第5話 翼竜は鳥の味。だが、塩か醤油を求む。

 フェザースティックというのは、木を薄くスライスして燃えやすくしたもの。

 物を燃やすのは、いかに酸素と触れさせ、酸化反応を促進するかだ。

 丸太よりは、無論、細かく削った方が燃えやすい。


 火打ち石は、特別では無く。ある程度堅くて角があれば…… 火の粉の元になる鉄が無いな。

 石同士だと、効率が悪い。


 ぽいぽいと、河原で石を投げつけ、火花が飛ぶ物を探すが、火花が弱い。


 他の、火起こし。

 竹でもあれば、ファイヤーピストンが楽だが、きりもみか?


 ファイヤーピストンは、密閉した筒の中でピストンの先にチャークロスなどをくっ付け、何かに叩き付けるなどして、一気に空気を圧縮して圧縮熱を利用して火を付ける道具。よく言われるのは、ディーゼルエンジンと同じ理屈。


 チャークロスは、火口(ほくち)として有名な物で、綿100%の布などが原料で、密閉できる缶に小さな穴を開けて火であぶる。可燃性の白い煙が穴から出なくなるまで燃やす。つまり炭を作る。


 突然の遭難や転生に備えて、サバイバルナイフと一本と、ファイヤースターターと共に持っておくのが良いかもしれない。

 無論。職質時には、全力で言い訳する必要はあるし、転生時に持っていけるかは不明だが。


「どこかにマグネシウムやフェロセリウム(鉄とセリウムの合金)ロッドは落ちてないよなぁ。仕方ない、きりもみか」


 ゴブリンの棍棒が、良い感じの堅さと乾き具合だったので、適当に割って板を作る。打製石器でくさびを作り、木目、年輪に沿って数カ所に打ち込み、棍棒を割っていく。火きりうす。火きりぎねをさす為のへこみと、火口を乗せる溝を尖った石で加工する。火きりぎねに重りを付けて、弾み車を付けても良いが、きりもみで火がつかなければ作ろう。



 弾み車を付ける時には、火きりぎねのてっぺんに紐を付け、火きりゆみという板の端に紐を結ぶ。できあがったものは、火きりぎねから伸びた紐が火きりゆみに結ばれ三角形になる。形状的には相合い傘? それを弾み車という重りを利用して、上下させる。


 火きりぎねをくるくる回すと、火きりゆみは、ねじれた紐に巻き上げられる。

 火きりうすへ火きりぎね。紐の付いていない方を差し込み、火きりゆみを下向けに引き下ろし、紐が伸びきる直前に手の力を抜くと、弾み車のおかげで逆に紐が巻き付き、火きりゆみを引き上げる。

 そしたら、また火きりゆみを下向けに引き下ろす。

 これを繰り返す。


 まあ面倒だから、堅い草の茎を見つけ、火きりうすへ押しつけながら、擦り合わせた。すると、なんと言う事でしょう? 一子相伝の技のおかげか、あっという間に火口代わりの木くずに火がついた。

 あわてて、火に息を吹きかけ火の勢いを増す。

 さっき作った、枯れ草の繊維を石で叩いて細かくした物や、フェザースティック。小枝や細かく割った、ゴブリンの棍棒など、徐々に燃やす物を大きくしていく。


 ある程度火が大きくなったら、火を分けて、さっき作ったシェルター内部も煙で燻しておく。

 虫除けのために普通はするのだが、いるのかな? いやさっき蔓草も襲ってきたからやばいのがいるのかもしれない。用心しよう。


 さっき床に敷いた皮も、肉側からあぶり簡単ななめしをしておく。

 本来は、毛皮の場合、明礬でなめすが、あくまでも簡易だ。



 さてと、さっき大暴れしたウナギと翼竜を少し切り取り炙ってみる。

 火の脇では、粘土で作った土器を乾かしている。

 縄文タイプだから、乾燥したら野焼きで火を入れれば良い。


 そういえば、昼から水を飲んでいないが、全然平気だな。

 なんだ一体?


 思い出したので、壁に近付き湧水を口に含む。

「おおっ。美味い。体にしみていく」

 どうやら、おかしな体だが、必要がなかったわけでは無いようだ。


 異世界だから、生きる為に水が必要ないのではと、一瞬疑ってしまった。

 まあ、普通の水が毒で、モンスターの生き血をすするのが、普通の人間の可能性もあるが、人に会ったら検証しよう。

 人と会って、挨拶がキスなんて言うのも引くな。

 文化はなあ。その土地独特だから。


 そんなしょうもない事を考えながら、炙ったウナギを少量かじり味見する。

「鶏肉っぽい。ササミ?」

 しばらく、自身の様子を見る。口のしびれ、腫れ、かゆみ。すべて無し。


「体調変化なし。よし次」

 翼竜は、無論鶏肉。

「これは、親鳥だな、噛めば噛むほど味が出る」

 絶対塩焼きか、醤油が美味いと思う。


 次の串焼きを用意しつつ、体調の変化を見る。

 吐き気も、痺れも湿疹も無い。

 大丈夫だろう。

「そして、気がつけば夜明けなんだが。全然眠気も無いな」

 絶対、この体おかしいだろう。


 そして、そんなことはさておき、日持ちさせるなら燻製でも作るかと、チップになりそうな木を探すため、また崖の上に飛び上がる。


 木の見た目と匂い。

「あれは、お茶だな」

 木の高さは、四メートルほど。

「持って行きたいが、まだ蒸すのが出来ないから、土器が出来てからだな」

 場所だけ覚える。

 お茶は、新芽だけを摘み、種類によって扱いは変わるが、蒸して揉む。


 さらに歩くと、甘くて良い匂いがする。

 木には、黄色い果実がなっており美味しそうだが??

 近くにいたゴブリン達が、甘い匂いを避けている。

 それに、よく見ると木の周囲、直径五メートルくらい何も生えていない。

 半径、二メートル五十センチ。


「何があるのかな?」


 ゴブリンを捕まえに行く。意外とあっさり捕まえて、足を持って引きずっていく。

 木の方に連れて行くと、周囲に甘い匂いがし始める。すると今まで以上にジタバタがひどくなる。

 もうね。鳴き声が凄く悲痛で、そこだけは許してという感じ。


 でもね、好奇心が勝っちゃった。ごめんね。

 ぽいっと、輪の中に放り込む。

 当然鳴きながら、あわてた感じで、こちらに出てこようとする。

 がっ、あれ?

 動かなくなった。


「あっ。動いたが、そうか。地面から、根っこがまるで虫のように体を食い荒らし。うわぁー、目や口からウニョウニョ出てきた」

 そうなんだ、ゴブリン君ごめんね。でもおれは、この世界の事よく分からないんだ。

 君の犠牲を、僕は忘れないよ。ありがとう。

 心の中で、合掌する。


 そんな事を言ったすぐ後、赤い実が成っている木を発見する。

 この匂い、一緒だよね。


 意識を広げて、ゴブリンさんを見つける。

 速攻で捕まえて、投げる。当然結果は同じ。うにょうにょに中から食われる。

「色違いだけど、匂いが同じだよね。よく分かった。ゴブリン君ありがとう、以下同文」

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