第10話 旅は道連れ
「生き返った。昨日から何も食べてなくて。ありがとう」
嬉しそうだが、表情は全くわからん。
耳がピコピコと、撥ねているくらいか。
「よし。そうだ。王都まで行きましょ。道案内するし」
「さっき、行ったことがないって、言ってなかったか?」
「そうだけれど、街道を行けば着けるから。さあ行こう」
そう言って、手を引かれる。
そういえば、ウサギも前足は五本指だったよな。
俺の手を引く、手を眺める。
手の平には、ウサギなのに毛が生えておらず、肉球は無いはずなのにぷにぷにしていた。
うーむ。
「そういえばあなた、種族は何? 毛が無いという事は亜人(あじん)でしょ」
「うん? 一応人間のつもりだけど」
「人間? 聞いたことの無い種族ね」
「亜人の人(じん)はなに?」
「人は名残みたい。別の大陸にヒューマンの国があるけれど、その人達の元が人(じん)、人類? という種族みたいよ」
これは何かおかしい。と言うか、言葉遊びのように何か、伝承中に誤った方に伝わったようだ。
そしてひとは、ヒト型生物全般を示す言葉になったと?
「別の大陸という事は、この大陸にはヒューマンとかは居ないのか?」
「いるはずだよ。ここは、国境でエクシチウムの樹海に近いから、人そのものがあまりいないのよ」
何かを思い出しながら、教えてくれる。
「エクシチウムの樹海?」
「うん。別名終焉の樹海と言って、魔の樹海なの。木々も生き物もおかしいって」
「それって、どの辺だ?」
「此処の東に川が流れているけれど、その対岸全部」
まん丸い目で、表情は分からないが教えてくれた。
手は、全部という意味なのだろう。大きく広げられる。
「つまりは、俺がいたところだな。川に近かったから、入り口だったのだろうが」
木々も生き物もおかしいか、確かに。
案内されて、すぐに街道? に到着した。街道という割には、道は細く草が生い茂りはっきり言って、獣道。
「さあ、こっちよ」
言われるまま、付いていく。
後ろから見ると、貫頭衣のお尻に、穴が開けられ丸い尻尾がぽこっと出ている。
彼女の速度に合わせ、よちよち歩いて行くと、道の幅が一八〇センチメートルほどに広がり、右に向かって道が続いている。右の方には、道に荷車の轍のような跡もずっと付いている。
それを見ていると、気がついたのか彼女が説明してくれる。
「此処の奥に村があるけれど、悪いけれど寄らないわよ。一応、説明しないといけないから、私の両親が住んでいる村には寄っていくつもり。ここから、一〇キロメートルくらい先ね」
「分かった。そもそも、宛てのない身。どこでも行くよ」
そう言って、付いていく。
だが前を歩く彼女。どう見ても、着ぐるみっぽい。
つい首元とかにファスナーが無いのか、確認してしまう。
そんなとき、定番。どこにでも湧くゴブリンさん達の来襲。
山側から、五匹。一チームが登場。
それを見た瞬間。彼女は、果敢に突っ込んでいく。
そして、一般人なら、見えないような速度でダッシュ。
右回し蹴り一つで、ゴブリンの首が折れる。
そして、蹴り足が地面に突いた瞬間、すぐに跳ね上がり、横にいたゴブリンの頭頂部に踵がめり込む。まるで躰道(たいどう)のような動きだ。
別の個体に、足払いから、当て身。
変幻自在な動きに、ゴブリン達はついて行けず。あっという間に倒されていく。
「凄いな。チャチャ」
俺が褒めると、むふぅ。という感じで胸を張っている。
「どう凄いでしょ。この村は、基本国境の村だから、定期的に戦闘訓練とモンスター退治があるのよ。クロマルがサボるから、私が参加してかなり強くなったわ」
話はしながら、確認をして、ゴブリンにとどめは刺していく。
「じゃあ、次も頼む」
俺が指を指す先には、五匹のシルバーの毛をしたオオカミたち。
どれも、一メートル五〇センチ級。さっきのゴブリン達を追いかけていたのかもしれない。
どうもこいつら、種族的にゴブリン退治を、楽しんでいる雰囲気がある。
「へっ。あれは、フォレストウルフ。何か武器が無いと無理」
そう言ってへたり込むので、俺が魔法で倒す。
各個体へ、横並びに三発ずつ、尖った氷を撃ちだす。
下がることはできない様で、前に来るか、躰を翻す。
当然、躰を翻したオオカミには、グサッと氷が刺さることになる。
前に進み、攻撃を躱してきたのは二匹。
一度脇を抜けるようなフェイントから、飛び上がりこちらに噛みついてきた奴を、超振動パンチで倒す。
もう一匹も、突っ込んで来ようとしたのが、ピタッと止まり。いきなり身を翻して、逃げようとし始める。
無論そんな奴は、魔法で終わりだ。
敵に背、いやオオカミだから、もっと悪い。
尻をまくった状態だな。
何かに使えるか使えないのか知らないが、オオカミは冷凍して、収納する。
「ほえっ。何今の?」
まあるい目が、さらに見開かれている。
「フォレストウルフなんだろ?」
そしてすぐ、馬鹿じゃ無いあんたという顔になる。
表情は無いが、雰囲気でなんとなく分かる。
「そんなことは、知っているわよ。倒した技のことを聞いているのよ」
「魔法だよ。多分」
「あれが魔法なんだ。初めて見た。だとしたら、あなたどこかの偉い人の子どもなんだね」
右手を顎に当て、ほへーという感じなんだろう。なんとなくそう言う仕草に見える。
「そうなのか?」
「うん。魔法っていうのは、先生につくか学校に行って、習わないと使えないものって聞いたから」
「ふーん。誰か詳しい人がいるんだ?」
「うん。訓練のときに、来た先生が言っていたの。軍から指導の為に来るからね」
「へえ。軍か」
その後も、定期的に出てくるゴブリン達を倒しながら、次の村。
チャチャの生まれ故郷。デインド村に到着する。
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