第3話 対ゴブリン。初勝利。それは良いが……


「これは、モンスター? 俺は一体? ここは、どうなっているんだ?」


 記憶を失った主人公。当然訳も分からず困惑する。少し前までは、よく分からないがここは日本だろうと思っていた。


 性格の悪い神を逆に脅し、力を奪い。三日三晩掛けて、説教しながら創り上げた体。普通に戦えば勝てるが、何も知らない普通の日本人状態。


 無論。ゴブリンが、

「グギャ」

 と言うだけで、ビビってしまう。


 ただ着ている服も、耐物理の特性を持っているし、耐魔法も掛かっている。オーバテクノロジーでは無くオーパーツな部類。文字通り神装備。


 だが、そんなことは覚えていない。

 ゴブリンを腕の間からこそっと見ながら、両手で頭を防御している、ヘタレな主人公。

 神乃 道照(かみの みちてる)。

 享年48歳。今の肉体年齢十五歳くらい。非童貞。相手は、マガツヒ。


 体を改造中。『そんなもの、受け入れられる相手がおらんじゃろ』と事もあろうにマガツヒに馬鹿にされ、ものを大きくするのは諦め。毎分一万もの振動機能を付けたときに、お試しで食われた。当然俺は、体に入っていないので感覚は無い。

 使用感は、天にも昇る感じだそうだ。

 ちなみに、両手も毎分三千回振動出来る。


 それはさておき、現状両者のにらみ合い。

 緊張からか、汗が目に入ったその刹那、向かって右端のゴブリンが動いた。

 道照は、腕で頭をカバーして縮こまっていたが、無意識に右手が動く。


 ゴブリンの頭に、拳が触れた瞬間。その拳から振動が発せられゴブリンの全身へと広がっていく。

 全身の穴という穴から血が噴き出し、ゴブリンは白目をむき倒れ込む。


 道照は気がつく。

「これは、一子相伝の必殺技」

 昔読んでから、丁度中学一年から二年の時に、憧れて試した技。

 己が拳を、相手に触れた瞬間に振動させる奥義。

 誰も逃れることは出来ない。


 その事に気がついた時点で、有頂天。

 まるで自分が、主人公になったように振るまい始める。主人公だけど。

 

 さっきとは打って変わり、

「おらこいよ」

 手招きして、目の前に居る一匹に集中。


 緊迫した空気。

「グギャ」

 目の前の、ゴブリンが叫ぶ。


 そして、後ろから来た二匹に、たこ殴りされる。

「ちょ待て、痛て痛て痛て」

 振り返り、一匹を殴る。

 その間に、他の奴らも参戦。

 思う存分ゴブリン達に殴られる。だが、気がつく。痛みはあるが、大したことはない。

 

 それに気がつき、ボコボコされながら、体を確認。ダメージは無い。

 他の物語なら、『異世界転生。した瞬間に人生終わりました』とタイトルがつきそうな状態。


 頭を抱えて、しゃがみ込んでいた道照だが、殴ってくるのを、無視して立ち上がる。ゴブリンの囲みが、少し警戒したのか広がる。

「痛えな」

 ペキペキと指を鳴らしながら、ゴブリンに向かい。距離を詰めていく。

 同じく一子相伝だが、某世紀末覇者に変更したようだ。


「うわたぁ」

 奇声をを上げながら、棍棒ごとゴブリンを殴る。


 そして蹴り。脇にいた奴に肘。そしてまた蹴り。

 最後は超振動の、右ストレート。

「ほああぁぁ」

 右手をつきだしたまま、余韻に浸る。


 そして、構えを解く。

 周りには、倒れ伏したゴブリン達。

「あー調子に乗って、殺しちゃった。でもこれモンスターだよな」

 ツンツンと突っついて、死んでいるのを確認する。


 薪になりそうなので、棍棒は回収。

 一瞬、魔石があるのか気になったが、ナイフもないので諦めた。


 そして、死体を気にしながらも、再び道なき道を歩き始める。


 だがまあ、ゴブリン達は多いのか、幾度も襲ってくる。

 そのたびに、後ろを取られて殴られるので警戒していると、なんとなく気配が分かる様になってきた。


 無論、森を歩きながら、どの辺りに奴らがいるかも、理解ができるようになってくる。

 そして、水場が見つからないまま日が暮れる。

 腹が減り、喉も渇いたが意外と平気。


 一応、警戒の為。木の上に這い上がり寝るかと考える。


「この木で良いか」

 選んだのは、枝がついている場所まで、地面から二メートルちょっと。

 直径は四十センチメートルくらい。

 日本では見たことのない種類で、広葉樹のようだが、こんもりと木のような木。

 おもしろい事に、一番下の枝は、幹を挟んで両側に伸びている。


 ただ、妙な気配と、顔のように見えるうろが、二メートルくらいの所にあること。

 ラノベの知識から、あるものを思い出し、まさかねなどと考えていると、地面から木の棘。実際は根っこだが、道照の股間を直撃。


 そのまま、五メートルくらいの高さまで跳ね上がる。

 服の防御が無ければ、新しい世界を開くと同時に、人生が終わるところだった。


 驚いたが、ストンと問題なく地面へ降り立ち、木の幹に対し超振動のボディブローをたたき込む。

 木なので、動きは無かったが、バサッと葉が落ちて、何故か嫌がらせのようにこっちに向けて倒れ込んでくる。


「どわぁー」

 あわてて避ける。

 その時に、自身の体がおかしいことに気がつく。

 地面は、逃げようとした反応で発生した蹴り、つまり、走り始めの踏み込みで大きくえぐれて足が滑る。すぐに右足を出し、体重を支えてそのまま伸び上がる。


 無論地面は陥没したが、さっき突き上げられた高さ、五メートルを簡単に越えた。

「あれー。この世界もおかしいけれど、俺の体もおかしいぞ?」

 上昇しながら、くるりと見回し、周辺の地形を確認する。


 目的方向。つまり南は、やはり山。

 そして、移動していた森の脇、西側には川が南北に流れていた。

 山脈に沿って東西に、ずっと続く森。


 そして正面には…… 俺に気がついたのだろう。

 体長が十五メートルくらいありそうな、鳥と言うより翼竜ぽい生き物。

 鳥っぽいのに夜目が利くらしい。

 そういう自分も、視界から色は無くなったが、かなり明るく見えている。

 

 やっと上昇が止まり、落下を始める。

 体感、飛び上がった高さは、百メートル近い気がする。

 そして、早く落ちないと、嬉しそうに、奴が来る。

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