第40話 王都軍壊滅。そして旅へ

「町はやはり、奴らの物でした」

「なんだと? わずかな間で」

 予想外の報告で、困惑する軍首脳部。

 だが、基本脳天気。


「そんなに良いものなら、貰えば良いじゃ無いか。管理をしているのは亜人だし、門は開いているのだろう」

「はい」

「じゃあ問題ない」

「閉まる前に、突っ込むとして、早駆けの隊を一つ編成しよう」

 そうして、軍は行軍を進めた。


 だが峠で、全容を見たとき、さすがに考えが改まる。

「これは、思っていたものとは違うぞ。本当に町ではないか?」

「ええ。そうです」


「騎馬二十人ほどで、当たってみるか?」

「まだ、露天が準備中。今ならどさくさ紛れに町へ突入できそうですな」

 王子と宰相は、下卑た顔で算段をする。


 だが、隊が山道を下っている最中に、街道の直線部分へ繋がる所に壁がせり出し門となる。

 そして、おおよそ人間とは思えない大声が響く。


「そこの騎馬達。何者だ?」

 そして、周囲に聞いたことのない、連続音が鳴り響き始める。

 そう、サイレンの音。


 それを聞いた店主達は、一気に準備を始めていた店の輪留めを外す。いつでも撤収できる準備を行う。

 だがまだ、撤収は行わない。

 撤収は、奴らが門にとりついてからで良い。


 初めてのことだから、多少緊張があるが、話は聞いている。この町のふざけた能力を。


「王国から、一度は手違いで解放されたが、再び法が変わった。神妙に奴隷へと戻れ。今降参をするなら、鞭うちくらいで許してやる」

 偉そうに宣言する騎馬兵。


「拒否する。逆に今なら許してやる。素直に王都へ帰れ」

 叫んだのは、見張りをしている、兎の亜人だが『模範回答集、対王国用』を参考にしている。


 その頃、少し離れた山の上。

「なあ。おもしろそうだ。行って良いだろう?」

「駄目じゃ。人の世のこと。呼ばれぬのに首を突っ込むな」

「えぇ」

 すでにドラゴン。スタンバイができていた。行きたくて、うずうずしている。


 止まっていた騎馬達が、進み始める。

 警告はした。


 さて、この兎。実は試し撃ちをしてから、心の底でずっと何かが叫んでいた。

 長年の鬱積した何かがあるのかもしれない。

「さて、避けろよ。当たると痛えぜぇ」

 そう拡声器で叫んだ後。彼はパトスを解放した。

「うひゃー。これだよこれ。音、振動すべてが良い」

 彼がもし知っていたのなら、『これがロックだぁ』と叫んだだろう。


 心の叫び。

 先ずは撃つ。それでも、警告がてら足下へ。そこから、徐々にはじける地面が兵達に近付いてくる。馬はすでに及び腰で、逃げましょうよと言う態度が出ている。

 跳弾が、騎馬の一人に向かう。頬をかすめる。


 熱い、そして痛い。

 頬を手で拭い、血が出ていることを確認する。

「攻撃だ、逃げろ。撤退」


 そうは言っても、よく分からない兵達。

 やがて、鎧へ着弾。角度によっては跳弾したが、少し角度が深いともう無理だ、弾ははじかれること無く鎧を突き通す。

 押されたような感じを受ける。熱いと感じたときには、馬の上から、力なく落下し兵は動かなくなる。


 今まで、矢や槍のような物、後は投石。そんな物しか知らない。

 だが、音がした瞬間。もう体がはじける。

 仲間が、バタバタと倒れ落馬をする。


 ウサギさん実は、少し狡猾。

 今までされた仕打ちを覚えており、怪我をさせ、仲間を呼ばせる。来た奴をまた怪我をさせる。これを繰り返す。


「うっおい。苦しんでいるぞ。助けに行けよ」

 王子の腰はすでに抜けている。


 そして、とうとう我慢ができなくなって、彼が来る。

 王国への道を塞ぐように。


「何者だ、我らの庭先で騒ぐ者達よ」

 それはもう、王国貴族、兵、そして王子に宰相。

 全員の顔に、絶望が浮かぶ。


「どっドラゴンだ。倒した物には報償を取らせるぞ、いけぇぇ」

 だが兵は、峠を町に向けて下り始める。


 兎さんによる、虐殺の場へ。



 そんな光景を、屋台の脇で見ている半盗賊達。

 自分たちも簡単に、制圧できると思っていた。

 だがなんだ、遠くから一方的な暴力。

 光る鎧が、何かを受けてへこみ、体がはじける。


 周りを見回す。

 よく見ると、壁の上方に小さな穴が、無数にあいている。

 三角や丸、四角。

 あれは装飾ではなく、あの火を放つ、筒が出てくるのが予想できる。

「おい、こりゃだめだ。敵だと判断されたら皆殺しだ」

「そうだな、あれは王国の軍のようだが、近付くことすらできないし、やっぱりドラゴンが出てくるじゃねえか。誰だ安全になったと言った奴は」


「それによく見れば、あの砦にいる奴、一人だぜ」

「ああっ、ドラゴンが火を噴いた」


 九十九折りの山道は、攻撃を受ける側には最悪である。

 弓を構えて一斉に矢でも放てば、飛距離があれば有利に働くことがあるかもしれないが、町まで微妙に遠く届かない。

 兵達は、町からの射撃を躱すため、山側に張り付きしのぐしかない。

 だが、ドラゴンの炎は、地を舐めるように這ってくる。


「あああ。おい。宰相何とかしろ」

「諦めましょう。あの美しくも恐ろしい町。じっくり見ましたが、たとえ門を破れても本当の町に届く前に兵はやられるでしょう。考え抜かれたあの曲がった道。あれがくせ者です。破城槌が通せない。両脇には伏兵がいて、あの恐ろしい攻撃が来るのでしょう。亜人だと馬鹿にしましたが、未開の原住民はこちらのようでございますな。これを差し上げましょう。この町の民は、このフォークという道具を用いて優雅に食事をするとのこと」

 宰相は剣を抜くと、気合いを入れドラゴンに向かい吠える。


「力を、試させて貰おう。もと、白金級ハンター。ヴラディミーラ・セバスチアーン参る」

 そう言って駆け出し、剣を横薙ぎに振るう。


 間合いは遠いが、剣から魔力の刃が飛び、足に当たる。

 だが簡単にはじかれる。

 体全体に、魔力の防護壁が巡らされている。

「ちぃ。さすがドラゴン。では直接」

 その瞬間に、横薙ぎの尻尾が襲いかかる。

 剣の腹を盾にするが、むろん抑えられるわけもなく、横っ飛びに吹っ飛び転がっていく。


 そんな雑魚は気にしないとばかりに、炎をまき散らす。

「ひっ。いやだあ」

 そんな言葉を残して、王子は炎に包まれた。

 粘性の高い炎は消えることなく燃え続け、やがて燃え尽きる。


「うん。圧倒的だな。これなら大丈夫だろう」

 天守閣から様子を見守っていたが、問題はなさそうだ。

 『旅に出ます。探さないでください。神乃 道照』

 そんな手紙を置いて、こそっと町の外へ出る。

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