第15話 再び樹海へ
館から出て、庭に植わっていた木へ、魔力を与えながら話しかける。
横で、送っていこうとした兵士は、不思議そうなお顔をしているが、無視をする。
〈お呼びですか?〉
ぼわっと浮かび上がってくる。
桜? いや違うな、小さいし髪の毛が蔓草だ。ドリアードなのだろう。
その時点で、兵士は飛び退き槍を構える。
当然無視をして、話しかける。
「教えてくれないか?」
〈何をでしょうか?〉
ドリアードは、かわいく首をかしげ、右手の人差し指は顎へ。
「桜のいる森に、赤色と黄色の実を付けている樹があっただろう?」
〈はい。オオカムズミ。仙樹の樹です〉
「あれの、詳細を教えてくれないか?」
〈命を食らい、その実であらゆる穢れを祓います。黄色が病気を治します。赤は怪我を治します〉
「そうか、どの程度まで?」
〈すべてです〉
「分かった。ありがとう」
そう言って、頭をなでながら魔力を与える。
〈以上ですか?〉
「ああ。ありがとう」
お礼を言うと、ニコッと笑い。霧のように消えていった。
「いっ。今のは一体?」
「樹の妖精。ドリアードだろう。多分な」
「妖精ですか。初めて見ました」
目をまん丸くしているのは、身長二メートルを超える熊さん。
側にいるだけで、圧迫感が凄い。
門へ向かいながら考える。
チャチャ用に魚を捕り、塩焼きと燻製を作ろうか?
この前作ったものは、木の枝を弓状に曲げて組みドーム状にしたもので燻煙をした。
木の串を地面にさして、中心でチップを燃やしてスモークをしたが、作れる量が少ない。
地球なら、段ボールという便利なものがあったが。さてどうしようか?
「なあ、聞いて良いか?」
そう聞くと、熊さんははっとした顔になる。
「何をだ?」
「この町。職人街のようなものはあるのか?」
「ある。見ろこの装備を、素晴らしいだろう」
どやって見せるのは、金属製の胸当てや籠手。
「ああ、そうだな。どこにあるんだ?」
「門を出て右側。あちらの方だ」
そう言って指さす方には、煙がたなびいているのが見える。
「分かった。ありがとう」
礼を言って、そのまま門へ向かう。
俺は門を出て、職人街に向かったが、熊さんは門からとって返し、あわてて報告に向かったようだ。
「そうです。この樹です」
「ふうむ。この樹に妖精が住んでいるのか」
「ええ、小さな女の子で、髪の毛が蔓草でした」
一本の木を囲んでいるのは、ハウンド侯爵達。
「あの、道照と言うもの、何者でしょうか?」
家宰のモルガン・セバスティヌが、神妙な顔をしながら聞いてくる。
「さあなぁ。あの樹海で気がつき、それ以前の記憶がないと言うが、それも本当かどうかは分からん。だが邪神に関わりがある者とも思えぬ。はたして、危険な奇跡の木の実を採ってこれるのか」
そう話をしていると、兵が思い出す。
「あっ。そういえば、妖精に木の実のことを聞いていました」
「なに? それを早く言え。でっ、なんと答えた?」
「あっ、いや。驚いてしまって、詳細までは。すみません」
「そこが大事な所だろう」
そう言って、ハウンド侯爵は、憮然となる。
ハウンド侯爵の娘。
息子や娘が五人いるが、次女ブランシュ十二歳は、生まれたときから体調が悪く、医術師によると、自身の魔力が体を壊していると診断された。
いわゆる魔力による自家中毒。アレルギー反応のようなもの。
長男が生まれた後、子どもが出来ず。
妾腹の長女と次男を挟み、六年後やっと出来た娘。その後に三男エミリアンも生まれたが、侯爵にしてみれば、子どもが出来ない婦人の苦しみを知っているだけに、特別な思いがある。
今は、残念ながら症状が進み。とても人に見せられない状態で、本人や婦人の望みにより隔離状態である。彼女は現在、体の末端部から壊死をして非常にむごい状態になっていた。
そんな中、薬師ギルドから、奇跡とも言える木の実の情報がもたらされる。
侯爵はすぐに私兵達を連れて、オピドムの町へと赴く。
だが、実際来てみると、エクシチウムの樹海が目的地と言うだけで、力のあるハンター達は尻込み、高額な報酬に釣られたハンターが雇えたのみ。
不安ながらも、ハウンド侯爵は直接志願者に会い、言葉をかけて送りだした。
だが、出立した十人、兵に至るまで帰ってこなかった。
実際、彼らは樹の場所までたどり着けず、全滅をしていた。
「多分、帰っては来ないでしょう」
家宰からの報告を受け、侯爵は落胆していた。
そんな折、門番から非常識な術を使うものが現れた。そんな報告と、時を同じくして、ギルドからの登録情報が通知されてきた。神乃道照。能力『九十八』。ハンター。
それを見た、家宰はひっくり返り、這々の体で侯爵に資料を見せる。
門番からの報告と、この非常識な登録情報。
すぐに、報告に来ていた門番に、連れてこいと命令をする。
騎士でさえ、総合能力値は二十前後。
最高位でも三十代のはず。
伝説となってる彼は、一人で翼竜やワイバーンをも倒したと記録が残っている。
それが、九十八。
会ってみれば、亜人タイプ。つい先日、十人もの人間を飲み込んだ、エクシチウムの樹海からやって来たと、あっさりした感じで答えた。
そして、探し求めていた実のことまで知っていた。
彼が来たのは運命だと、侯爵が考えるには十分であった。
彼に依頼し、安堵と希望を感じていると、彼を送って行った兵が飛び込んできて報告をする。
「彼が、庭先の樹で、妖精を呼び出しましたあぁ」
「なに? どこだ。案内しろ」
あわてて、付いて行く途中、兵が聞いてくる。
「彼は一体何者でしょうか?」
そんなもの、聞かれても困る。
「さあ、何者だろうな?」
侯爵はそう答えながら、元気になった娘と、妻の笑顔を想像する。
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