第11話 デインド村

「ここは、街道脇に村があるんだな」

「あーうん。昔はもっと奥だったけど、順に開拓をしてこっちまで来たの」

 チャチャ情報を貰う。


 村は、畑が広がり、のどかな感じ。

 奥には、山が迫っているし、あまり大規模ではないようだが、人もそこそこ居るようだ。村の中には、家が点在。畑作業をしている人たちもいる。

 ただ、みんながぬいぐるみ。


 ウサギだけでは無く、犬や猫が居ると感心をしていたら、チャチャから情報が入る。犬や猫だけでは無く虎や狼が、混ざっているそうだ。

 見た目では、あまり違いが分からない。


 成人になった時、狼や虎は体つきが多少大きいようだが、個体差がある為はっきりは言えない。『毛の違いや顎の長さで判断してね』と言われた。

 うん。虎はなんとなく分かる。

 だが、犬と狼はどう見ても分からない。

 後、今は外に出ていないようだが、狐とかもいるようだ。


「あそこの家が、うちの家」

 指をさした先にある家は、少し大きめ。


 腰の辺りまでは石組みで、その上は木で組まれていた。

 屋根まで木の板。

 モンスターが来る為、こういう造りなのだろうか?

 気になって見回すと、一応村の周囲にも柵は作ってあるが、普通の獣よけ程度だ。


「お父さん、お母さんただいま」

 そう言って、ドアをノックする。

 すると、ドアに付いた小窓がパカッと開き。中から顔が覗く。

 チャチャを見て嬉しそうな顔となり、俺を見て、怪訝そうな顔になる。


 なんとなく、ウサギの表情が分かる様になってきた。そんな気がする。


 顔を見せたのはお母さんらしく、中へ入ると、お父さんが、暗い中で槍をこちらに向けていた。

 槍の穂先は、青銅製かな?


「お父さん。何をしているの?」

 チャチャが聞いても答えず。逆に聞いてきた。


「なんだおまえは? チャチャとはどういう関係だ?」

 そう聞かれても困る。


「俺はよく分からないが、森の中で迷っていて、その前の記憶が無い。娘さんには森の中で出会って、腹が減ったと請われたから魚を与えて、その後は道案内をしてくれるようだが。まあそんな感じ?」

 そう言うと、お父さんの顔。嬉しそう? いや羨ましい? そんな顔に見える。


「魚は、まだあるのか?」

 そう聞かれて一瞬固まる。

 なんだこいつら、いきなり魚の無心。


 ふと気がつけば、全員がこっちを見つめている。


 その眼力に負け、一本ずつ渡す。

 何故かというのも愚問だな、チャチャにも渡す。

 するとありがとうも無く。無言で、トウモロコシ食いで食い始める。


 何とも言えない光景。

 でっかいウサギが、三羽輪になって、薄暗い家の中で魚を無言でかじる。そんなシュールな光景。

 つい後ずさり、玄関へと向かう。


 街道は分かったし、王都まで行くのなら案内は必要ないよな。自身の中で情報を反芻する。


 後ろ手で、ドアを開ける。

 ガツッと音がして、開かない。

 そっと振り返ると、打掛鍵が刺さっていた。

 なんてこったい。


 打掛鍵は棒を回転させて溝に入れる簡単構造。そっと、バーを回転させてフリーにする。

 鍵は解除した。


 そして、振り返ると、奴らがすぐ目の前に。

「ひぃぃっ」

「どちらへ?」

 串を持ったウサギが、すぐ後ろに立っていた。

 いや気配、それに音。なぜないんだ? 感知できなかった。


「いやまあ。親子で話しも必要かと思いまして、ちょっと外にいましゅのぜ」

 げっ、早口で言い訳しようとしたら、舌を噛んだ。


「うん? ああそうだった。向こうから、絶縁の札を貰ったから、王都にでも行ってみる」

 チャチャが、村に寄った本題を報告する。


「そうか、気を付けてな」

 いや、あっさりしすぎ。

 娘より、手に持った串を悲しそうに見ているお父さん。


「気を付けてね。でもこの方、亜人よね。それも種族違いみたいだし、子どもは出来ないかもしれないわよ」

 いやお母さん。重要そうだが、あまり必要の無い情報をありがとう。

 さすがに、モロにウサギさんと、何かをする気は起こらない。

 せめて、ケモ耳程度でお願いします。


「お母さん。俺たちそんな関係じゃ無いし。単に王都まで行くだけですし」

 勘違いされてもなんなので、言い訳をしておく。


「そうなの? 魚取り上手そうだし、この人なら便利そうなのに」

 どんだけ、魚好きなんだよ。それに異世界に来てまで、便利そうな人頂きました。


 桜チップが乗っていた葉っぱだけを取り出して、その上に塩焼きを各自三本ずつ取り出す。

 それをテーブルにのせると、三羽とも目が釘付けになっている。


「それでは。またご縁がありましたら」

 そう宣言をして、そそくさと玄関へ向かう。


 すると、チャチャが素早く串を二本持ち、こちらに走ってくる。


「じゃあ、お父さんお母さん。行ってくるね」

 そう言ったが、両親はチャチャのことよりも、奇数になってしまった塩焼き串で、血の涙をこぼしそうだ。

 仕方ないので、もう一本出す。


 そして今度こそ、家を出た。


 当然横では、チャチャが魚に食いついている。


 しかし、こいつがくっ付いてくるなら、魚を捕っておいた方が良いのかな?

 まあ行く途中にも、川ぐらいあるだろう。


 そうして、やっと本当に旅に出た。


 だが。

「道照。トイレ。ちょっと待っていて」

「はいはい」


 ずっとこの状態。急に食い過ぎたんだよ。

 一応周辺を警戒しておく。

 うん? 何かちっこいのがいる。


 見ると、角が生えたウサギが、こっちを見ている。

「こいつは一体?」

 モンスターか、動物か、獣人の子どもでは無いよなあ? 服は着ていないし。


「これって有名な、角ウサギかなぁ。本当にいたのか?」

 ふと思い出して、首の後ろを捕まえていると、ぶんぶんと頭を振り、人に角を刺そうと暴れまくる。

 どうしようかと思って悩んでいると、とうとうピーピーキューキューと泣きそうな声で鳴き始めた。


 その声を聞きつけたのか、あわててチャチャが戻ってきた。

「何をしているのぉ? 角ウサギを鳴かしちゃ駄目ぇ」

 あわてた感じで叫んでいる。凄く焦っているが、どうしたんだ?

 

 すると、周囲に角ウサギの気配が、一気に膨らんだ。


「来ちゃったぁ」

 チャチャが、頭を抱え蹲る。


 そして、周囲から聞こえ始める軍団の行進音。

 ザシザシ、ダンダン!と、ウサギたちが飛んでは、足を踏みならす。

 全方位から、わらわらと集まりやってくる。


『かわいい子を泣かしたのは、どこのどいつだぁ』

 そんな感じで、飛んでは、足を踏みならし、四方八方からその包囲が狭まってくる。

 いや、この角ウサギ、凄く目付きが悪いんですが。

 手元の、角ウサギはおとなしくなったが。

『謝るんなら今のうちやでぇ。まあ、謝っても許さへんけどなぁ』

 そんな感じに見える。


 知らないうちに、新能力。

 ウサギの表情解析でも、取得をしたのだろうか?

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