。


 ええい。町と農地は橋で繋ぎ、街道の両側には壁を造ろう。

 王都から、共和国側。双方に往来があるから、関係ない奴は、通り過ぎて貰おう。


 真ん中にある山の上は、頂上部分をごっそり平らにして、避難所兼領主の館を造ろう。そうだな、ついでに要塞化もして、天守閣も造ろう。


 そう言えば、うちの教室に居た先生が、城は良いと言って褒めていたな。

 攻防用のトラップと、狭間(さま)も作り、通路はかくかくと折れ曲がる様にして。途中行き止まりをいくつか作る。


 農地の方に結構大きな岩があったが、ドラゴンに撤去を頼んだ。

 あの王が、何時までも尻尾を巻いているとは思えない。

 それまでに、形を作っておこう。


 楽しく、町作りを行っている頃。王都。


「恐れながら、意見具申を申し上げます」

 宰相が、困った顔で言ってくる。


「此度の布告。あの通りに従えば、荘園が立ち行かなると、上申が来ています」

「やかましい。従え。そうでないと、月が来るのだ」

「はっ?」

「いい。どうせ普段から、亜人など半人前以下だと申しているではないか。なら問題はあるまい。もう約束は成された。文句を言う奴は兵を向かわせろ」

「よろしいので?」

「良い。行け」


 宰相は、困惑していた。

 おかしな布告が出された朝。

 王に謁見をすると、一晩で二十歳から三十歳ほど、一気に老け込んでいた。

 一体何があったのだろう?


 そして各地の荘園では、いつもと真逆な状況が展開されていた。

「お待ちください。亜人を連れて行かれると、荘園の管理が」

「やかましい。王のご命令だ。自分たちで何とかしろ」

 そうして連れて行かれる。

 

 そして、訳も分からず解放された亜人達。少しばかりの食糧を持たされ、山へ行けと命令される。各地から集められ、解放された亜人達が歩いて行くのについて行く。


 そんな中。

「これはひどい」

「粗相をした、亜人を教育しただけでございます」

「これが全部おまえの持ち物だと?」

「左様です」

 ちっ、さっさと始末をしておけば良かった。


「隊長。周辺の荘園から亜人が消えると、申し立てが来ていたようです。逃亡だろうと、思っていたようですが、違うようですね」

「話が聞きたい。ヌフ・コンストリュイール殿、ご足労願おう」


「隊長、ルポン・コンストリュイール男爵から、証言が出ました。息子の悪行は知っていた。申し訳ない。とのことです」

「良し。亜人とはいえ、窃盗だな。この数。覚悟なさってください。連れて行け」


 奇妙な巡り合わせで、罰が下る。

 その後、廃棄場所から、おびただしい数が出て、周囲の貴族への弁済でコンストリュイール男爵家は消滅することになる。

 周囲の貴族も、亜人解放令が出たため、それに対応するための原資を、賠償に乗せたようだ。



 さて、峠を3つほど越えた頃。亜人達は、見たことのない町を発見する。

 こんな山間で、いきなり町? それも、きっちりと防壁が巡らされ、よく見れば全員亜人。


「おい。夢じゃないのか?」

 口々にそう言いながら、疲れ切っていた体で走り始める。

「ここは、怖い貴族がいないの?」

 小さな子どもは、父親の手を握り聞いてくる。

 荘園では、引き離されていたが、今回の解放で巡り会うことができた。

「まだ分からないが、亜人ばかりのようだ。きっと今までとは違うさ」


 中には、その時だけの番で、良かったというパターンもある様だが。


「はーい。受付はこっち。名前がある人は書いて、書けないなら言ってくれれば良いから。ない人は、適当に付けて。それが終われば、家に案内をする。体の具合が悪い人は言ってね」

 猫獣人のロマナや、サーラが走り回る。


 彼女達は、道照に助けられてずっと見てきた。

 意地悪だった貴族が、謎のパンチ一つで倒される。その後、領主の館があっという間に深い池の真ん中に残されるのを見た。

「橋は別料金だ、必要なら言ってくれ」

 そう叫んだ後、さっさと踵を返し、叫んでいる貴族の声を無視して、亜人達を連れて、領内を出る。


「先ほど、領主様が橋がいると仰っていましたが、よろしかったのですか?」

「そうか? 皆の喜んでいる声で聞こえなかった。君は耳が良いんだね。まあ、領主は池の中で頭を冷やして貰おう」

 そう言って嬉しそうに、皆を見回し歩いて行く。


 その後も、頼れる人だが、たまに怖い事がある。

 怒らせなければいい人。怒るのは、理不尽を見たときだけ。

 怒った時の理不尽さは、ちょっとあれだけど、皆感謝をしている。


 ただ、年寄りは彼のことを、ヒューマンと言って恐れている。

 ヒューマンて、なにかしら?

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