第三章 王家との対立
第30話 どいつもこいつも
「今回の当番は、貧乏男爵家なんだよ。待っていても何時直るのか分からないんだ」
周りを囲む、連中の中からまともな回答が来た。
見つけて、その人と話をする。
「橋を作るのに、当番制なのか?」
「あんた、余所から来たのかい?」
「ええまあ」
「亜人なのに、珍しいね」
「そうなのか?」
そう聞くと、言いにくそうな感じになるので、話を流す。
「どうして、流されない橋を作らない?」
「この川は、普段は少ないが、大雨が降ると、道を越えて流れ出るほどになる。橋脚部分が流されて、その後、上部構造の床板が流されて終わる。造っても造っても切りがなくて、その財源だけでこの周囲の家は疲弊している。とくに今回の担当している男爵家はコンストリュイール男爵だから、お金がないのさ」
「あんた詳しいな」
そう言うと、男はこそこそと話しかけてくる。
「実は、その貧乏男爵家コンストリュイール男爵家の関係者で、様子を見に来たのだよ」
「ほう」
するとその男は、図々しいことを言い始める。
「どうせ流されるのだから、先ほどの橋を架けてくれないか?」
「幾らで?」
「あー。金はない。この周りで、困っている人を助けると思って」
「しょぼくれて、困っているようなら助けても良かったが、最初っから、人を見下し馬鹿にするような連中を、どうして助けなきゃならん」
そこまで、話したところで、後ろの気配が動き始める。
「亜人がぁ。うだうだ言わずに、造れば良いんだよぉ」
そう言いながら、ぐしゃっと音がする。きっと拳が潰れたのだろう。
今張っているシールドには、反射が付いている。丁度倍返し機能だな。
当然、完全無視して、話を続ける。
「ご覧の通りだ、助けたいと思うのか?」
そう言うと、悩み始める。
「橋を造ってくれれば、夕飯くらいは出そう」
「随分安いな。がんばれ、そのくらいなら払えるんだろ。銅貨数枚で橋を作ってくださいとギルドに発注を出せ」
そう言って、場を離れようとするが、周りを囲まれる。
「亜人のくせに。なめた口ばかり聞きやがって、躾ができてないようだな。持ち主が誰かは知らんが、皆、証言をしてくれ」
そう声をかけて、殴りかかってくる。シールドに。
倍返し機能に、最近俺の代名詞になってきた振動機能を追加する。
どうだ、ブルブルもこれだけ高速なら効くだろう。
衝撃は、そのままの力だが、振動は毎分三千回。
触れた瞬間、妙な感じに相手の腕がくねる。ハンドウェーブみたいだな。
おもしろいから、シールドのこっち側でパントマイムをして遊ぶ。
「殴られたぁ」
ふりだけですが、何か? 状態で揶揄う。
たちの悪かった奴らが、自滅してきた頃。さっき話をしていたトラかな? 話しかけてきた。
「すまなかった。ただ、当家も困っているのは本当なんだ。此処じゃなんだし、家に来て話を聞いてくれないか?」
そう言ってくる。
そのトラを、じっと見る。
うーん。毛がじゃまで、表情は今一だし、微妙に振られている尻尾が怪しい。
だが、暇つぶしに良いだろう。
「分かった。行こう」
「そうか。ではこっちだ」
そう導かれ、付いていく。
少し離れた所に、何やら紋章付きの馬車と従者がおり、彼が乗り込む。
そして、やはり付いて乗り込もうとしたら、従者の手が伸びてくる。
体を半回転させて、従者の手首を持ちそのまま引く。
つんのめったところで、手首を持ったまま従者の頭のほうへ百八十度、力の向きを変える。当然付いてこられず、仰向けに従者は倒れ込む。
引っくり返して、肩関節を決める。
「ぐっ。放せ」
「いきなり掴みに来るとは、どういう了見だ?」
「コンストリュイール家の馬車に、亜人が乗り込もうとするからだ。立場をわきまえろ。半人前め」
「半人前? 半人前ねえ。ひょっとすると、獣人が一人前なのか? それ以外は半人前だと?」
「当たり前だ。言われたことの、半分もまともに仕事ができない。おかしくないだろう」
ブチッときた。
ただ、オロオロしているコンストリュイール男爵家の関係者。名前はまだ無い。いやまだ知らない。
そう言えば、名前を聞いていないな。
「そこの、コンストリュイール男爵家の関係者。名前は?」
そう聞かれて、ビクッとする。
怒りで威圧でも漏れているのかもしれないが、知らん。
「申し遅れました。コンストリュイール家、長男。ヌフ・コンストリュイールと申します」
そう言って、感心することに頭を下げてきた。
少し見直そう。
「先ほど、俺に言ったお願いを、こいつに教えてやってくれ」
「えっ。橋の建造でしょうか?」
「そうだな。あの幅なら五分もあれば造れる。二分半あげよう。一人前のおまえなら造れるだろう。大言壮語だと思うが、言ったことは実行して貰う」
そう言って、右腕を固めたまま、さっきの河原へ戻る。
「喜べ皆。こいつが、わずか二分半で橋を造るそうだ。良かったな」
そう言って、待ち構えている奴らの前に押し出す。
この時、この数日間に受けた扱いのひどさに、思った以上に腹が立っていたようだ。
確かに、受けた仕打ちなど、なあなあで放ったらかし、馬車への乗車を拒否られたら、素直にその場を後にすれば良かった話なのだが、何かに導かれるように怒りに従った。
普段は、そこまで怒りっぽい人間じゃないし『ぼく、わるいにんげんじゃないよ』と言うのが、本来の姿だ。……多分ね。中身はおっさんだし。
でも今は。
「おら。一分経つぞ」
そう言ったら、従者は河原の石を投げつけてきやがった。
その瞬間、周りの奴らは、従者の周りから離れる。
だが、石はシールドに触れた瞬間、砂に変わる。
シールドが、勝手に進化していた。
「おら。あと三十秒」
「できるわけ。……ないだろうがぁ」
叫ぶ、従者。
「おまえ、これから絶対、亜人を馬鹿にするな」
そう言って、イメージを創り上げ。土魔法を発動する。
土を盛り上げ、形を作り石化する。
きちんと、上流から下流に向けて楕円形で水の流れに耐えるようにして、橋脚の基礎部分。地下も岩盤まで石化して固定した。
石材の線膨張係数は覚えていないが、金属に比べて小さかったはずだ。
一応真ん中の橋桁の上で伸縮継手よろしく一センチメートルほど隙間を空ける。むろんズレないようにギザギザだ。
無いと困るだろうから、この世界に存在しているか知らないが、牛若丸用に雅な欄干付き。
「ほら、半人前の亜人が一分ちょっとでできることだ。見たな。じゃあ壊すから」
そう言って、手を振り下ろそうと思ったら、悪意はないから放っておいた、さっきの兄ちゃん。ヌフ・コンストリュイールが、抱きついてきた。
「お願いします。こんな立派な橋。壊さないでください。何卒」
それを見て、従者以外が同じように頭を下げる。
「じゃあな。用事は終わった」
少し、自分のやったことだが、自身の心中でもムカムカしながら、その場を後にしようとしたら、また、ヌフが飛びついてきて、危なくズボンが脱げるところだった。
思わず、張り倒す。
「あんっ」
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