異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり

第一章 始まりとサバイバル

第1話 ある日の出来事

 親戚の葬式があり、新東名を横浜に向けて走っていた。

 快適なトンネル。


 視線の先、緩く曲がった先で前走の車が踏んだのだろう。トンネルの壁に反射する赤色の灯火。その光が目に入る。


 ブレーキを踏み減速。

 見えてきた大型トラックの後ろに、ハザードを付け停車。


 やはり渋滞。

「まいったな。まあ時間はある」

 そう言って、ため息をつく。


 その時俺は、すぐに気がつかなかったが、減速も無く後ろから迫るライト。

 光に照らされ、気がついた次の瞬間。ドンという衝撃と、開く エアバッグ。

 だが、その刹那に見えた、前方から迫ってくるトラックの荷台。

 車はトラックの荷台下へと潜り込み、俺は、意識を手放した。


「…………」


 そして、ふと気がつく。

 痛みは無い。俺は立ったまま、気絶していたのか?

 周りを見回す。


 永遠に続く白い通路と、左右に無数に浮かぶ球状の宇宙? そして、通路上に雑然と積まれた紙。ここだけ、円形に通路が広くなっている。


 ふと見ると、傍らには机や椅子まである。


 そして、気がついてはいたが、完全に無視していた、ある者。

 立ち尽くす、俺の目の前で、土下座をしている女の子?

 仕方が無い。声をかけよう。


「君は?」

 土下座のまま、反論が来る。

「いえ、そこは、君の名は? と問うべきでは?」

「拘るところ、そこ? それじゃあ、君の名は?」

「名乗るほどの名前ではありません。どうぞ、馬鹿でも屑でもお好きなように呼んでください」

 うーん。ちょっと面倒かも。


 くじけず、聞いてみる。

「此処はどこで、その…… お馬鹿さんは何をしているの?」

「ここは天界。その中にある管理部門通路。時空の狭間です。本来、あなたのような下等な魂が、来られるような所ではありません。心して堪能ください。無論、ここから出たら、記憶は消えますけどね。ククッ」


 つい、自身のこめかみをぐりぐりとマッサージする。

 何故だろう。

 そんな性癖は無いが、目の前で地面についている頭を、思いっきり踏みにじりたくなったぞ。


 すると、考えただけで伝わったようだ。

「それはちょっと。おやめください。お詫びとして、別の世界への転移と幾ばくかの力を与えます。ただまあ、基本の魂が貧相なので、あまり与えられる力も無いのですがね。残念ですが、自身のしょぼさを悔やんでください」


 それを聞いて、思わず、踏んでしまった。

 彼女の頭を。


「おっ、おやめください。何でもしますから? 霊体状態で、攻撃が通っている。私の力が弱くなっていく。ああっ、なんて言うことなの? 今の攻撃で、私の魂が削られた。恒河沙(ごうがしゃ)分の一も、力を持って行かれた。なんと言うこと、また修行をしなければ」

 そう言いながら、手だけがバタバタとしている。


 何故だろう、足を離したくない。

 気がついたが、どんどん力が、体に流れ込んでくる。


「ええい。やめろというのに」

 そう言って、女の子が立ち上がる。

 顔は半泣きで、さらに、俺を見て驚いている。


「げっ、魂の器が広がっている。普通の生物の限界を超えて。なんと言うことなの。また、ミスが一つ増えた。どんどん徳が減っていく。………… まあ良いか。それで、私は、マガツヒ」

 一瞬、俺を見てガーンという、驚きの表情だったが、すんと表情が無くなり、自己紹介してくる。


「これはご丁寧に。私は」

 そこまで言うと、ぶった切り介入。

「ああ、そんなのは良いから。そんなショボいことより。困ったわね。あんたが、私から力を奪ったから、元の体を修理して使うのが厳しくなったわ。手間が増えたじゃ無い。これじゃあ、転移じゃ無く転生じゃ無い。それも、高位の存在になったから赤ん坊からも無理だし、岩から生まれてみる? 母なる大地ね。うぷぷ。まあいいわ」

 そんなことを、言いながら周りをクルクル回り出す。


「それ用の体を作って、面倒ね。分からないだろうから、そのままで、まあどうせ元の体じゃ、行った瞬間に死ぬから直さなくても同じ? でも変に高位の魂が向こうの輪廻に紛れ込むのもいやね。どうしよう」

 そう言って、あんたのせいで面倒になったと、言わんばかりの目でこちらを見る。なんだっけ? マラ○ヒ? 


「なあ、あんた。さっきから、訳の分からないことを言っているが、適当に向こうへ送って、俺を殺そうとしているよな」

 そう言うと、ピタッと動きが止まる。


「いいえ、そんなことは申し上げておりませぬ。あなた様の勘違いでありませぬか、でございます」

 変な言葉を使いながら、汗だらだら状態。良くあるよね。


「先ずは、報連相。ディスカッションをしよう。双方納得出来るまでな」

 そう言って、にっこりと微笑む。俺。

 露骨にいやそうな顔をする、女の子。

 首根っこを捕まえて、見えている椅子に座らせる。


「先ずは、土下座の理由からだ。吐け」

 おっ、またパワーアップした。どんだけ弱いんだ?


「えー毎度。馬鹿馬鹿しいお話を一つ。ちょっとしたミスでしたぁ。すみません」

 そう言って、土下座に戻る。

 思わず踏む。そして魂の階位が上がった。

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