第6話 魔法と新世界創造

 ゴブリンに『ありがとよ』っと、十分な感謝を伝えた後。目的の、チップになりそうな木を探す。


「桜でも何でも良いが、微妙に違う植生が足を引っ張るな」

 絶好調な独り言を言いながら、キョロキョロと木を見ていく。


 さっき見つけた木は、変わった匂いがするから、ちょっと削ろうと思い、大ぶりの磨製石器(ませいせっき)製のナイフを突き立てたら、叫び声を上げて、死んでしまった。

 死んだ姿。見た目は、狐っぽいがなんだろう? 魔物でシェイプシフターとか、言うのもいたなあ。


 そしてしばらく徘徊後、桜を見つけた。


 特徴のある樹皮、そして時期が良かったのか、サクランボが実っている。

 恐る恐るつまんで実を割り、中を見る。見た目は知っているサクランボと同じ。少し食べてみる。

 記憶にある物より、渋く苦い。甘みも薄い。

 まだ熟れていないという感じはしないから、野生種はこんな物なのかもしれない。


 見つけて喜んだ分、残念だ。

 まあ良い、目的はチップ。

「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿と言うが、切らせて貰おう」

 そう言って、ナイフを振り上げると、頭に声が響く。


〈ちょっと待って、切らないでくださいませ〉

 そう言って、目の前に何かが形を作る。


 木を切ろうと思っていたから、木と俺の距離は四十センチメートルほど。

 その間に出てきたから、壁ドンからのキスをするような距離。

 鼻先が触れる。


〈あっ〉

 そう言って、出てきたものが赤くなる。

 いや、こっちも照れるし。何故そこに出てきた?


「美人さんだけど、何者?」

 とりあえず、役得? そのままの態勢で聞いてみる。


〈すみません。私は木を司るもの。あなた様の記憶の中にある、精霊と同様でございます。そしてあなたは、人ではない様子。こんなところで、何をなさっているのでしょうか?〉


 ちょっとまて、人ではない? まあ良いけど。

「燻製を作ろうとして、少し枝を頂こうかと思って」

〈燻製? ああ。理解いたしました。分かりました少しおわけいたしましょう。そのかわり。あなた様の力を少しおわけください。この世界、大樹の力が少し落ちているのでございます。是非、あなた様のお力。少しおわけいただけたら、多少なりとも復活がかなうと思います。よろしくお願いいたします〉

 いきなりの申し込み。

 人間一人の魔力で、どのくらい影響があるのかは不明だが。まあ良いだろう。


「それはいいが、どうやれば良いんだ?」

〈幹に手を触れ。そうでございます。そして、あなた様の体内にある力の流れ、つまり魔力を私に流してくださいませ〉

 よくは分からないが、言われたように、木の幹に手をつく。


 そこまでは良いが、力? 魔力? 魔力があるのか? その流れを外へ?

 ラノベの知識で、ある程度想像は出来るが、出来るかどうかは別物。

 体内の魔力を感じて~ぇ?? えっ、分からない。


 オロオロしていると、彼女が、俺の腕の中で両手に触れてくる。


 そして、おもむろに俺に口づけをしてくる。触れられた両腕と、口。

 触れた口から何かが吹き込まれ、両腕とその三点を巡るように、体の中で何かが流れ始める。

 やがて、手は離されたが、口はそのままで、何か? さっき魔力と言ったよな。魔力の流れが変わっていく。

 手の先へと。


〈ああっ。これは凄い。さすが聖なる力。清浄なる力が、流れ込んでくる〉

 頭に響く声だから、口は関係ないんだな。

 俺はそんな、妙な事に感心をしていた。


 やがて、満足をしたのか、口が離れる。


〈ありがとうございました。おかげさまで、力が回復してまいりました〉

 その時、世界樹の中に、俺からつぎ込まれた魔力を元に、活性化を促すコアが誕生した。大気中から、又は地中から、大量の魔力が世界樹に向けて集まっていく。

 それが、この地に封じられているあるものを強固に封じ直す。

 それは、元いた地球。そこで起こるはずだった未来を、少しだけ変える。

 

 何かの意図が働き、奴を助けて俺を殺した。

 だが、世界の意思が修正を試みたのか、安定の方向へ状況は変化をした。

 無論その時の俺は、そんなことは知らない。

 そして、この樹海自体がやばい土地であることも。


「それは良かった」

 うん。結構ごっそり抜かれたな。


〈それで、お力を頂いて理解をいたしましたが、余所の世界におわす神が、こちらへおいでになったのは、事故? の弾みでしょうか。こちらで何かお困りでしたら、近くの木からお呼びください。私かドリアード達がお手伝いいたします〉


 そう言って、にっこりと微笑む。

「それはありがたい。その時には頼もう」

 未だ、鼻先が触れ合う距離。


〈あの、少し離れていただけると〉

「ああ、すまない」

 今更だよな。まあ良い。


 一歩下がる。

〈これを、お持ちください〉

 そう言って出されたが、桜のチップが、大きな葉っぱに盛られていた。


「ありがとう。ついでに聞くが、魔法ってこの世界にあるの?」

〈はい。ちょっと、あなた様の記憶のような力は、見た事がありませんが、理。火に変化、水に変化、土に変化、空間、光、闇。その辺りは、使えるはずです。さっきの要領で力を出して、変われと念じてください〉

 言われたとおり、手をかざし水になれと考える。


 すると、目の前で水球が出来て、どんどん大きくなっていく。

 止まれ、そして離れろ。


 ええ。そうです。結果ドバーンと一面水浸し。

 自分から、放出された魔力を中心に、水へと変化をして、そこへ周りからも水を集めてしまった。俗に言う、錬金術にイメージが近いかと思う。


〈使えましたね。おめでとうございます〉

 精霊は、にこやかに言ってくれる。

「桜の言う通りだったな」

〈あっ、私の名前でしょうか? 名付け。契約でございますね〉

 そう、彼女が嬉しそうに言った後。彼女の体が、ふわっと光り何かが、繋がった気がする。


〈ありがとうございました。力が、これは素晴らしい〉

 そう言って、彼女はニコニコ顔だが、よく分からない。


 喜んでいるようだから、まあいい。ついでに聞こう。

「この近くに、人が住んでいるところはある? 居るなら、どっちだい?」


〈そうでございますね。近いのは、そちら。逆側にも倍ほども行けば、人の住む集まりがございます〉

 西に行く方が近いらしい、彼女が指し示したのは、真西では無く河口の方。北西だね。


 南東の方は、山越えで倍の距離。

 一択だな。


「分かった、ありがとう」

 そう言って、チップを受け取ったが、葉っぱのお皿に盛られたチップ。

 うん、谷へ着いたときには、すべて無くなっている自信がある。

 崖を降りなきゃいけないし。


 そして、思い浮かべる、異世界定番。亜空間収納。

 異世界なら持っているのが普通。アイテムボックスか、マジックバッグどれかは必ずほしい。


 さっきと同じように、手から魔力を放出しながら、イメージをする。

 目の前にある空間を、ちょっと切り取る。

 そして向こう側に、新たに空間を創る。


 倉庫という、世界。

 頭の中で考えながら、魔力をどんどん放出していく。

 黒い空間が出来て、その奥に光の無い世界が広がり始める。

 ものすごく体から、魔力が持って行かれる。

 状態は、理解できている。

 頭の中では、ちょっとした体育館ほどの広さが見える。

「もう良いか」


 一度、試しに入り口は閉じたが、繋がりは分かる。

 もう一度開いて、チップを一つまみ入れて閉じる。


 再度、世界を繋いで、向こう側へ手を突っ込む。

 すると、その世界にあるものが理解できる。


 それを見ていた桜、木の精霊は目がキラキラ状態で俺を見ている。

〈世界の創造を、始めて目の前で見ました〉

 なんか、感動された。


 さっき、空間魔法はあると言ったよな?

「そんなに凄いことなの?」

〈ええ。今のは、現在ある空間を切り、奥側にあなた様の世界を創造なさった。つまり新たなる世界を創られたという事。さすが。神様でございます〉

 そして桜は真顔だが、目が狂信者。人間の女性なら、私を好きにして状態に見える。


 でも現実、そう思って手を出すと、セクハラと言うワードが降ってくるんだよな。日本は、意外と理不尽で埋め尽くされていたよな。

 そういえば、奥さんと子どもは大丈夫だろうか? 俺がいなくなって…… 悲しんでいるだろう。だけど、保険も出るだろうし、喜んでいたらどうしよう。

 ふと、そんな考えが浮かぶ。神乃 道照、四十八歳。意外と多感なお年頃。


 まあ、目的は達成した。いい加減褒められ、照れくさくなった俺は、桜に礼を言って谷へと帰る事にする。

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