第35話 夜のお仕事と、宣言。
話を聞くと、このギルドは、王都出張所のような扱いで、各ギルドにより本部はバラバラなようだ。
そして、目の前では、此処のマスターが、偉そうな態度で小さくなるという、画期的方法を模索しているようだ。
俺の立場が、偉くなったので、立てなければいけない。
でも亜人だから、プライドが許さない。
「あなたへの通達は、依頼ではなく、更新のための出頭となっております。おめでとうございます」
そう言って、どっかりと座ったまま、金属板の証明を出してくる。
そう。今まだここは、受付のまま。
だから、こっちが見下ろす形ではある。
こっちは立っているからな。
「ここは、銀級以上でもオープンなところで会談をするのだな。機密性のある情報をやり取りができないようだから。画期的な物を考えたが、別の町へ行くとしよう」
そう言うと、ビクッとなり、汗を流しているようだが、獣人だから分からない。
一般人は、疲れたときに舌を出して、へっへとしているが、偉い人は我慢するようだ。
一瞬引き留めようと、手が出たようだが引っ込む。
俺が出した権利関係のおかげで、使えないはずのセナンクールは、マスターのランクが上がったようだ。
辺境から、画期的な工法や道具。食品加工や排水トラップによる衛生管理。等々。
他にも、大量に書いた気がする。
引き留めもされないから、門番と共に外に出る。
「ありがとうございました」
お礼を言う。
「いえ。お役に立てて何よりです」
そう言いながら、送り出される。
俺は知らなかったが、ギルドのカードランクによって、暗黙の了解として、貴族レベルの待遇というのがある様だ。これはなにも知らない門番達が、主人の呼んだ商人や職人を追い帰すことにより、二度と相手をしてくれないことが頻発したので、困った貴族達が始め。認めた事らしい。
むろん、法的な決まりもある。
そして、皆のいる空き地側に行くと、馬とぼろ布のようになった獣人が三人。
殴られたようで、泣いている子どもの亜人が一人。
「どうしたんだ?」
「こいつらが、亜人がなんでこんな所に集まっている。とか言ってきて、その子を殴ったんだ」
「それで、この有様か。さっさと騒げないように荷物にしろ」
そう。見た瞬間。一瞬で問題になることは理解した。
特に亜人の起こした騒動に、獣人は寛容ではないだろう。
そこで、なかったことにする。
どうせこいつら、ろくな物じゃない。
俺はそう判断をした。
すると、俺のほうへ一人の獣人が近寄ってくる。
警戒したが、それを見越していたのだろう。
「セバスティヌ様の使いです。騒動があったなら、あなた様は南の国、コンチネンスビスタへ向かうであろうから、国境の山間部なら、カプト王も軍を派遣しにくいでしょうと言うことです」
それだけで、理解をする。
山間部に、亜人の町を興せという事か。
「分かった。ありがとう。セバスティヌにもよろしく言っておいてくれ」
「はい。承知しました。それと、その三人。王国騎士ですので、どこかで、早急に処分を」
「あー分かった」
そう言うと、頭を下げて王都へと消えていく。
まあ彼以外も、何人か周辺に居るのが、分かっているのだが。
「良し。南へ向かおう」
そう言って、ぞろぞろと山へと向かう。
途中何故か、また人数が増えた。
メリディウムポーツムと呼ばれる、経済共和制の国へ到着するのにいくつか峠を越える。その中に、比較的大きな平野部を見つける。
その中央部に小高い山がある。
まるで、城を造ってくれと言わんばかりだ。
だがそこには、先住者がいる。
「翼竜とは違うな」
見上げながら、ぼやく。
目が合った一匹が、やってくる。
「ここは竜の谷。通りたいだけなら、さっさと抜けよ。だがその人数、よもや相対するつもりなら、相手をしてやろう」
「いや、敵対する気は無いが、通り過ぎるのもできない」
「ぬっ」
「この人達、獣人に良くない扱いを受けていてね。助けてきたんだ。安住する地が欲しい」
「ならば。奪って見せよ」
「いや奪わなくてもいいから、ちょっと場所を」
そんなことを最後まで言わせてくれず、いきなり、咆哮を上げて火を噴いてきやがった。
むろん。シールドを張る。
自身に跳ね返るように。
そして、咆哮を聞きつけたのだろう周りを、大小様々ドラゴンたちが集まってくる。
そして、ひときわ大きな一匹のドラゴン。
俺を見て、目を見開く。
だが、顔は力が見たいと訴えている。
目の前で、嬉しそうに火を噴いているドラゴンの魔力を、こちらの魔力を干渉させることで相殺して、降りてきたところをぶん殴る。
殴ったところから、魔力の乗った振動が、体全体へ広がる。
体に入った俺の魔力は、ドラゴンの体内魔力を狂わせる。
きっとひどい、頭痛と吐き気がすることだろう。
頭痛と吐き気で思い出した、山にはいる前に、あの三人。騎士が扮した一般人を連れて、堂々と夜中に、王の寝室へとお話のためお邪魔した。
多少の、手引きもあり、外から真っ直ぐ部屋へ入ると寝室だったのだが、獅子が三匹丸くなって寝ていたので声をかける。
「起きろ。話がある」
「ぬっ、何やつ」
「名乗るほど、たいそうな者じゃない」
頭から手ぬぐいをかぶり、口元にも手ぬぐいを巻いている。
俺のイメージは忍者だが、見た目は正体が謎のターバンを巻いた月の使者みたいになってしまった。まあ、彼はおしおきだけで『憎むな、殺すな、赦しましょう』という理念を持っていたようだから、丁度良い。
「あんたが王か?」
「そうだ」
「こいつらを返す。無辜の亜人に対して、暴力を加え、反撃すれば弾圧をしようと考えたようだ」
「亜人? 亜人などどうでも良いでは無いか、奴らは力なき民。さらに裏切り者だ」
「裏切りは誤解だったはずだ」
「同じ事。力なければ従っておれば良いのだ」
「力があれば、何をしても良いのか?」
「そうだ。この国で、一番強いのは王。私だ。何か言いたいのであれば、掛かってこい」
呆れたことに、これで王だそうだ。まあ脳筋だな。
スタスタと、近づきぶん殴る。
「どうだ、殴られると痛いだろう」
「いっ。今何が?」
「ほら。もう一回行くぞ。さっきは右だから今度は左な」
またブロックもできず、まともに食らう。
「亜人もね、殴られ痛いと言っていたのに、幾度も殴られ蹴られ、そんなことが、じいさんの時代から続いていたそうだ。痛いだろう。おまえも王なら、弱者の痛みを知れ。それとも、自身で言っていた通り圧倒的強者である、俺の力に膝を突き従うかだ」
「んんっ。にゃて」
何か言っているが、超振動のパンチ。
口はバカみたいに開いて、しゃべれていない。
殴り蹴るをしながら、ある程度で赤い実を食わせ治療する。
俺は優しいから、怪我をさせるだけではなく、治してあげる。
それを繰り返しながら、お話をする。
奴隷となっている、亜人達を荘園から解放し、山の中にこれから造る、町を認めて貰う。
しっかり、証文を書かせて王のカードで、正規文書を通達させた。
なんだか、謎技術がある世界。
まあこれで宣誓と布告はされたようだ。
お仕置きにしては、少しやり過ぎたが、今の俺は月の使者。
「月はいつもおまえを見ている、おまえが道から外れたとき私は再び現れ、お仕置きをするぞ」
恥ずかしいが、銃で撃つようなポーズを決めたのに。
王からの返事はなく、布団に頭を突っ込んだ状態で、泣いているようだ。
「愛と正義のためなら…… いやまあ。良いか。さらば」
そう言って王族用、避難通路から帰っていく。
王は、獅子なのにトラウマを刻み込まれ、性格が一変したようだ。
まあそれは良い。先日の王のような光景が、今、目の前で再び起こっている。
「ちょっと待て。ごめん悪かった」
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