第7話 魔法の練習

 燻製を作りながら、暇つぶしに魔法の練習をする。


 先ずは、玉の系統だよな。属性で玉を創って撃ちだす。

 さっき覚えた感覚で、水を五センチメートルくらいの大きさで玉を創る。

 大きめの岩に向かって、飛んで行き。岩を砕くイメージを与える。

 

 想像通り撃ち出せたが、すぐ目の前。

 一メートル五〇センチメートルも進めば、霧となって霧散してしまう。

「あーうん。水だものな。凍らせよう」

 水を出し、温度を下げる。

 丸いロック用のような氷が簡単に創れた。

 日本でこれが創る事が出来れば、夜な夜なコンビニへ氷を買いに行かなくても良かったのに。非常に残念だ。


「行け!!」

 叫ばなくても良いが、つい叫ぶ。凄いスピードで飛んでいくと、見事に岩にあたる。

 当然氷の方が砕けるが、威力はある。


 今度は、三十センチメートルほどの槍いわゆるニードルとかスピア、ジャベリン系。

 イメージでは正八面体を引き延ばし尖らせたイメージ。仏教で使う独鈷(とこ)みたいな形。

「行け!!」

 かなりの勢いでぶち当たり、砕け散る。

「ほう。使えそうだな」

 思わず。にまにまと顔が笑ってしまう。


 そのほかにも、火とかを試すが、水と同じで消えるし散ける。

 もう少し詰めればいいのだが、氷系がうまく行ったので、つい放り出してしまう。


 だが、しばし考えて、やり方を変えてみた。

 魔力そのものが飛んでいき。対象にあたったときに燃える様にするとか、水になるようにすると、良いのではと思いつく。

 試してみると、意外とうまく行った。もし対人なら、その方が焦ってくれるのではないか? そんな考えも浮かぶ。


 空気中の水分子を凍らせ振動させる。すると摩擦により雷も創れた。

 自然現象で発生するものは、原理さえ理解できれば創れるようだ。


 まあ、こんな事をして覚えたものが、この世界の常識と違っていて、この世界の人たちは詠唱魔法を使っていることを後に知る。

 それを見せて貰うと、きちんと火も水も飛んでいく。

 放出した魔力を、コアとして、変化させながら飛ばすと、大丈夫ということは、その時聞いた、詠唱により理解ができた。

 最初から、全部変化させるから駄目だったようだ。


 本来の魔法は、俺の使っているものだが、物理現象を知らないと使えない。

 昔の偉い人たちが、物理を知らない人間でも使えるように、詠唱として編み出したようだ。そのため、単純に詠唱をしても発動しない。

 詠唱の意味を、覚えるところから始めるようだ。

 魔術師達は学校や弟子入りで、勉強をして魔法を習得していく。そして、その詠唱には、先人の工夫が編み込まれていた。

 

 そしてそれは、魔道具でも同じ。

 魔方陣は、回路図で働きを注釈として書き。その回路に魔石からの魔力を供給すると動作する。


 そして、錬金術もあったが、精錬部分を魔法で行う。

 さすがに、無から物質は創れないようだ。

 ただし、分子量と構造を知らなければと言う注釈がつく。


 さすがに、元素表をすべては覚えてはいないが、記憶にある形と大体の分子量で似たような物質が創れた。ここに来て学校の勉強は大事だと理解をした。



 それはさておき、雷で魚を捕り、錬金術で塩化ナトリウムを創造。

 俺は一人、にまにましながら、塩焼きを頬張る。

 意外と魚影が濃く、大量だったので、塩焼きだの燻製だのを作る。


 塩は酸化マグネシウムを追加し、焼き塩状態にすれば吸湿性が下がるので、後日創ってみよう。


 さっき、物質の創造が出来るとわかり、最初に塩を作り、その後。原子量183.84。タングステンを創造して、おおよそ二千度で炭素と合成。炭化タングステンを作る。


 男なら普通、タングステンやチタンの原子量は記憶している。後マグネシウムを含め、ロマン物質だから必須知識だよね。炭化タングステン、別名タングステンカーバイドは非常に堅く、切削用のドリルやフライス用の刃とかに使われる。

 魔力ごり押しで、人間溶鉱炉を散々汗を流してやってから、炭素の分子量を追加して最初から炭化タングステンを創ればよくね。と、途中で気がつく。


 まあ、目から汗を流しながら、それを元に、サバイバルナイフを作った。

 ブレードが、おおよそ二十五センチメートル、全長は三十八センチメートルくらい。基本形状はドロップポイントで、背には波刃を付けてある。金属糸を編み込んだパラコードをナイフのグリップに巻く。


 できあがったナイフは、昔上映されヒットした映画の主人公が使っていた物に近い。退役軍人が警察官からの理不尽に怒り、山中で戦う映画。


 完全に趣味の世界だけど。もうロマン以外の何物でも無い。

 ナイフを眺めながら、顔に泥で迷彩塗装して敵を倒す自分を想像する。


 異世界の谷底で一人、高笑いをする怪しい男が爆誕した。


 木の精霊。

 桜に魔法を習ったことで、一気に快適になった。

 燻製ができあがれば、人を探しに北西へと向かおう。


 シェルターを中心に、シールドを張り寝ることにする。

 当然酸素透過性で、物理障壁。線状に魔力を伸ばし物体があたると、変形して力をそらすタイプと、思いっきり堅いもの。堅い方には空間の切断部分を固定して魔法に挟み込むタイプも創ってみた。当然何も通さず、長時間だと酸欠一直線になる。気を付けよう。

 普通に使うなら、自分にもダメージが来るので改良する。イメージで網戸。いや、かやだな。確か今でも売っているはず。

 とにかく、目の細かい大きな網をかぶっている感じで周囲に張り巡らして、この世界に来て始めて睡眠を取った。


 

 そして、翌日。

 快適な目覚めと、いやな匂い。

 ウナギと、翼竜から異様な匂いがしていることに気がつく。

 内蔵の処理もせず二日。

 腐るよね。


 少なくとも、昨日処理をして、亜空間収納に入れておけば良かった。


 少し泣きながら、駄目なところを削っていく。

 いや悲しいのと、匂いがね。

 目にしみる。


 翼竜は何とか使えそうな所を収納したが、オオウナギさんは駄目だ。

 魔法の練習がてら燃やしていく。

 すると、凄く良い匂いがする為か、崖の上の方が騒がしくなっていく。


 ゴブリン達と共に、もっと大きな気配。

 そして、お腹がすいているのか、また翼竜さんが一羽。空から滑空してくる。


「ラッキー」

 雷を脳天に打ち込み、今度は一発で倒す。


 そして、崖上の強い気配。

 角も生えているし、あれはオーガ?

 何故か親近感がある? 何故だ。


 オーガは、周りにいたゴブリンやオーク、オオカミっぽい一メートル五十センチ位の集団を蹴散らし、じっとこっちを見つめている。


 オーガさん我慢が出来なくなったのか、崖を必死で降りて来始める。

 良いのか? こっちから狙い放題なんだが。


 かといって、俺のように飛び降りるのは無理なんだろうな。今更ながら、俺の体って一体?


 さて、的が出来たから、昨日試したアイスパレット? いや、アイスニードルだな。

 崖に張り付くオーガさんに向けて、どんどんと撃ち込んでいく。


 だが、わずか三発撃ち込んだら、崖から離れて降ってきた。

「ええい。不甲斐ない奴め!  あっけないものだな。私に出会った不幸を呪うがいい」

 どこかで聞いたことがあるような、そんな理不尽をぼやきながら、落下地点を見に行く。


 近くで見ると、なかなか立派だった。

 体長三メートルくらい。


 体重は重そう。百五十とか二百キログラムくらいは、あるかもしれない。

 まあ頭から落ちて、首が変な方向に向いたから、生きてはいないだろう。


 警戒をして、崖の上を見たが、他は降りてこないようなので、早速作ったナイフを使ってみる。


 魔石の有無の確認の為、胸を正中線で開く。さすが炭化タングステン。胸骨もスカッと切れる。

 ラノベの知識では、心臓近くという事なので、剣状突起部まで一気に開き、開創部をのぞき込む。この時、切りすぎて横隔膜の下、腹腔まで開くと、内臓独特のドブくさい匂いがするのか? そんな興味が湧いて切りたくなったが、思いとどまる。


 心臓の脇と言うより、胸骨の真下に薄い膜に包まれた石があった。

 普通の人間では、見たことがないような管が繋がった袋。

「解剖アトラスでも、こんなものは見たことがないな」

 正中で開いた為、膜と繋がる管を切ってしまったが、胸骨内腔にも蜘蛛の巣状に広がっていたようだ。


 自身の知識との齟齬があり、楽しかったが、さっさと石を取り出す。

 色は赤く、内臓を傷つけない為か、のっぺりした卵形。

 多少扁平だが、動きが速いときには慣性の為に暴れそうだな。

 ひょっとして、さっきの管が支えの役目もあるのか?


 まあ、貰うものは貰ったし、燃えさかるウナギの所へ放り込み、火力を上げる。


 イメージはナフサにナパーム剤を入れ、増粘させたものが燃える感じを魔力に与えて撃ちだした。

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