く
「じゃあ、両手に花? 羨ましいっす」
「言い方の問題じゃない」
「〜っす」という言い方が特徴の諫早さん……男子で一年のようなので、諫早くん、でしょうか。彼はとにかく伸也先輩に食いついていました。
私も負けていられません。
「じゃあ、ギャルゲーの主人公ですね」
「だから言い方の問題じゃない! っていうかなんで諫早とそこの手芸調理部員は張り合ってんの?」
「そうだぞ。張り合ってどうする?」
伸也先輩とくまくんからのダブルツッコミいただきました。
まあ、くまくんの方はいいとして……問題は伸也先輩です。台本書きができるなら、この一件は全て伸也先輩に押し付けてしまえば解決するのでは?
呉服副部長も同じ考えのようで、無意識っぽいですが、伸也先輩を囃します。
「そんなに心配なら中学時代のあれを部員たちに見てもらえばいいじゃないですか。部員の総意となったら、いくら貴方が副部長でも抗えないはずです」
「あ、見られるんすか? 見られるんすか?」
「諫早、五月蝿い」
呉服副部長、大胆な作戦ですね。他意がなさそうですが。
「ああ、もうわかった、わかったよ。過去のやつは見せるな。今の俺の腕前がどれくらいかお前らに見せてやれば、俺がやらなくても良くなるだろー」
「大した自信だな」
「それ自信って言わなくないか」
くまくんナイスツッコミ。けれど他の人に聞こえないのが痛いところです。
挑戦(?)を吹っ掛けた伸也先輩は早速ノートを出しました。皆さんお馴染みの大学ノートです。
「えっ、今から?」
「何か駄目かよ?」
「今からで書けるのが最早才能」
「ほざいてろ」
口が悪いですねー。のんびり口調の先輩はどこに行ったんでしょー。
「お前に移ってる」
わざとですー。
「キャラ崩壊」
いいですか、物語の中で主人公というものは書き手の手によって如何様にでも人格は変わりますし、キャラなんて最初と最後じゃ全然違うんですからね。
そして私は今正に人生という名の物語の中心に立っているんです。
「突然中二出すのやめ」
「あれ、日隈さんまた拳掲げて」
「蚊の気配がして」
「あら、そうですか」
呉服副部長は楽でいいですね。いちいち突っ込んでこないので。
「なんだよ、俺のツッコミがうざいとでも思ってんのか?」
いえいえ、そんなことは。……って、何床にのの字書いていじけてるんですか。ショタですか、可愛いですか。
「やっぱお前ってしょたこ」
だんっ。
「? 日隈さん、いきなり床を踏みつけてどうしたの?」
「いえ、なんだかGのつく生き物の気配がして」
「あら、そうですか」
「そこは突っ込もうよ、渚」
「コオロギかしら」
「それGじゃなくてC!」
コオロギは英語で"cricket"です。皆さんもよく覚えておきましょう。ちなみに皆さんがよくGという生き物は"cockroach"です。GではなくCなんですね。驚きです。
「お前は一体何の解説してるんだ。つうか足避けろ」
あ、くまくんことツッコミを踏んづけたままでした。私はさりげなく足を避けま……んん?
くまくんの姿が見えます。
くまくんにこっそり問いかけます。
「くまくん、姿戻ってます?」
「んあ? お前に見えてるんなら、霊力が回復したってことじゃね?」
なんとなくだけど、よかったですー! マジもんのエアー友達と話している気分で嫌だったんですよ。
「おいおい」
久々のくまくんのじと目。うん、なんか安心。
「s」
べちん。
「日隈さん、宙を薙いでどうしたんですか?」
「ツッコミの練習です」
「いや、ツッコミなら斜め手でしょ」
「某雄叫び系ツッコミの真似です」
「ああ、それなら納得」
「納得するな! 俺まだsの発音しかしてないのに打たれたんだぞ!」
ああ、そんなに怒鳴っても辺りには聞こえないくまくんの声。あはれなり。
「風情もくそもあるか!」
姿も復活、ツッコミも健在。よきかな。
「流すな!」
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