第四章 経済共和制の国
第41話 やっぱり、俺の周りで騒ぎは起こる
「なあ、いつまで付いてくるんだ?」
「神乃様こそ、どちらまで?」
「うん? ちょっとまあ、散歩かなあ」
「…… 散歩。どちらまで?」
「いやまあ」
無事に抜け出したと思ったのに、狼。それも白狼族。族長の娘シルヴィに気づかれた。
いや匂いに気がついて、追いかけてきたのだろう。
彼女は、十七歳くらい。
長くなった髪をポニーテールにすると、尻尾が二つと言って、からかってから何故か懐かれた。
今から連れ帰っても、大騒ぎになるだろうし。
と思っていたら、下から拡声器で声が聞こえる。
「神乃様。お早いお帰りを、お待ちしています」
そんな台詞を聞いて、ピンときたのだろう。
「やっぱり。誰にも挨拶をせずに来たのですね」
「手紙は残した」
そう言うと、ジト目を頂きました。
「お目付役で、ついて行きます」
そう言うと、町の方に向かって手を振る、シルヴィ。
「シルヴィ。あんた、神乃様そこにいるの?」
下から声が聞こえると、シルヴィは腕を使い丸を作る。
「行くから、待ってなさい」
拡声器を放り出し、テレザが走り始めた。
「おー、全力だな。早い」
舗装してあるから、漫画のように土煙は立たないが、そんな勢いで走ってくる。
まあ帰すときに、一人より二人の方が安心か。
そんな事を、考えて到着を待つ。
しばらくして、テレザは汗と涙を流しながら上がってきた。
「黙って出ていくなんて、ひどいです」
そう言って、飛びついてくる。
素直に受け止めると、悶絶必至のスピード。
受け止めて、クルクルする。
「さっきは、帰りを待つと言っていたのに」
「それは、もう。……近くにいないと思って、我慢したんです」
「それじゃあ。まあ行ってくるよ」
そう言うと、テレザの額にピキッと変なマークが幻視される。
「何をふざけているんですか? 当然一緒に行きます。それに、みすみすシルヴィに譲るなんてできません」
『譲るなんてできません』?まあ良いか。
女の子を二人お供か、チャチャと違って、ヒト型だから、ちょっと自分の理性が心配だ。
体が若いから、色々元気なんだよな。
そして、王都。
「申し訳ありませんでした。ご子息。王子様は亡くなられました」
吹っ飛ばされて、右腕は上腕で折れたようだが、宰相ヴラディミーラは生きて帰ってきた。
王子の形見として、剣を持ち帰って。
「そうか」
すでに、王の首輪は外されている。
「ストゥピッドが死んだということは、全滅か」
「左様でございます。周辺の貴族全員。当主並びに長男が亡くなったことになります」
「通知をして、相続の手続きをさせよ。今回は貴族側の暴走、こちらから支援はせん。いいな」
「はい」
「おまえまでその状態。相手にドラゴンでも出たのか」
「その通りでございます。ドラゴンの出現もですが、何か金属のつぶてを飛ばす魔道具あれは、躱せません。鎧も簡単に貫きます」
「そうか、まだ色々隠しているな、あの、神乃という男」
王は、さらに老け込むことになった。
家宰モルガン・セバスティヌは飛んできた帰巣鳥から、手紙を外す。
「ハウンド侯爵。神乃様は、国を出た様でございます」
「王国の軍は、どうなった?」
「さほど時間が掛からず、二千もの兵。それに参加していた王都周辺貴族どもが敗北したようです」
「ほう。何か良いものはあったのか?」
「何か魔道具を使われたようです。金属の鏃のみを飛ばすもので、鎧など無かったものの様に穿ったと書いてあります。後ドラゴンが味方をしたとのことです」
「なんと。気に精霊だけでは無くドラゴンまで。やはりただ者ではない様だな」
「御意に」
ハウンド侯爵はこれから起こる、王都での騒ぎがおもしろくなりそうだとほくそ笑む。王都近郊にいた貴族達は、ハウンド侯爵の事を疎んでいた者達が多い。
棚ぼた式に、時代はハウンド侯爵の方へと傾いた。
「なあ、兄ちゃん達。良いことを教えてやる」
げすな顔をしているだろうと思える獣人達三十人ほどが、両側の山の中に五人程度の伏兵を忍ばせて出てきた。
「なんだい? あんた達盗賊だろ。こんな金を持っていない様子の人間より、金を持っている商人を襲えよ」
「バカだろうおまえ。商人を襲ったら買い取りもしてくれなくなるし、物も買えなくなるじゃないか。それに、逃したらすぐに兵を連れてくるからな」
馬鹿正直に、事情を説明してくれた。
「じゃあ、少ない一般市民を目当てにしているのか?」
「ああ野郎は奴隷。女の子は亜人でも色っぽい店に奴隷で売れる。今手持ちが少なくても問題ない。安心しろ」
「ほら、付いてこない方が良かっただろ?」
横にいるシルヴィとテレザに質問する。
だが、背中に隠されたその手には、ナイフが握られてすでに臨戦態勢。
そう言えば、狼族は結構な武闘派集団だが、荘園では一度に全員が守れないから、甘んじていたと説明をしていたな。
きっとかわいい顔をして、しなだれてきて、離れるときに首を切っていくんだろうと妙な想像をする。
「道照様、よろしいですか?」
「なんだい? 二人とも」
近寄ってきて、胸を当て。
「道照様。うふ。あなたはすでに死んでいる」
うん、ありそう。
でも、恨みは買っていないよな。
「さあ、こんな所じゃ落ち着けないし、森の中にあるアジトまで黙って付いてきて貰おう」
戦う気満々の二人に落ち着く様に言って、お誘いに乗ることにする。
「じゃあ行こうか」
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