第14話 お目こぼしと依頼

 町の中心。小高い丘の上に館が建っていた。


 石造りの立派な奴。

 周囲にくるっと、掘代わりなのか池がある。

 その奥に、石の壁。そして重厚そうな門。扉には金属が張られている。

 黄銅ぽいな。


 拘束をされているわけでは無いが、周りを囲まれている。

 待ってろと言ったのに、チャチャも付いてきた。


 門番にみんなが挨拶をするので、同じように右手を挙げる。

 海外ですると叱られる。ピシッと指を伸ばした形。


 アメリカを始め、海外ではナチスを思い起こす為、禁忌だそうだ。

 何故か俺だけ、睨まれた。

 門番は、ウルフ系かな? グレーの毛色。

 こっちは槍が長く。胸当てなどが、ピカピカに磨かれた金属だ。


 そうして、すれ違う相手皆に右手を挙げたり、右拳を胸に忙しい。

 右拳を胸に当てる相手は、騎士かな? 装備が違う。

 兵士達は、胸当てなどを装備しているが、騎士は装備をしていない。

 出陣するときは、プレートアーマーでも装備をするのだろう。


 城内へ入ると、石造りの為か、ひんやりとした空気がまとわりつく。

 そのまま、見たことがあるような大階段を上り、くるっと回り込み、もう一段上へ。正面に見えるドアに入らず、もう一回回り込む。


 そしてやっと正面へ。

 そこには、両側に兵が立っている。

 俺たちを、見つけるとドアをノックし、中に何かを伝える。

 許可が下りたのか、中へと入る。


 まるで王のように、正面の高い所に椅子があり、やはりオオカミ系の獣人が座っていた。ここは謁見の間のようだ。

 脇の低いところにテーブルがあり、座っているのは宰相か、代官か?

 悩んでいると、奥から、恰幅の良いトカゲ。

 龍人かリザードマンかどっちだろう?


 そんなことを、考えていると、俺以外は跪いていた。

 一瞬考える。遅れたが跪くべきか、それとも開き直るべきか……。

 一旦開き直ろう。きっと今更跪くにも遅い。

 跪けと言われたら従おうか。


「ほう。亜人種か」

 壇上の、犬か狼か知らないがしゃべり始めた。

 あの口から、人の声が出てくるのが不思議だ。


「失礼します。私は、なぜここに呼ばれたのでしょう?」

 そう聞くと、場がざわっとなり、壇上の犬が手を肘から上だけ、場を制するように挙げる。


「ふむ。聞いた所、そなた…… 名はなんという?」

 そう聞かれて、頭の中で繰り返された教育がよみがえる。

 『人に名前を尋ねるときは、まず己が名乗れ』

「ふむ。あんたは誰だ?」


 また場がざわっとなる。

 言われてた方は、一瞬驚いたようだが、名乗っていないことに気がついたのだろう。

「あーいや。すまなかった。人として駄目だな。わざわざ来ていただいたというのに。私は、この一帯を治めるビスタリウム王国、ミクス・マーキス・ハウンド。侯爵を賜っておる」

 どうだという感じなので、素直に答える。

「神乃 道照。よくは分からないが、気がつけば、エクシチウムの樹海とやらに立っていた」


 そう言うと、侯爵の右の眉がピクッと動く。

「あの樹海に? どうやって助かった?」

「いや普通に、川伝いに降りてきたのだが」


 そう言うと深く腰をかけ直し、何かを考え始める。


 何か指をくにくにと絡み合わせて考え、それが止まる。

「ひょっとしてだが、黄色い木の実と赤い木の実を見なかったかね」

 言われて、当然思い出す。


「あの甘い匂いがする木か? 近寄ると危険な」

 そう答えると、また場が、ざわめく。


「見たのか」

「見たよ」

 思わず、素で返してしまった。


「代官。デシャルム子爵。意見を許可する。どう思う?」

「失礼いたします。薬師ギルドの文書に記載されている物に、確かに匂いに対する記述がありました。任せてみて、うまく行けば、私からの信用状を発行いたしましょう」


「ふむ。道照。そなた、大魔道士のようだが、記憶を失っている様子。依頼を一つこなしてくれれば、信用状をわしが発行しよう」

「信用状?」

「そうだ、そなたの使う魔法。新たなる世界の創造。それは、教会に知られれば、きっと面倒になる。それに認知できないところに、物を大量に持てるとなれば、面倒はいくらでも湧いてくるだろう」

 言われてみて、はっとする。教会の分は知らんで何とか出来ても。

 領主がらみはきっと面倒だ。


 チャチャが言っていたが、この世界、領主の都合で街道にいきなり関所が出来て、荷物や人数に通行税が発生するらしい。

 亜空間収納庫を使えば、荷物分は回避できる。

 他にも密輸や、武器の移動等やり放題だ。


 せっかくの機会、長いものに巻かれてみるか。

「まあ良いだろう。実を取ってくれば良いのか?」

「おお。行ってくれるか。最低両方の色を一つ以上頼む」

「分かった」

 そう答えると、机に座っていた家老とか家宰だったのか、書類を作成したようだ。


 机の中から、見たことのある板が出てくる。

「道照どの、ギルドカードをここへ」

 そう言われて差し出す。


 紙と、カードを乗せ手をかざす。


 カードが返ってくると、ギルドマークがブルーになっていた。

「発注と受注が完了していますので、完了したら、ギルドかまた領主館へ赴いてください」

「分かった」


「ああ。道照どの帰ってこられるまで、屋敷でチャチャさんはお預かりしましょう」

 ハウンド侯爵がそう言って、チャチャはのんきにしているが、人質だよな。

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